19回【さっぽろ下田塾】平成15926

 

今日は、処方解説はほと んどしないで、耳鍼を中心にお話をします。これはどういうことかというと、今まで処方に関しては骨格的なことをだいたいお話しているので、一区切りついた ところで、耳鍼のお話をしても役に立てることができるだろうということです。お手元の資料は、北海道東洋医学シンポジウムでも使った資料なのですが、私が やって来たこの処方解説というのは、鍼と一体になったときに一番効果を発揮するのです。

 ただし、この鍼という のは、何度かお話ししていますけれど、決して治療ではありません。鍼灸師の中には治療などという人もいますし、よく鍼治療という言葉も使いますけれども、 鍼は本来治療ではありません。これは単に症状を取るだけのことなのです。それは必ずしも治療とは言えないのはお解りですね。

 更に言えば、明らかな 対症療法をやって症状が取れるだけだったら、これはあまり意味を成さないのです。分かりやすく言えば、肘が痛いと言っているときに肘に鍼をして、それで症 状が取れても、果たして診断が合っているのかどうかは解らないのです。でも、肘が痛いと言っているときに、例えばまったく離れた部位のツボを取って、肘の 痘状が取れたとしたら、その人の体と病気を見通して診断ができたことになるのです。

 皆さんに最初、耳鍼を 教えるのは、耳鍼は実は初めからそういう治療だからです。耳に何か症状がある人に耳鍼をやるわけではないのです。ほとんどの場合、全身に何か症状が出てい るのを耳の鍼だけで取るという、初めから遠隔治療なのですね。そして非常に大事なことは、一臓診断というのを今まではずっと言ってきましたが、(本当は一 臓でなくて、例えば肝実碑虚肺虚だとか、心腎不交だとか、そういうような診断をきちんとつけた方がいいのですが)その臓腑の診断と処方が結び付いているわ けですね。

 今まで何度も言ったと 思うのですが、実は臓腑の診断と処方が一番結び付いているのは内因病です。あるいは不内外因もある程度結び付きます。それから内外両因病も結び付きます。 外因病は必ずしも臓と処方は結び付きません。

そして実は外因病にはあ まり鍼は効かないのです。外因病というのは表面から入っていって、経絡を通って、大抵、腑ぐらいのところまできて発症します。だから昔の傷寒金匱の時代と か、昔から伝えられている鍼の世界というのは、ほとんど外因病を中心に治療していたものですから毫鍼を使っているのですね。長い鍼を使わないと深いところ まで届かないのです。

ところが内因病は何度も 言うように、臓から腑に出てきて、経絡に出て、最終的に大抵、皮部に出て発症するので、内因病に対しては皮内鍼が非常に効きます。この耳鍼も耳の皮膚の表 面で皮膚そのものを使います。

 我々が日常的に診療す る時、外因病をわざわざ鍼を使って治療する必要はないのですね。風邪だとか、感染症だとか、現実の外傷だとか、そういうのは普通にお薬や、場合によっては 西洋医学的な治療でも十分良くなるのです。

日常的に苦労しているの はほとんど内因病、あるいは不内外因、内外両因病です。これに対してきちんと診断して鍼ができて、そしてその鍼の効果がその場で現れれば、診断が確定する わけです。

肝の人に仮に腎の鍼だけ をしたらまったく効きません。これは佐藤先生や一林先生方は見ているから解ると思うのです。私でもたまに間違うことがあります。間違うと全然効かないので す。それで、あらためて全部ゼロから診断をやり直してみて、やはり違うみたいだということで、鍼を置き換えると、その場で鍼の効果がはっきり出るのです。

でも、これはあくまでも 治療ではないのです。強いて言うならば仮縫いですね。仮に症状を取るのです。でも仮縫いであっても、症状が取れれば診断が決まるわけです。例えば肩が凝っ ている人がいるとします。その人が鍼によって、太陰で脾を中心とした肩凝りであることが解れば、処方は葛根湯系統でちやんと効くのです。

 でも現代社会では肝を 中心とした肩凝りが非常に多いのです。脾を中心とした肩凝りの人には、葛根湯や葛根加朮附湯などが結構よく効きますが、肝を中心とした肩凝りには抑肝散な どの柴胡剤が非常に効きます。要するに診断がつくことで、漢方による本格治療が容易になってくるのです.

