20回【さっぽろ下田塾】平成151024

 

 今月の22日から土用です。必ず季節は意識してくださいね。何度もこの話はしますが、土用というのは土(脾)が用いられるから土用なのです。脾が何のために用いられるかというと、次の季節の主たる臓器に栄養を送るために用いられせっせと働くのです。だから10月の土用は当然、腎に栄養を新しく送るためにせっせと脾が働く時なのです。土用に入ったら、必ず注意深く患者さんを診てください。聞いてください。

だいたい土用を境目として、それまでと違うことを訴える方が必ず出てきます。今回の土用で、私のところではもう何人かいますね。23日前から急に調子がよくなったという人も実はいるのですが、逆に急に調子が悪くなったという人がいます。土用というのは結構劇的です。どちらかに変わってきます。急に調子がよくなってきた人は、どういう人かというと、実は、今年は太陰肺の人なのです。振り返って言えば、今年は太陰肺の人は、秋の肺の支配の時期に非常に調子が悪かったのです。たぶん夏の異常気象のせいだと思います。

いつも言うように夏場、太陽のエネルギーを十分吸収できていないと、脾の営血の方は養えるのですが、衛気はやはりかなり気象条件が影響するので、十分に養えないのです。本来、暑くならなければいけないときに暑くならなかったので、真夏の時期は少陰の方が、調子が悪かったのですね。夏は少陰の心の人が、調子が悪かったのですが、少陰腎の人もやはりその影響であまり調子がよくなかったのです。秋になったらこれらの人はそうでもなくなりました。そのかわり太陰の方がめっきりまいってきていました。リウマチの方なども非常に痛みが強かったし、喘息の方というのも、結構喘鳴発作を起こしたり、いろいろなことがありました。

脾は太陰経だから、肺が全面的に負担が軽くなるわけではないのですが、やはり主気が脾の方に移ってから肺の負担は軽くなってきたのですね。肺の人は調子よくなってきました。ところが、この影響がまたしばらく続くのかもしれません。脾も働こうとしても、十分夏場のエネルギーを受けていませんから、やはりちょっと調子が悪いのです。普通土用は、春の土用よりは夏の土用の方が症状を強く出すことが多いのですが、結構秋の土用も症状を出します。

いつも言うように脾のガードが緩むと衝脈の発作を起こします。今の時期にパニック障害だとか、喘息発作だとかを起こしてくる人は、もともとあまり脾の働きがよくなかった人です。だからこれを過ぎて、腎の支配に入ったら、また腎の人が今年は調子が悪くなるのかなという目で見ていますけれども、もうしばらく経たないと解らないですね。

 ただ、いずれにせよ、この土用の2週間と、この後の立冬からの2週間は、一番脈診ができるときなので、と言うよりも冬に入る前に脈診ができる最後のチャンスなので、一生懸命やってください。それを過ぎると脈診はほとんど当てにならなくなります。一緒にやった方は解ると思いますが、冬場は私も脈診をよく間違えます。ちょっと自分でも自信がないですね。

 これも何度も言ったように、春の脈はわき出す脈、夏の脈はとうとうと流れる脈、秋の脈は流れから潜っていきます。だからその脈の特徴を案外とらえやすいのですね。ところが冬の脈は潜ってしまう脈なのです。すべての脈が潜ってしまうと、非常に診断が難しくなってしまいます。

 ただその場合、例の耳の反応点を探る探触子を使ってみると、夏場使ってみた限りでは、各原穴の庄痛点と、耳の反応点が食い違ったときは、ほとんどの場合、耳の方が正しかったですね 脈診と一致しているのはほとんど耳の方です。

 だから結構、探触子を使えばやれると思うのですが、欠点は、耳のツボにはまったく反応のない人が、2割ぐらいはいるような気がするのです。どこを触っても全く痛くありませんという人がいるので、冬場はそういう人の診断が大変かなとも思います。耳鍼は、どんどんチャレンジして下さい。

今日は潤腸湯からだと思います。あまり難しいことはありません。潤腸湯は。前に解説した麻子仁丸の変方なのですが、麻子仁丸はどちらかといったら潤下剤でもさっぱりとした薬味です。麻子仁丸の取り柄は、逆にほかに薬味が多い薬を、例えばこの患者さんは、昼間は八味地黄丸を飲んでいるぞと、あるいは牛車腎気丸を飲んでいるぞ、場合によっては疎経活血湯みたいなものを飲んでいるぞという場合、そういう薬味の多い人に、さらに薬味の多い下剤はあまり出したくないというときに麻子仁丸は便利なのです。

単に年を取っているだけでほかに基礎疾患があまりない便秘の方には、この潤腸湯は重宝します。でも実は今のところ(幾寅)に行くまではあまり重宝していなかったのです。

 潤腸湯なんて、麻子仁丸があればいらないや、と思って、あまり使っていなかったのですよ。その潤腸湯だけ欲しくてわざわざ来る患者さんがいるとは思わなかったのです。要するにほかの治療をしていて、ついでに便秘もあるから麻子仁丸を出しておこうかというのはあるだろうと思ったのですが、今のところに行ってから潤腸湯を使うようになったのは、老人ホームを受け持ったからですね。

 老人ホームには、ただ寝ているだけで、ほとんど症状が無く、ただいつも便がコロコロとして出なくて、寮母さんたちが困っているという、そういう方が結構おられるものですから、潤腸湯を必要としている方がいます。老人ホームなどは、ほとんど全部潤下剤でやっています。要するに、便の水分を増やして軟らかくして、通じをつけるのですが、この潤腸湯というのは少し冷やす薬が含まれているのですね。

少しという言い方をしたのは、強い冷やす薬は入れていないのです。わずかに冷やすのです。生地黄と熟地黄を両方入れてあるのはそのためなのです。

あと黄芩なども本来は消炎剤系統です。それはお解りのように、この状態の方というのはほとんど脱水状態があります 基本が脱水状態にあると、当然、陰虚内熱を生むのです。陰虚内熱を冷ますときは、強い熱冷ましを使ってはいけないのです。本当の熱ではないのですから、虚熱ですが、まったく冷やす薬を使わないわけにもいかないということで、マイルドな作用の、薬を使います。地黄というのは熟地黄だったら温め、生地黄だったら冷やします。本来は同じものが、わずかに冷やしたり温めたりする程度のものです。黄芩も何度か言ったように、それそのものが非常に強い消炎剤ではなくて、ほかのものの消炎作用を助けているのです。その程度のものを入れて、軽く内熱を冷ましてあげることで全体の熱が下がってくれると、脱水状態もずっと少なくなってきて、便は軟らかくなってくるのです。非常に合理的な薬です。だから私は、昔はあまり使っていなかったのですが、最近は結構使っています。

