エストロゲンとコレステロール及び動脈硬化




閉経後女性には成人病が急増します。月経のある期間つまり、妊娠する可能性があるうちはエストロゲンが女性を守ってくれていて、男性よりもずっと成人病に罹るひとが少ないのですが、上のグラフにあるように閉経を迎えた途端にコレステロールが高くなる人が増えだし、男性に一気に追いつき、追い越します。それは動脈硬化、高血圧、狭心症、心筋梗塞、脳血管障害そして老人性痴呆にも結びつきます。動脈硬化の大きな原因となるものはコレステロール。これが高くなる高脂血症になれば、その程度に見事に比例して心血管系疾患が増加します。なぜ、閉経後コレステロールが増加するのでしょう。それはこれまでコレステロールをおさえてきたエストロゲンが出なくなるからです。ところで、コレステロールに善玉と悪玉があり、善玉コレステロール(HDL)は血管から余分なコレステロールを運び出し、血管をきれいにする働きがあります。もう一方の悪玉コレステロール(LDL)は血管の壁に入り込み、余分なコレステロールを付着され、動脈硬化をおこします。エストロゲンは善玉を増やし、悪玉を減らすという理想的なかたちでまた、LDLの抗酸化作用も確認されています。そのほかにエストロゲンには動脈壁への直接効果(弾性化、一酸化窒素NOによる血管拡張, LP(a)の低下作用 )、赤血球変形能改善効果など末梢での血行改善効果も証明されており、今後の高齢化社会の予防医学として、一番注目されています。

下のグラフはHRT施行者が心臓病になりにくいというデータです。NO(一酸化窒素)に関しては北大循環器内科の佐久間先生の文献を参考にさせてもらいました。




★さて、実際当院で行った脂質検査では(使用前平均値…使用後6か月平均値)
総コレステロール-TC、善玉-HDL、悪玉-LDL、中性脂肪-TG
善玉は上がった方が良い。他は下がった方が良い。
プレマリン群(N=102,平均年齢54才)TC214±30.5…191±27.6(P<0.01),HDL63±13.6…70±16.1(P<0.01),LDL125±29.5…95±26.3(P<0.01),TG125±62.4…132±56.4(NS)
エストラダーム群(N=40,平均年齢52才)TC203±34.4…192±30.7(P<0.01),HDL64±12…67.2±14.5(NS),LDL111±35.5…110±29.1(NS),TG129±64.2…120±56.8(NS)
エストリオール群(N=74,平均年齢64才)TC203±28.9…199±24.8(NS),HDL61.2±15.2…64.6±15.1(P<0.01),LDL115±25.8…107±23.9(P<0.01),TG131±68.2…138±76.1(NS)
というように各群でt検定上も明らかに脂質改善がみられました。プレマリン群で総コレステロール値10〜15%の低下し、HDLは10〜15%上昇という報告が多いです。


エストロゲンは中性脂肪は少し上昇させます。しかし、黄体ホルモンがその上昇を抑えるといわれています。(コレステロールに関しては黄体ホルモンは少し上昇させますが、HRT全体としては確実にコレステロールを低下させます。)当院のデータもそれを支持しています。
エストリオール製剤はそのホルモン作用の弱さから、コレステロールを下げる作用は弱いようです。
★エストロゲンの効果は脂質代謝のみではなく、血液の流れや血管壁の柔軟性など他の効果が続々と報告されてきています。
★ただ、女性ホルモン剤はエスロトゲンも黄体ホルモンも凝固亢進作用があり、日本人ではまれですが血栓症を引き起こすことがあると言われています。
★高脂血症の治療で最も使用されているスタチン系(HMG-CoA還元酵素阻害剤)との併用でいっそう効果が上がることが分かっています。併用でお互いの利点を補うからです。LP(a)はスタチン系では低下できないが、エストロゲンでは約30%低下すると報告されています。

AHA(American Heart Association)米国心臓協会による
心血管系疾患一次予防のためのガイドライン
http://www.americanheart.org/Scientific/statements/1997/059701.html


  米国ではこの他二次予防でもエストロゲンがガイドラインの重要項目に載り、重視されているが、
日本では今ひとつ啓蒙が足りない。


AHA/ACC合意声明1999では
 注)エストロゲンは閉経後女性における選択肢であるが、治療については他の健康に関するリスクを考慮して個別に対応がなされるべきである。

と何にでもエストロゲンというトーンは少し下がってきてはいるが、米国ではHRTが重視されていることは確かですが、

 2002.7月米国の大規模調査から心疾患・脳血管疾患にはエストロゲンはかえって悪い効果があると調査報告されました。この調査では高齢者にも50才にも同じホルモン量を投与しており、調査自体に問題もありますが、今後は長期使用にあたっては十分な検査が必要です。

 
今までの高齢者医療は、老人になれば男女ともに体は同じだという仮定で、男性対象の研究を元にした治療が行われてきました。
 しかし、これには最近内科医からも異論が出てきてます。Gender Specific Medicine(性により、違う医療)
 近い将来、同じ生活習慣病でも男女で治療法が違うことあり得ると予想されています。
 それほど男女は違うのです。

 当院の動脈硬化測定の機器
血流伝播速度測定器 PWV



★当院ではつよい血管狭窄が上記機器フォルムPWVで疑われる場合にはホルモン治療は選択しておりません。
★ホルモン治療前後でPWVを測定しておりますが、今までのところ使用後のほうが良い効果が出ています。後日に結果報告

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