(テキスト)に書いてい るのは、そういうことです。診断の時はまず望診をして大まかにつかみます。最初に大まかにつかむというのは何かと言うと、ここに書いているように内因病、 内外両因病、不内外因と外因病を分けることです。望診のあとは、主として問診と脈診ですね。脈診が一番有力です。脈診で一番区別しないといけないのは傷寒 なのです。傷寒のときはほとんど脈が浮いています。脈をぱっと取って、一番軽く押さえたときに脈が浮いて触れれば、ほとんどは傷寒です。もうそれだけで診 断がつきます。

傷寒の中で、肺や脾のと ころが浮いていれば陽明病ですし、心や腎のところが浮いていれば太陽病です。肝のところが傷寒で浮いていることはほとんどないですね。いきなり少陽病とい うことは少ないのです。外から入ってくるものは三重円の巡りを見れば解ると思います。ほとんど肺や口や鼻から入ってくるか、尿路などから入ってくるかで す。いきなり胆のう炎、胆道感染などを起こすことはめったにありません。胆のう摘出などをやっている人は、たまにあり得ます。

 まず、傷寒であるかど うかを区別して、傷寒でないと診断したら初めて、いつも言うように五臓、あるいは陰陽五行、あるいはどこの経絡に現れているか等を診断します。あと季節が どうであってというのは、これからまた別の機会においおい話していきます。こう言ってもなかなかこの診断は難しいと思うのです。だからまずこの耳鍼からや るといいのです。耳鍼からやると、逆に耳鍼で診断をすることができます。私と一緒にやった人だったらもうかなり解るかもしれないのですが、一緒に脈診を やったことのない人が、じやあ脈で肝と診断しなさい、心と診断しなさいと言っても自信がないのですよね。

 でも先程言ったよう に、この耳鍼をきちんとやれば、特にこの臓腑診断がきちんと合えば後は鍼の位置は決まってきます。この耳鍼というのは、臓腑の臓穴と、人間の体の場所を示 している身体の部位を示す穴と、あとは特殊な機能穴です。その3種 類しかないのです。そして身体の部位を示す穴と機能穴はもう症状でどこを選ぶかは決まっているわけですね。

 例えば痛がっていると きにはこの穴を取ると、あるいはぜいぜい言っているときはこの穴を取るとかね。あるいはそこに炎症が強いときはこの場所を取れというのは、こちら(場所、 機能)で決まってしまうのです。これは考えなくても、チャートを引けばちやんと載っているのです。これはもう決まりきっていますので、あとは臓腑診断だけ を正確に当ててみて、それでその場で患者さんの反応が変わるなら、自分の診断が合っているということになります。耳鍼は単に五臓の診断をするだけですか ら、非常に簡単です。

1年ぐらいこの耳鍼でやっ ていただいて、皆さんの自信がついたら、今度は体鍼の方をお教えしようと思っているのです。体鍼の陰陽対極法というのは、かなり哲学的になります。耳鍼で この五臓診断をやり続けることで、実は皆さんの気というのがどんどん高まっていきます。耳鍼の説明の紙をあげていましたよね。その中に説明が書いてあると 思いますが、耳鍼というのは面白いものですね。おうちの人に揉んでもらうのですが、それをやってもらっているうちに、面白いことに気付いたのです。例えば お父ちやんが来ていて、お母ちやんに揉んでもらいなさい、あるいはお母ちゃんが来ていて、お父ちやんに帰ったら揉んでもらいなさいと言います。そうした ら、揉ませていると、揉む方も調子が良くなってくるのです。

 人間というのは、気の 向上とか気のやりとりというのは、言うほど簡単にはできないのです。ところがそのポイントは耳鍼の穴位にあるのです。これは体の穴もみんなそうなのです が、ツボというのはカレーズの井戸なのです。シルクロードの砂漠にありますね。ずっと地下水道になっていて、私も1回潜ったことがありますが、すごいものです。天山山脈といってもはるか彼 方で見えないところから、オアシスまで地下水道が引いてあるのです。そして30メー トルか50メートルごとぐらいに、井戸が掘ってあるのです よ、カレーズがね。そして、そこへ降りていくと、とうとうと水が流れています。それが陸地のオアシスといって、まさにこのわき出しているところが穴なので す。