 面白いことに、お年寄りでいろいろな精神症状を訴えるような人に効いたりします。

若年者の髄膜炎などに承気湯を使うと前に言っていますね。待てよと思って実は、お年寄りの少し便秘気味でぼけ症状のある人に試しに潤腸湯だけでやってみたら、お通じがよくなるとともに、治るわけではないのですが、結構しゃっきりしてきましたという例が、よく出てくるのです。

 でもこれはあり得るのです。別にこの潤腸湯が云々というのではなくて、もともといわれています。確かにお年寄りで、少しぼけ症状がある人で便秘している人って、お通じがよくなると、それだけで意識レベルも、知的レベルも上がるというのは、昔から西洋医学的にもいわれていたことなので、当たり前かもしれません。でも、西洋医学で通常、お年寄りに通じをつけ続けるというのは非常に難しいのですが、潤腸湯では案外簡単にできます。

 ただし、あくまで陰虚内熱気味で、脱水があって、やはり便がコロコロの状態に使います。便がコロコロの証明としては便塊が触れて、あまり軟らかくないことです。脱水症状で、おなかは板状のことが多いのですが、やはり押すと便塊が触れます。

お年寄りの場合意外にあるのが、いつも言うように真武湯の便秘で、便塊が触れないし、熱症状はほとんどなくて、大抵冷えています。そして脱水というよりも、どこかに水も感じ、そしておなかをつかむと綿みたいに軟らかいのです。お年寄りの便秘で真武湯と潤腸湯とは両極端です。

 真武湯の便秘はそういう便秘です。しかも潤腸湯の便秘は分量を増やせばよりよく効きますが、真武湯はその人によって、常用量より少ない分量の方が効くときと、多くないと効かない人といろいろです。要するにその人の全身症状を改善する分量が一番いいということで、必ずしも倍量使ったらよく効くということでもないし、非常に面白いところです。

 他にお年寄りの便秘で、ごくまれですが、脳卒中後などで顔が真っ赤になって、非常に熱性症状が強く便秘しているときは、三黄瀉心湯などを使うときがあります。でもこれを実際に使っている人はそんなにいません。それこそ脳卒中の急性期に、寝たきりになって一時的に便秘になったときに使うぐらいで、慢性の便秘しているお年寄りで三黄瀉心湯がよかったというのは、ほとんどいません。老人ホームにいる方で、いろいろ使ってみて、やはり三黄瀉心湯が良かった人というのは、たった1人ぐらいです。

 そういうことで潤腸湯は、昔はばかにしていたのですが、今は結構使っています。手術後にも使うなどと書いてあるのはそういうことなのです。手術後は黙っていたって、血の流れも悪くなっています。術後でさらに便秘しているときは、当然、潤腸湯だけではなくてサフランなども加えてあげたって構わないですね。

 次は当帰飲子です。これも非常に使いでがある薬です。今回お話しするのは結構使いでのある薬が多いです。四物湯の変方ですが、見てお解りになるように、四物湯に皮膚の薬と、血に関する薬と、かゆみ止め、そういうものが加わっています。

四物湯が基本にありますので、臓腑弁証をすれば、この人は当然ほとんどの場合、腎から肝にかけての病証です。普通は腎の方です。ところが当帰飲子の場合、それに皮膚症状が加わるので、基本はそうなのですが、腎陰や肝陰が不足してかさかさになっている上に、皮膚の働きまで悪くなってしまっています。年を取って全体的にかさかさになってしまうとき以外、なかなかそういう状態は出てきません。

 当帰飲子の患者さんというのは、診ると一般的に皮膚はちょっと黒っぽく、そして明らかにかさかさしています。当帰飲子の人で腹診を取ることはあまりないのですが、やればちやんと四物湯の圧痛(鼠径部)は出ます。でも当帰飲子の人は、何も症状がなかったら、あまりそこは触れられたくないですし、それと乾燥肌だという感じで来る方が多いですから、これだけだったら触りませんね。

 どうして腎陰が不足してくると皮膚までそうなるのか、私も完全には解らないのですが、四物湯の状態で腎陰が不足する人は、やはりどこかで少し心火が上がって、結果として物理的に、肺は熱を持ってきて、この内熱を逃そうとして皮膚表面が開いて、そのために乾燥してくるのかなとも考えます。まだ完全には解りません。そうではないかなと思っているだけです。四物湯の状態は皮膚表面が開き、そして乾燥します。

 そのために黄耆が入れてあるというのはまず間違いないだろうと思います。黄耆というのは、Z理の働きを良くします。だから黄耆は皮膚がすごく湿潤なときにも使いますし、乾燥しているときも使います。あくまで皮膚を潤すとか、逆に皮膚の水を除く為に使います。

例えば防已黄耆湯どのときは、ほとんど皮膚はしっとりしています。黄耆建中湯もそうですし、桂枝加黄耆湯もそうです。大部分は黄耆が入っている薬は皮膚の湿潤があります。ところが、この当帰飲子とか七物降下湯の状態の人というのはだいたい皮膚はかさかさしています。これは、別に黄耆そのものが皮膚を潤すとか水を除くという意味ではなくて、あくまでそういう皮膚の水調節機能を、水の出入りをつかさどるZ理の働きを正常化するということです。

ここがうまくいっていないと、例えば体内の悪いものをうまく発散できないので、皮膚表面にかゆみをつくっているので、その気を発散させる目的で荊芥や防風があるのですね。蒺梨子(シツリツシ)は、ほとんど抗ヒスタミン剤や痒み止めに近いようなものです。そしてこういう状態の方というのは血の流れも悪くなっているので何首烏(カシュウ)を使ってあるのだろうと思うのですが、当帰飲子だけの説明をするとそういうことになってきます。

ほかに当帰飲子を単独で使うとしたら、一番使うのは老人性u痒症です。ぴったりはまるのはこれです。でも現実にはいろいろな皮膚疾患でこの状態が出ます。乾燥型の皮膚疾患には、ほとんどこの当帰飲子というのが合うのですね。

アトピーにもよく使います。アトビーはやはりどこかでこの乾燥があります。それから慢性化した接触性皮膚炎とか、あるいは意外と使うのが、SLEに近いような、慢性化した日光皮膚炎みたいなものです。もちろんそれは当帰飲子単独で使うものではないのですよ。例えばそういう状態に使うなら、当帰飲子に黄連解毒湯を併せたりします。

他に意外とよく使うのが尋常性乾癬です。何を加えると思いますか。前にも話をしたと思います。越婢加朮湯ですね。尋常性乾癬というのは中からの水分が全然行き渡らない程、表面が硬化して破れない状態になっています。そこをとにかくしゃにむに開く目的に、麻黄と石膏で表面を開いてしまうのです。そして中を潤してやります。要するに非常に慢性化して、がちがちになったものを、新鮮な発疹に戻してやるということです。無理やり新しい湿疹に戻してあげると、治癒傾向が出ます。私の所では越婢加朮湯と当帰飲子の組み合わせというのが、尋常性乾癬では一番スタンダードなのです。まず試してみて、それで手応えがなければ変方するというのはあるのですが。