 それは体のツボも同じ なのですね。穴と穴の間にはあまり気がないのですが、そのツボと呼ばれているところは気がわき出しているのです。例えば1年間、すごくたくさんの患者さんに耳の鍼(体の鍼ができればもっともちろ んいいのですが、耳の鍼の方が簡単です)をやって、揉んであげているだけで、どんどん皆さんの気が高まっていきます。

 それはもう自分で解り ますよ。やり始めて術者の気が高まれば、診断能力もさらに高まっていきます。私もそうしてきたので、必ず皆さんもできると思います。そういうことをずっと やっていると、あるとき気はこういうものだと、もう触るだけで解るようになります。

 いつも言いますけれ ど、気というのは概念ではないのです。来月、函館でこういう話をしますが、どれぐらい解ってくれる人がいるでしょうか。気は解りにくいものなのです。私も 説明するための概念と思っていたのです。ちょうど数学でいうi、複素数のようなものですね。虚数というように本来はないものなのだけれど、概念として置く のが複素数でしょう。それと同じように気という概念を設定してあるのだと思っていたのですが、あるときにその気を感じ、気を動かすことができるようになっ たら解ってしまったのです。

 ただこれは難しいので す。超音波は見せることができます。気もいろいろ何とか写真とか、それを捉えようとするいろいろなやり方はあるのですね。良導絡なども、気の流れを一生懸 命捉えようとする1つのやり方ではあるのですが、完全には 人に見せることができないのです。でも、やはり何らかの形でそういうふうに捉えられるものであり、本質的で実在のものです。架空のものだったらどこまで 行っても捉えることはできませんけれど、実在のものですから、努力を続ければ必ず捉えることができます。

 だいぶ前置きが長くな りましたが、要するに耳鍼から教えるのはそういう理由です。全部普通に教えていったら、耳鍼だけでたぶん半日ぐらいかかると思うので、一番大事なポイン ト、明日からでも使っていけるポイントというのをお話しします。

 耳鍼の五臓はもうお話 ししましたね。今言ったように、この耳鍼の五臓のポイントというのは非常に大事です。この耳鍼の五臓が分かると、逆に東洋医学でいう五臓の意味も分かりま す。ただ、たいていの本では東洋医学で言う五臓は西洋医学の五臓とは全然違うものだというように書いてあります。実は全然違うものというのは脾だけなので す。これも何度か言ったように、『解体新書』を作るときに杉田玄白が翻訳を間違ったのですね。ちょうど肝臓の反対側にある脾臓が脾だろうと、要するに膵臓 を探せなかったのです。ところが漢字の語源のこの膵臓を表す、脾というこの字は、膵臓のあのようなネット状の構造を示しているのですね。

 それから耳鍼の位置を 見ていても解るのですが、脾は胃の横にあります。脾だけが違うぐらいで、他は実は解剖学的な構造と非常に一致はしているのです。

確かに東洋医学でいう心 は西洋医学でいう胸で脈を打っている心臓だけではないのです。それから肺はここで空気を出し入れしているこの肺だけではなくて、それぞれ(例えば肺は心肺 機能、大腸、鼻、皮膚等)を含むものなのです。それが解ってくると、本来の心の機能とか肺の機能だとか脾の機能、肝の機能、腎の機能というのが解ってきま す。

 心とはこういうもの だ、肺とはこういうものだ、脾とはこういうものだ、肝とはこういうものだ、腎とはこういうものだと、何度も今までお話ししましたよね。それに応じて診断し てみてください。先程も言ったように、この診断が間違っていたら鍼は効きません。自分で確信が持てなかったら、この一臓じやないかとまずやってみて、全然 反応がなければ間違っているので別な穴を取ってみるのです。