 本来、尋常性乾癬というのは、薬で治る病気ではないですね。でも現実にかなりの数を診ていますが、外来に来始めたら、あとはずっと来ますね。尋常性乾癬の人って、中断してしまって来なくなったというような例はあまりないのです。今まで診た人は、全部頭の中にあります。今思い出してもほとんど来ています。

 最初のうちはまじめに来ていますけれども、大抵はお薬だけになり、3カ月に1遍ぐらいになり、そんなに手が掛かるわけではありません。ほかの医療機関で治療しても絶対に治らないのですが、実は、尋常性乾癬は漢方でも治す薬は無いと思うのです。治せるのではなくて、新鮮な湿疹に戻してあげているのです。ただちょっと自分の治癒機構が働くというだけのことだろうと思っています。

 それでもうまくいっている人は、前にもこのことは言ったかもしれませんけれど、ご婦人などは、スカートがはけなかったのがはけるようになったと言います。それだけで大満足なのです。夏場はノースリーブまではちょっと無理みたいです。でも半袖のシャツぐらいまでは着られると言って、喜んでずっとお薬をやめませんね。

 尋常性乾癬というのは何か患者会が発達していて、そこでは、これは治らない病気だぞと、彼ら自身がインプットされているのです。完全治癒を強く望むなら、それでも不満なのでしょうが、治らない病気だとずっと言われていたのに、ある程度のところまでは良くなったということで、結構喜んで来てくれます。

 当帰飲子は、あらゆる慢性の皮膚疾患に使います。当帰飲子の状態は、実は貨幣状湿疹にも出てきます。乾癬と湿疹は、言葉、表現だけでも違うように、乾癬というのは乾いた癬で、湿疹は湿ったものです。でもうんと慢性化すると貨幣状湿疹も、かさぶたを取るとその下は湿疹なのに、全体は非常に乾燥傾向です。その状態になると、そこまでやはりお薬が到達しないのです。何を表面から付けたって中まで浸透しないし、飲んでも中から表面まで来ないのです。

 そういうときに当帰飲子を使いますが、当たり前の事として貨幣状湿疹に当帰飲子をやったら、湿疹をもっと湿らせるわけですから、理屈上から言ったら悪くするのです。それでしばしば消風散を加えます。

消風散で、一方で湿疹を乾燥してあげるというような格好になります。紫雲膏というのは、後にまたお話ししますけれど、いろいろな皮膚疾患に使いますが、実は紫雲膏そのものが湿疹を治すと考える必要はないです。紫雲膏そのものにはほとんど大した薬効はないのです。直接皮膚を治療する薬というのではなくて、ただ皮膚の内部の血行を改善してくれることによって、内服薬やほかの漢方成分を湿疹の部分まで導いてくれるという、その作用が一番大きいのです。

だから、別に皮膚病じやなくても、皮膚に何か変化があるものの場合紫雲膏を使うことがあります。

当帰飲子は黄連解毒湯と合わせると温清飲の加減方になってきますから、非常に炎症が強いときには、そういう使い方をすることもあります。当帰飲子のままだったら、消炎剤はほとんど入っていないのです。発表させるだけの薬です。

それとは違いますが、実は荊芥連翹湯や柴胡清肝湯も、この成分をほとんど含んでいるどころか、温清飲の成分まで含んでいるのですが、薬味が多くなりすぎてかえって皮膚に対しては切れ味が悪くなる傾向もあるのですね。だから、はっきり皮膚乾燥型と思われるときは、荊芥連翹湯や柴胡清肝湯を使うより当帰飲子などでやっていく方がいいようです。

次が滋陰降火湯です。これは結構、いい薬ではあるのですが、ただ非常に難しいですね。滋陰至宝湯、滋陰降火湯、清肺湯、辛夷清肺湯などは厳密にこれはこれという使い分けまでは、考えても仕方ない面もあります。これぐらい薬味が多くなってくると、みんな少しずつ違うだけで重なっているのです。この滋陰降火湯というのは、麦門冬と天門冬の双冬組が入っており、若い人やあるいは急性疾患の麦門冬湯の状態に非常に似ていると思って間違いありません。

 ただし麦門冬湯の大事な特徴は、もう顔を真っ赤にして咳込む状態です。これは当然若くて体力があるからそこまで咳込めるのです。年を取って体力がなくなってきたら、そんなに咳込む力はありませんね。滋陰降火湯は、麦門冬湯ほどひどくはならないのですが、やはり明らかに痰の切れにくい咳で、咳込んでいて それで痰が切れると束の間でも楽になります。麦門冬や天門冬の特徴は、せき込んでいるだけじやなくて、痰が切れると束の間でも楽になる、それが大事なのです。うんとせき込んでも痰が出てこないといったら、また別の病証になってきます。

そして、四物湯の中の川芎は必要ないので入っていないのです。当帰、熟地黄、白芍は血を潤す作用です。それから、知母、黄柏というのはというのは非特異的な消炎剤です。知柏と言います。非特異的な消炎剤というのは、例えば非常に強く肝に作用するとかいうようなものではなくて、一般的な消炎剤です。石膏もそうですが、石膏、知母と組み合わせて使われるのは白虎加人参湯です。要するに非特異的な消炎剤と血を潤す薬が入っています。

 全体としては、テキストに書いてあるように、普通のときは飲むとしたら八味地黄丸を飲んでいる人かなというタイプで、お年寄りの腎咳によく使います。

お年寄りの腎咳とは変な言い方ですが、肺と腎の関係で若い人にも腎咳はあるからです。それは後で話しますが、お年寄りの腎咳は、腎の衰えでやはり全体が乾燥状態になってきていて、痰が乾燥し、そのために痰を切る力もないのです。

 だから滋陰降火湯の方というのは、だいたい診察室に入ってくると解ります。

腎が主体になっていますからやはり赤黒いです。だいたい黒い。それで咳を主症状として来ます。何よりも腎咳は(肝咳などもそうですが)、東洋医学的な治療じゃないと治らないのです。西洋医学的な治療が一番うまくいかないのが腎咳です。だからうまく当たると非常に喜ばれます。

 何度も言うように、肺咳は西洋医学的でも、上手な先生が治療をされると治ります。それから肝咳は、心療内科の先生なら上手に治せるはずなのです。ところが腎咳は、概念がないから治せないのです。皆さんのところでもそんなに多くないと思いますが、私のところに来る方では腎咳は非常に多いのです。やはり多くの医療機関を転々として来ます。

 滋陰降火湯の、状態は、年を取ってだんだん腎が衰えて、腎陰が不足して心火が上がって、心火が肺を焼いて、そのために肺に熱を持って痰が切れにくくなっているのです。最初の出発が腎陰の不足なのです。いわゆる腎の虚が出発です。加齢に伴って腎陰が不足してくるというのは、年を取ると全員、腎陰が不足するということではないのです。腎が弱い人がやはりそうなりやすいわけです。

 そういう方というのは支配色が黒なので、本当にこれは見慣れると分かります。先生たちが来ているときに何人かいましたね、黒い雰囲気があったのを覚えていますか。見慣れるともう本当に入ってきた瞬間に分かります。何となく黒い感じがします。同じお年寄りの咳でも滋陰至宝湯は黒くないのです

一応、柴胡を含んでいますけれど、青くもないのです。どちらかといったら滋陰至宝湯は年を取っても肝咳に近いのですが、全体的に少し赤みを帯びていて、炎症症状の方が強く出ています。

清肺湯の人は赤みも黒みもないですね。ごく普通の状態で、お年寄りの麦門冬湯になります。

辛夷清肺湯はやはり鼻汁があり、誤飲性肺炎みたいなのが基本にあるという印象です。清肺湯や辛夷清肺湯は太陰です。 滋陰至宝湯の場合は厥陰が主体のことが多いですし、滋陰降火湯の中心は腎の陰が不足しているという状態です。だから、むしろ三陰の診断で腎と思ったら、目をつぶって出してもだいたいは外れないです。

次が柴朴湯です。これも今まで何度もお話ししたのでお解りと思うのですが、小柴胡湯と半夏厚朴湯の合方です。

 

 小柴胡湯      小青竜湯

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柴朴湯(抗アレルギー)―――神秘湯(気管支拡張、抗アレルギー)                 

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半夏厚朴湯      麻杏甘石湯

 

 

喘息の治療の中で一番、私はいつも左側に書きます。強い|て言うならこれが半夏厚朴湯、小柴胡湯、あるいは柴胡剤に分かれます。そして神秘湯が小青竜湯や麻杏甘石湯に分かれます。

 神秘湯を私が喘息治療の中心にするのは、薬味も多くないし、何よりも麻黄が入っています。気管支拡張作用を持っているのは神秘湯と小青竜湯や麻杏甘石湯です。一応、神秘湯を中心にするのは気管支拡張作用があり、気を動かす作用があり、抗アレルギー作用もあるからです。

 でも柴朴湯の抗アレルギー作用は、何故そうなるのか実はまだ分かっていないのです。小柴胡湯の方から見ると解るように、これは厚朴と蘇葉と茯苓の3つが小柴胡湯に加わっています。厚朴と蘇葉と茯苓の11つを科学的に調べても、抗アレルギー作用は大してそんなにありません。小柴胡湯だけ調べても、前にも言ったように線維化を起こすような特殊な炎症に対する作用はありますが、抗アレルギー作用はありません。ところが柴朴湯として合わせて煎じると抗アレルギー作用が現れるのです。

柴朴湯の代わりに小柴胡湯と半夏厚朴湯を混ぜ合わせてもだめなのです。柴朴湯として煎じた状態で実験すると、最も抗アレルギー作用が出るのです。T型とW型のアレルギーをどんどん軽減していきます。実験的にはこれは証明されているみたいです。今のEBMでいえるのかどうかはよく分かりませんが、ほとんどこの点は、解っている人は西洋医学の人も認めていますね。

小青竜湯と麻杏甘石湯の組み合わせには、抗アレルギー作用はまったくありません。全くと言っていいぐらいないのです。これを使っていたらいつかアレルギーがなくなってきたという経験もないですし、数値を見ていても全然動きません。でも気管拡張作用はこれが一番です。だから1剤でやるのは神秘湯が最も便利かなと思って使っているのですが、子供はそれでいいのです。子供はこれでやっていると、この一ケ月でも1人か2人、もう薬をやめようやといって、やめてしまった子供もいます。だから子供の患者はちっとも増えません。

子供の喘息は神秘湯をやって、だいたい2年でほとんど治ります。

 子供で延々2年を超して漢方を飲んでいるのは、アトピーのちょっと長引いている例ぐらいかでしょうか。それもアトピーというより、本当はよくなっているのですが、掻きぐせだけがどうしても取れないという子供がいます。親に「掻かせるな」と言っても、「どうしても掻くのです」などと言います。もうそれこそ麻酔でもかけて1週間眠らせておいたら、治ってしまうのではないかというぐらいの、掻き傷だけの皮膚炎で、親がどうしてもやめさせきれないのを除けば、子供のはだいたい2年で、アトピーも薬がいらなくなります。喘息はもうほとんど、神秘湯で終わってしまいます。

 でも大人の場合はやはり長い目で見れば柴朴湯の方がいいようです。喘鳴があるときはこちら(小青竜湯と麻杏甘石湯)を面倒でも飲み分けさせた方がいいような気がします。じゃあ、柴朴湯は咳とかそういうのに全然効かないかといったらそうではありません。厚朴が入っていますから効果はあります。

 要するに気の滞りはちやんと処理してくれます。気の滞りだけでもやはり空咳は出ますし、空咳を続けているうちに、それが喘鳴発作につながってくる場合もあるのです。だから柴朴湯を飲んでいると、最初の空咳が抑えられることで、発作も抑えられたままという方も結構います。

一時、大人も子供も神秘湯中心にやっていたのですが、最近ちょっと柴朴湯を使っています。ただし、やはり柴朴湯の使用目標としては、胸中炙臠が効きます。なくてももちろんいいのが半夏厚朴湯も茯苓飲合半夏厚朴湯もそうですし、後で出てくる当帰湯もそうですが、胸中炙臠がなくともいいのですが、あれば非常に良く効きます。胸中炙臠を確かめるのは簡単ですから、必ず問診で忘れずに聞いてください。要するに|中より上のこの付近を狙って、「この付近に何かつかえている感じはしますか」あるいは「物を飲み込んだときに何か引っ掛かっている感じがしますか」と聞くだけで良いのです。それがあると言えば、ほとんどそれだけで決まりです。

 そして、むしろ人によっては、喘息症状よりもそちら(胸中炙臠)を強く訴える場合は、例えば柴朴湯に、最初に言ったように厚朴をちょっと加えてあげるだけでも非常に効きます。本来厚朴が入っていないものに厚朴だけを加えようとすると、2グラムから3グラム加えないと効き目を出してくれないのですが、厚朴というのは人によっては非常に飲みにくいのです。

 あの木くずみたいなものは飲みにくいと言います。ところが、もともとこういう厚朴の入っているものにちょっと加える分には、1グラムでも十分に効いてくれます。1グラム、場合によっては0.5グラムでも効いてくれます。そういったように、ちょっと加えてあげることで、非常に劇的に症状が取れます。