 何度も言いますが、肝 実脾虚肺虚という場合、出発が肝なのか、脾なのかを診断します。まあ肝実脾虚肺虚などは、本当は全部付けて良いのです。組み合わせが、例えば肝腎両虚脾仮 性実証という状態もあるのですが、これは全部付けるとまた効き目がおかしくなります。最初は、まず一臓を診断します。一臓が合えば、臓腑の考えられる組み 合わせで、例えばこの人は肝も衰えている、腎も衰えている、そうしたら脾が実しているのじやないかとか、心と腎がバランスを崩しているから、そっちを取っ てみるだとか、そういう取り方をだんだんしていけば良いと思います。

 五臓診断は、今回はあ まり詳しく話しませんが、これは最後のポイントですね。ほかのところ(場所の穴と機能穴)を全部取ってしまって、五臓診断が合つているかどうかで確定診断 をすればいいわけです。五臓診断は今までずっとお話ししましたからいいと思います。

 腑の部分は図を見れば 解ると思いますが、倒胎学説と言って、耳を逆さまに見ると人間の胎児の形になります。この胎児の形というのは、その人の胎児のときの形です。いいですか。 一般論ではないのです。胎児のときから頭脳が優秀だった人、脳みそがいっぱいあった人はやっぱりここは大きくなります。面白いことに、手足の感覚がうまく バランスが取れていない人というのは、微妙に、見慣れてくると手と足の部分がすごく狭かったり、完全に分離していなかつたりします。要するに、その人が赤 ん坊のときにどういう体形をしていたかというのが、その人の耳の形になっています。

 だから慣れてくると、 その人の得意なところとか苦手なところが解ります。やはり今の若者は、結構、足が長かったりするのが現れます。要するに頭があって、手があって、足があっ て、肩からずっと先に行って、こちらは足、腰に来て、ここに内臓があります。内臓の、どちらかといったらこの部分にずっと臓が行って、それに沿うような格 好で腑が行くというふうになります。腑の方で、覚えておくべき穴で、よく取るのはと小腸と大腸で、これは区域ですから皆さんの耳の模型でよく眺めてくださ い。小腸は意外と心臓の症状のときに取るのです

 五臓診断で心臓そのも ののときは当然、心の位置を取ります。そうではなくて、五臓診断のいかんを問わず、心臓の神経の異常みたいなのを来しているときに、例えば不整脈だとか、 変な動悸を感じるとか、そういうときにこの小腸を取ります。これは覚えておいてください。

 それから胃や大腸はも ちろん胃や大腸そのものの病気のときに取ります。例えば下痢などのときに大腸を取ることもあります。でも胃も大腸も不眠のときに一番よくくのです。これは いろいろな理由ではあるのですが、胃や大腸を取るのは、とにかく臓腑は本来の臓腑弁証で一臓診断、あるいは二臓、三臓の診断でも別に取っているわけですの で、それでさらに補うときに、臓の代わりをさせるためなのです。要するに胃は脾の代理、大腸は肺の代理です。不眠の人の大部分というのはうつ的な不眠の 人、あるいは緊張するための不眠の人ということで、前にも言ったようにベッドメーキングをするのです。脾の方は敷き布団で、肺の方は掛け布団になります。 ベッドメーキングをしてやると大抵それだけで自然に寝付くのです。

 結構ほかのところを 取って、胃のツボや大腸のツボを加えてあげて、夜眠れないときに、これを揉んでごらんと言うと、かなりの確率でよく寝られます。

しかも睡眠薬ではなくて 本当に自然の眠りになります。要するに強制的に眠らせなくても、ベッドがちやんと整えば普通は黙っていても眠るのです。たまに、脳そのものに異常があって 眠れないときに、小腸を取ったりすることもあります。(心=脳 心の腑は小腸)

 それと胃はなぜか痙攣 を抑えるのによく使います。これは私もまだ完全に解らないのです。全身の痙攣を抑えるのに、中国の文献を読むと胃を取ってあるのですね。半信半疑で僕も ずっと取り続けたら、確かに結構抑えるのです。だから脳炎の後の痙攣だとか、あるいはバーキンソンなどの振戦にもかなりこの点は有効です。そういうときに はこの胃の点を取ります。SSPEとか脳性麻痺だとか、脳 腫瘍の術後だとか、そういう方も全部合わせて今10人近く 診てい

るのですが、ほとんど例 外なしにこの胃を取っています。それまで飲んでいた抗痙攣薬は、半減しますし、全廃してしまった人もたくさんいますから、たぶん有効なのは間違いないと思 います。