半夏、厚朴も入って、柴胡も入っていますから、気うつに使うこともあります。でも柴胡、半夏、厚朴と入っていたら、抑肝散加陳皮半夏です。柴朴湯は神経の緊張にも当然効いてきますが、黄芩が入っている分余計です。かえって強い症状ではなくて、軽いうつ的な状態にも使いますけれど、それを目的としてはあまり使わないですね。本当に気うつだけの目的だったら、抑肝散加陳皮半夏とか柴芍六君子湯などを使います。やはり喘息的な症状を訴える方に使いますが、柴朴湯を使ってもあまり問題ないですよね。

 この柴朴湯は強いて言うならば、ほとんどの場合は肝と肺が争っている状態です。肝が主でも、肺が主でもどちらもありです。柴朴湯に関しては使っている人は半々ですね。神秘湯も肝が主の人は半分、肺が主の人が半分ぐらいです。

抑肝散加陳皮半夏は、肝の方が多くなります。でも柴朴湯はどちらもあり得ます。だから若い人の肝咳には柴朴湯でいいですし、肺咳にもいいのです。肺か肝か区別できなくても、この人は神経質そうな喘息の患者だなと思ったら、それだけでこの神秘湯や柴朴湯を使えば、だいたい間違いないです。

ところが次の当帰湯は結構面白い薬で、主として肺と腎の関係に使います。使っていると肺と腎は同じぐらいでしょうか。腎咳にも使いますが、これは腎が年を取って衰えたというのではなくて、若い人の肺腎関係がうまくいかないために咳が出たりする時に使います。肺の働きが悪くてももちろん粛 降できないのですが、腎が受けられなくても肺の粛降ができなくなります。どちらが多いかといっても、本当にどちらの場合もあります。

 実は肝はあまり絡んでいないのです。だから肝に対する薬は芍薬ぐらいしか入っていません。芍薬は腎の働きが悪いために、肝に負担が掛かるのを軽く和らげるぐらいの作用です。

 9割ぐらいは女の方です。1割ぐらいしか男性はいません。基本はテキストに書いてあるように当帰芍薬散、半夏厚朴湯

帰耆建中湯、大建中湯、そういうものの骨格が入っています。

 要するに体の冷えがあって、あまり内熱がないのです。それだけでも解りますよね。腎陰が不足すれば滋陰降火湯みたいに内熱を生むのに、腎陰が必ずしも不足しているわけではないのです。うまくバランスが取れないで腎が受けることができないのです。だから当帰湯の人を見ても、腎の虚証が表に出ているという感じはしません。でももちろん腎の病証はありますから、将来はもしかしたら腎の虚が表に出てくるかもしれないのです。いつも言うように、臓というのは虚すしかないのですが、ごく初期の段階では臓の虚の症状は表に出ません。でも、腎の働きがあまりよくないから肺の粛降を受け入れない、その状態です。

女性の場合で、何となく気力がなくて、胸のつかえがあって、空せきをしていて、更年期での婦人の冷えがあって、気うつがある状態に多いですね。

実は臓腑弁証を本格的にやり始めるまでは、当帰湯というのは非常に使いにくい薬だったのです。半夏厚朴湯が有ればいいのではないかと思っていました。半夏厚朴湯はほとんど太陰だけの薬です。茯苓飲合半夏厚朴湯も太陰の薬です。腎と肺が絡んでいる人の中に半夏厚朴湯に似た症状を出す人がいるというのが、だんだん解ってきて、腎が絡んでいる病症かなという方で、使うようになってきました。どちらかといったら、使う目標としてはいうのは冷え、気うつのほかにもいろいろ症状があるのですが、診断とは最終的な臓腑弁証で肺と腎の関係が悪いのだというのをとらえるしかないのです。それをうまくとらえて当たるとご婦人は結構喜びます。

それから当帰湯単独では、なかなかとらえどころがないのですが、これがもうちょっと進んで、先程言った滋陰降火湯などのちょっと手前ぐらいになって、腎の衰えが表に出てくると、もうちょっと強い症状となります その時は、この当帰湯に麻黄附子細辛湯などを加えると、かなりはっきりとした初老期の腎咳に用いることができます。1割か2割ぐらい 男性に当帰湯の適応がいるのはほとんどそういう例ですね。女性の場合は意外とそうならないで、当帰湯単独で飲んでいる方が多いのです。

次は通導散です。だんだん薬味が多くなってくると、あまり熱心に話す内容は少なくなってくるのですが、日本で作られた漢方薬の中では非常にいい薬です。

テキストには古方の桃核承気湯に相当すると言われてきていますが、目的とする状態は同様であると書いてあります。桃核承気湯は、薬味は少ないですが、結構激しい薬なのです。効くときは激しく効きます。例えば通じをつけるといったら、わーっとつけますし、消炎作用も非常に強くて、若くて本当に合っている人を除けば、慢性的に長く使う薬ではないのです。

 どちらかといったら瘀血の急性期、あるいは若いお嬢さんの便秘で夜だけ少し飲んでいる人が何人かいます。あるいは潰瘍性大腸炎の類の便秘型の人で、桃核承気湯で一時的に治療を続けている人がいるぐらいなのです。

ある程度強い瘀血があって、便秘があって、かなり慢性化して、治打撲一方ではちょっと弱すぎるという、状態に使えるものといったら、この通導散が最たるものです。だから非常にこれは使いでのある薬です。本来、紅花も入っていますから非常に強いのですが、瘀血が強いという時は、当然これにサフランを加えればいいのです。

 おそらく紅花を加えているのは、サフランが日本になかったからだと思います。通導散の証の人はサフランを加える方がかえっていいかもしれません。便秘をして、癖血があって、慢性化しているのは大抵おばちやんですよね。男性の場合だったらやはりかなりの事故に遭って瘀血がある人ですね。腹証は桃核承気湯とほとんど同じです。前にも言ったと思うのですが、本来は瘀血というのは圧痛や少腹急結を診るのですが、慣れてくると手を置いただけで、瘀血塊がこの付近(図)にあるのが解るようになります。

この状態の人というのは、大体は冷えのぼせです。暑いような寒いようなという、冷え性なのだけれど変なところでのぼせる、そういう状態を両方持っているのです。そうすると、紅花の方は血の道を改善するのですが、温める作用がほとんどで冷やす作用はありません。サフランの方は、保険で使えるようになったので、「ああ、紅花と一緒か」と、最初私も使っていましたが、違うなということがだんだん解ってきたのです。ほとんど一緒だと書いてある本が多いのですが、使ってみると、最終的に血行を改善して温めるのが紅花で、血行を改善して冷やすのがサフランなのです。だから冷えのぼせがありますから、通導散には紅花が入っていますから、それにサフランをちょっとでも加えてあげた方が非常に良いのです。

 一応便秘は目標なのですが、一番中心は何と言っても当然瘀血ですね。この瘀血についてですが、中医学だけしかしない人は、どうやって瘀血を診断するのだろうなと思うのです。皮膚の状態を見るとか、舌の裏側に細絡があるというのは、確かに瘀血の有力な兆候ではあるのですが、あれだけで瘀血とは、やはり言えないのですね。手と足の皮膚がかさかさしているとか、さめ肌ぐらいになればかなり瘀血ですね。それから足に細絡があるとかもそうです。でもそれだけで診断するのはかなり難しいのです。

 それならば、むしろ問診で、女性だったら月経困難があるか、あるいは手術歴があるか、事故歴があるかとか聞いた方が、まだ瘀血を推測できます。そうなると、瘀血を確実に診断できるのは腹証がやはり一番です。いろいろやってみても本当に腹証に勝るものはないようですね。手を置くだけで解ります。

 今日も1人いたのです。SLEの患者さんで、1年か2年治療して、ようやく日の当たるときにも外に出られるようになるぐらいまで良くなった人なのですが、何を飲んでいるかと言ったら、治療を始めて1年半か2年たっても、今なお茯苓四逆湯の加減方を飲んでいるぐらい体力が無いのです。要するにSLEに対する漢方消炎剤は一切まだ使わず、体を持ち上げる処方、それだけで外に出られるようになったという人なのです。でもやはりそういう病気ですから、何となく血の巡りが悪いように見えたり、あるいは逆にちょっと日光を浴びると、血熱みたいなように見えるので、周りの人に「あなたはサフランがいいわ、血の道の薬で良いのだそうだよ。あなたにはどうしてサフランが出ていないのだろうね、ちょっと聞いておいで」と言われたそうなのです。でも瘀血はないのです。

 瘀血はもうここ(臍部)に手を置いただけで塊を感じるのです。それは何と言うべきか、つきたてのおもちが中に入っているという感じです。それを感じると古来言われている瘀血の圧痛点をきちんと取ります。

 ちなみに妊娠したての婦人の場合は下腹部に手を置くと、赤ちやんの気がありますね。だから妊娠反応が出る前に解ることが多いです。あれはどう表現したらいいでしょうか、竹の皮にくるまったおむすびがこの奥に入っているような感じですね。何となくそういう感じです。ただ、これは面白いもので、母体に流れている気の流れと何か違うものがあるというのは解るのですよね。手を置くと感じるのです。それで、もしかして妊娠していないかと言うと、本人も自信なさそうに返事しますが、しばらくするとやっぱりそうでしたということが多いのです。それはまあ余談になってしまうけれどね。

 瘀血をとらえて、そしてこれを最終的に確認しようと思ったら いつも言うように血海反応を見れば良いのです。臍傍の圧痛点にせよ、少腹急結にせよ、血海を圧すると消えます。血海(膝の上の内側)のツボは、慣れると指が黙っていてもそこに行くようになります。患者さんを触った瞬間に指がそこに行くようになります。瘀血のある人は、それだけでも飛び上がるように痛がりますし、そして同側の瘀血の圧痛が、見事に消えます。押さなくても手を当てただけで、先程まであったおもちがすっと消えるのが解ります。それくらいはっきりします。

 通導散の人は、要するに事故に遭った、大手術をした、あるいは女性の更年期あるいはいわゆる血の道を疑わせる生理周期に伴う変動、そういうものがあって便秘をしていて、それに伴う症状が慢性的にあり、冷えのぼせ両方があるのです。 だから非常に簡単です。

 それでうまく合うと、これだけでその方が言っていたもろもろの症状が全部取れます。先程言ったように通導散には、しばしばサフランを加えます。通導散にサフランを加えても、本質的には使用目的は変わらないのです。

 腹証でテキストに上腹部に圧痛があることがあるとあります。これは物の本にもあるのですが、おなか全体は痛みを訴えるところはあちらこちらにありますが、上腹部の痛みは瘀血というよりも、むしろ承気湯的な痛みです。気の巡りも悪くなっているので、ガスが停滞したりして上腹部も痛がるということで、やはり中心は瘀血です。これを間違いなくとらえてください。

次は牛車腎気丸です。八味地黄丸に牛膝、車前子が加わっているだけなのですが、実は八味地黄丸より非常に使いでがあります。午車腎気丸の方がはるかに多いのです。私のところでは八味地黄丸との使用割合とは、191ぐらいかもしれないですね。

 それにはいくつか理由があります。八味地黄丸というのは、全身の未老先衰を改善する薬です。その本質はこの牛車腎気丸も変わりません。でも八味地黄丸は本当に全身を軽くするだけで、治療薬というよりも本当に補養薬的な感じが強いのです。腎虚の人は、医療機関に来る段階では、ほとんどの場合は下半身の何らかの症状を言ってくるのです。

 八味地黄丸は、本来は全身に使います。下半身だけではないのです。全身均等に使います。でも全身均等にいろいろ症状を出している人は、11つの症状は意外とまだ強くないのです。それくらいの方は医療機関には来ないで、きっと薬屋さんの八味地黄丸の旗を見て、意外と「八味地黄丸を実は飲んでいるのですよね。これを飲んでいるといいのです」と言うので、何だろうと思って見たら八味地黄丸ということが結構あります。OTCで飲んでいる方が結構多いですね。

 ところが医療機関に来るとなると、やはり腰から下ぐらいの非常に強い痛みとか、尿路の症状だとか、そういうものを伴っておいでになる方が多いのです。それで結局、1つは下半身によく効くような成分が入っていて、それからもう1つ、この牛膝は血にも少し働き、治療する力が普通の八味地黄丸より強いので、午車腎気丸を使う割合がどうしても多くなってきます。

 それと午車腎気丸は、八味地黄丸よりもなぜか、この2味が加わっているためか、胃に障る割合はわずかに少ないですね。八味地黄丸はしばしば胃を荒らします。あれを飲むと胃が痛くなったという訴えには結構遭遇するのですが、牛車腎気丸の場合はかなりそれが少ないです。使いやすくもあるし、患者さんのニーズにも結構合うということでよく使っていますけれど、治療目標は実は八味地黄丸とほとんど変わりません。

 もちろん瘀血のある人にはサフラン等を加えて使う場合もあります。それから最もよく使うのは、腰痛や下半身の痛み、それも明らかに老化現象を伴っている痛みに対してです。

 ところが、普通は八味地黄丸も牛車腎気丸も、それだけで使うときは、どちらかといったらやせ型の、さっきの滋陰降火湯のときに言ったように腎の病証ですから大抵は浅黒いか 場合によっては逆に腎陰が虚しているために、心火が上がって、浅黒い上に赤みがかぶさるというような変な色という格好のことが多いのですが、ごくまれにがっちり型のおばちゃんに、肝腎両虚の脾の仮性実証という特異なタイプがあるのです。

 がっちりして、一生懸命肉体労働をしてきたおばちやんが、あるときから腰が痛い、足が痛いなんて言いだすことがあります。肥満という感じではないのです。肥満で動けなくて膝に来るのだったら分かりますよね。足の筋肉は減っていて脂肪に置き換わっているから、見れば分かりますよね。ところが、太っていてなおかつ足などもがっちりとしていて、痛いわけがないのになぜか痛いのです。

 f苡仁湯のときに話したと思うのですが、もう1回話すと、昔、難渋した患者さんがいました。「何だろう」と、いろいろな薬を使ってみたのですが治りませんでした。その頃、そんなにがっちりして丈夫な人が八味丸って、全然思い浮かばなかったのです。ところがあるとき、例によってそのおばちやんが、「私はこの薬を飲むと足腰が楽になるんだわ」と見せてくれたのが八味地黄丸なのです。それで、はっと解ったのです。

 こういうところ(肝や腎)が結構強かった人が、年を取って筋肉や骨が衰え傾向になったとしても、もともと丈夫でどんどん食べながら働いている人というのは、五臓相関で肝と腎が虚すと、脾が仮性実証になるのです。仮性実証というのは、本来脾は実するところのものではないのに、仕方なしに実するのです。

 普通はそんなに丈夫な人でなければ、仮性実証だけで脾の症状というのは表に出てこないのです。でもがっちりして、体力がある人がちょっと衰えてきて、脾が相対的に上がってくると、食欲がさらに増してくるのですね。もりもりと食べて、もりもりと動くものですから、全体的にはパワーアップしながら痛みが出てきてしまうのです。だから見た目では全然解らないのです。がっちりして、何で痛いのだろうと思うのです。でも結局はここ(肝と腎)が虚してきて、表向きはこっち(脾)が上がっているので、肝も腎も虚しているように見えなくなるのですね。

よくこういうタイプの人にf苡仁湯と牛車腎気丸の組み合わせで使います。それで見事に痛みが取れてきます。この場合はもう鍼はこの通りにします。体の鍼の場合は一応脈を取らないといけないのですが、大体は、やはり腎が多いようですね。腎が主の人の方が多くて、肝が主の人の割合が少ないのです。仮性実証ですから、脾が主の人はいません。だいたい腎主で取って、最終的にはほとんどの場合帯脈をとって、肝経に配すことがあるのですが、耳の鍼でやる場合は肝と腎は補して、脾は瀉せばいいのです。

 おばちゃんに多いのですが、非常に丈夫で動き回っていた男の人などにも結構います。年を取って、それも体力があったのに、ある時どこにも骨折も何もなさそうなのに、何となく足腰を痛がるという人がいます。臓腑診断がつかないときは、そういう意味では耳鍼というのは非常に便利ですね。どれが主であるか解らなくても、肝と腎と脾を取れば必ず当たるわけです。肝が主であろうが腎が主であろうが、両方を補して脾を瀉して、後は反応穴を取ればいいわけです。

 お年寄りのこういう痛みの場合、もちろん体鍼でも取れるのですが、耳鍼できちんと合えば、間違いなくその場で痛みがかなり取れます。今言ったような体型というのを意識して使ってみてください。

次が釣藤散です。これも今までに何度も話してきたから、ほとんどいいと思います。抑肝散と釣藤散と七物降下湯というのは、血圧関係の薬の3つの柱だという事は、いつも言っていますね。

釣藤鈎が入っている薬の中で、太陰の薬が釣藤散、厥陰の薬画が抑肝散で、少陰の薬は七物降下湯です。その診断がきちんとつけば良い訳です。釣藤散は頭痛の薬としても使います。

 この間、釣藤散は東洋医学のシンポジウムのとき、耳鳴りに効く人もいるという発表がされていました。なるほど考えてみたら耳鳴りには、肝や腎しか絡まないと思っていたのですが、気の上昇でも確かに耳鳴りがしてもおかしくないので、うつ傾向にある人の耳鳴りに効いてもいてもいいのかなと思います。

抑肝散は肝の緊張による血圧の上昇に使います。

釣藤散は本来基本にはやはり、うつがあります。うつの人が一生懸命頑張ろうとするから朝の立ち上がりが悪くなりますし、朝方頭痛がします。

七物降下湯は時間に関係ないですね。1日中どこでも血圧が上がったり下がったり、不定になります。これは意外とお顔を見たら、かなりはっきりしますよね。

七物降下湯は何度も話してきましたように、腎陰の不足のために心火が上がるので、顔が真っ赤になってきます。眉を越して額までだいたい真っ赤になります。六味丸もそうですね。抑肝散は当然緊張感があります。場合によっては何かあったら青筋が立ってきます。本当に青い色を感じることがあります。

 釣藤散の人は、太陰の人ですから基本的には静かです。非常にうつ的で、話を聞けば不眠などもありますし、うつの特徴というのがあります。だから、釣藤散は 太陰を補う薬が主です。人参を使って脾を補し、あとは脾の気を発散させます。陳皮半夏が入っているのはこういう人でも社会生活を送らざるを得ないから、ストレスでやられやすくなっていますので、それを補すために入れてあります。

釣藤散、抑肝散、七物降下湯のいずれのお薬も、後で出てくる天麻を加えても構わないです。釣藤鈎は体を介して中枢にフィードバックする薬ですが、天麻は直接脳にも作用する薬です。

 実は、釣藤散に関しては、本によっては腎も虚しているだろうと書いてある本があるのですが、私は違うと思います。腎に対応するお薬はほとんど入っていません。ただ、こういう人が一生懸命頑張っているために、ときどきその頑張るゆえの気の上昇というか、桂皮などで抑えるような気の上昇ではなくて、空元気的な気の上昇が出てくるのです。どうも臓腑弁証をしないで、現象面だけで診る人が、その気の上昇を苓桂朮甘湯とか、六味丸などの気の上昇と間違って言っているのではないかなと、そういうふうに思います。釣藤散は基本には腎虚はほとんどありません。

 血圧を何としてでも下げようと思ったら、いつも言うように釣藤散はエキス剤だけではだめです 釣藤鈎や天麻の末を加えないと下がりません。釣藤鈎というのは、煮出してしまうとほとんど降圧する成分はなくなってしまい、鎮静作用しか残っていません。

 でも、朝方の頭痛には非常によく効きます。午前中にする頭痛というのはうつの頭痛だから、これには非常によく効きますので、それを目標に使うと結構いいと思います。ただ、釣藤鈎もなかなか飲みにくい薬で、人によっては全然飲めないという方もいます。場合によっては釣藤鈎と甘草を振り出しで合わせて飲ませると、釣藤散の効き目というのが非常によくなることが多いのです。

 それから頭痛だけではなくて、うつ症状そのものもよくする場合はもちろんあります。釣藤散を飲ませることで、ちょうど帰脾湯を飲ませたときと同じように、うつそのものがよくなる例は結構あります。だからむしろ、エキス剤での釣藤散はそういう薬だと、うつに伴う朝の最痛や、気持ちの重さ、午前中の体の動きが悪い、そういうものを改善する薬と考えた方がいいかもしれません。

テキストに書いてあるように、処方としては二陳湯に釣藤鈎と人参を加えたということです。もっと太陰を補いたいのなら、当然人参や、場合によっては黄耆を加えてあげるとさらにうまく補えますし、うつに対する作用もさらに強まってきます。ということで、結構これも使っていくと使いではありますが、あくまで西洋薬を使わないで、これだけで血圧までコントロールしようとするなら、先程言ったように釣藤鈎や天麻の末を加えてお使いになった方がいいと思います。

 ということで、この後の時間はまた質問の時間に充てたいと思いますが、前回お話をした鍼などの件も含めて、何かご質問があればお答えしたいと思います。

 

Q

天麻は物忘れとかそういうものにどうでしょうか……

(下田)

効きますよ。

 

Q

どれくらい使うのですか。

(下田)

末で使うのでしたら3グラムぐらいでいいと思うのですが、ただし天麻は、何と言いますか、ちょっと最初のうちだけ合わないという人もいるのです。だから、合わないという人にいきなり3グラム出すと、もうそれきり飲めなくなってしまうので、用心のために最初は2グラムとか1グラムでやってみて、大丈夫だったら3グラムまで やすというやり方の方がいいかもしれません。その方がうまく合うような気がします。

アリセプトを最初少ない量から使って増やすように、何か天麻というのは脳に直接作用するので、やはりそういう傾向があるのかなと思います。釣藤鈎はそういうことはないのですよ。釣藤鈎は合うか合わないかです。飲めない人は、やはり何をしても飲めません。「あれはもう木くずを飲んでいるようで飲めません」と言います。釣藤鈎はどちらかなのですが、天麻は増やしながら慣らしていくことで結構合います。天麻は中枢の緊張や興奮状態を鎮静化させますし、そういう状態でぼけている人を結構正常化する例はあります。

 

Q

思考が改善するような作用ですか。

(下田)

ありますね、要するに漢方薬で脳内に入るのは山梔子と天麻だけなのです。ほかのものは、ほとんどフィードバックで作用するみたいです。脳内に入るのは山梔子と天麻だけです。山梔子などは幻覚が見える場合があります。

天麻の場合は、逆に中枢を興奮させたり、逆に非常に抑制する場合もあります。だからちょっと使ってみないと解らない面があります。中枢に作用する結果、何か外れていた掛け金がはまったような感じで、思考回路が正常化する事がままあります。

 

Q

最初のお話なのですが、春と秋に喘息が起こりやすいということですが、それは土用に関係ありますか….

(下田)

土用に喘息が起こる方も居ます。春と秋に土用以外に、もう1つ喘息が起こりやすい状態があります。二十四節気の巡りを見れば分かるように、春は衛気が肝に巡りだしたとき、営血が肺を巡ります。だから春は肝が非常に変化しやすい時期です。肝が衛気ですから支配して主になり、肺が営血ですから、どちらかといったら陰の力になります。要するに肺が労力ですね。解りやすく言えば、肺が過労状態になるわけです。ところが、五行の方から言ったら相剋関係で、本来は肺が肝を抑えないといけないのに、逆に抑えられてしまうので、春の喘息の方が激しい状態になります。逆にやっつけられてしまうものですから。(下剋上)

秋の喘息は単に、本来肺の弱い人が、肺を一生懸命働かせていないといけなくなるので、肺の力不足になってきてしまうのです。だから春に入ったときと、秋になったときに起こる喘息は、一般的には春の方が非常に強い症状を出します。だから、春にうんと強い喘息発作を出しやすいので、そういうときに使う薬の代表を青竜と付けたのだろうと思うのですね。春の薬ということでね。春と秋に起こりやすいのは、どちらも肺に負担が掛かるせいですが、要するに春の方が一般的です。秋は強い発作ではないけれど、なかなか抑えられないのです。秋の間はずっと負担が掛かっているような状態が続くので、だらだらと続くような発作になることが多いのです。春の方は激しいですけれど、抑えてしまったら意外にすっとクリアしてしまいます。土用はまた違います。四季の直前の土用の時期はやはり本来脾のガードが緩むためで、臓腑相関というよりも、衝脈発作そのものですから、それは、まさにそのときにぽんと抑え込んで、衝脈をうまく処理してあげれば、その場で治まってしまうようなことが多いようです。

 一応原則はこうです。でもそのとき診てみないと解らない面もあります。春の方は春の水があふれるように水が多くなる傾向がありますし、秋は逆に水が引いていく頃なので、どちらかといったらみずみずしくない、乾燥型の発作といいますか、痰があまり多くない発作になることが多いですね。単に臓腑相関だけじやない、季節の流れによるものがちょっと加味されるので、少し微妙な点です

 

Q

1020日から冬の土用と言いますか、秋の土用と言いますか。

(下田)

一応秋の土用です。

一応7月の土用を夏の土用と一般的にいうものですからね。本当は冬に入る土用とか、秋に入る土用といった方が正しいのでしょうが。一般的には今が秋の土用、1月が冬の土用といった方がいいのかなとも思います。

 

Q

それで秋の土用に入るところの、営血のことなんですが、ほかのところはみんな手の少陽とか、手の少陰とかという言い方ですが、ここのところは手の心主という言葉になっていますが。

(下田)

手の心主というのは厥陰の心包経ですね。

 

Q

じやあ、普通に手の厥陰とかというのと同じことですか。

(下田)

はい、同じことです。これは難経の解説書に書いてあるのがそういう表現をしているのです。ある昔の本では11経絡しか書いていなくて、それでずっと調べていったらどうしても合わないということで、手のこの辺に流れを見つけ出して、それをまだどう書いていいか分からなかった人が心主と書いたのです。だから心主というのは、心主と書いてありますけど、これは心ではないのですね。心包なのです。

だから本当はこれも本来は肝の支配なのですよね。だから春の肺と肝の関係とは逆になります。秋は、肝の方は逆に弱くなっていて、肺の疲れの方がより大きいので、やはり春と秋ではちょっと発作の程度が違ってきてしまうのですね。でもまあ肝そのものではないし、心包というのはここの中でも一番弱いところなので、あまり秋は、肝は意識しないと言いますね。春はやはりもろに肝と肺が戦うというような感じになってしまいます。よろしいでしょうか。それじや、今月はこれで終わらせていただきます。どうもありがとうございます。

 

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