 私のところでやってい るときは、体の陰陽対極法の皮内鍼を置鍼して、耳鍼を対症療法的に機能点と場所点だけを取るので、実際には取らないのですが、耳鍼だけでやるときに非常に 重要な穴が2つあります。1つはここにある神門というツボです.これは手の少陰心経の神門のツボと同 じです。

 神というのは脳です。 脳への回路を開くツボなので、神門というのです。だからほとんど体だけの問題で症状を出している疾患には、このツボを取る必要はないのですが、何らかの意 味で脳にフイードバックがかかっていて症状が出ているなというときは、この神門というのを取ってあげると、それ以外に取ったすべての耳鍼のツボが脳に直結 していきます。痛みというのはやっぱり1回中枢に行ってフ イードバックされていることが多いので、痛みに関してはほとんどこの神門というのを取ります。この真ん中の上寄りになりますね。これはずっと見続けると、 見た瞬間に解るようになってきます。

 その次が枕(ちん)と いうツボですね。枕(まくら)という字が書いてあります。ここにあります。ちょうどこのくびれの真下ぐらい。取った方がいいかどうか確かめるときは、例の 探触子でやってみてください。患者さんが鍼をその位置に置いてほしがっているときはちゃんと反応があります。「あっ、そこが痛い」と言いますね。患者さん が教えてくれます。それに従って素直にやっていっていいと思います。

 この枕というのは何な のかというと、脳神経と非常に結び付いています。ただ脳神経の中にやっぱり迷走神経が含まれているものですから、交感神経が絡んでいる疾患のときには、神 門は取らなくてもこの枕の方は取るという状態が多いのです。要するに今その人に起こっている症状に、迷走神経を含む脳神経系の何らかも結び付けたいときに この枕を取ります。耳鍼の圧倒的に多い組み合わせというのは、何らかの臓を取って、この神門と枕を加え、これを基本にしてほかのツボを取っていく機会が非 常に多いのです。

 さて、あとは簡単に言 うと、1つは絵の通りにどこにその人の体が該当するかを判 断します。やはりこの図(資料4頁)が一番解りやすいです ね。実際にはこれだけツボ(資料5頁)があるのです。でも これだけ全部を覚えるというのは非常に大変ですので、大まかに分けてこの図(資料4頁) を使います。まず内臓に取りますよね。例えば内臓に面しているところが内側ですから、首や胸やおなかはここですね。それから真ん中が、ちょうど人間の体で も縦割りにしたら真ん中に脊柱があるわけです。だから頸椎、胸椎、腰椎、ここまで分かれています。実は頚椎は7区 域にちやんと分かれます。胸椎は12区域に分かれます。腰 椎は5区域にちゃんと分かれます。

 そしてこれは、腰骨な ど痛がっている人にすごく多いですが、例えばその人が腰の下の方も痛がっているとき、そのままではなかなか解らないのですが、ちゃんと酒精綿でふいて、慣 れないうちは全 体をちょっとマッサージしてあげると、痛い位置がちゃんと浮かび上がってきます。

 たいていは赤い色で浮 かび上がってきます。それは反応点というのですかね。例えば腰の下の方が痛い人は、ちゃんと下の方にそういう点が出てきます。もちろんそれは探ってみても いいのですが、そういう点が浮き上がってきたら、もうそこでそのまま圧丸を置けばそれで良いのです。

 前にもこの話をしたか もしれませんが、多少ずれても大丈夫です。ツボというのはこういう構造をしているものですから、この付近に置いても、揉むと落ち込んでいってくれます.慣 れるとちやんとこの上に置けるようになるのです。慣れてくると、ツボに入った感触は「ああ、入ったな」と指先で解ってきます。

「ああ、変だな、ずれた な」というのも解るのです。ずれたなと思ったら付け替えるようにします。耳の一番外側の縁のところはあまり使いませんので、耳の中のこの一番外側が図のよ うに肩関節と肘、それから手の位置になります。指先などはこれで見て解るように、1本 ずつ、極端なことを言うと本当は1関節ずつ全部探ることが できます。最初のときにお見せした、指が曲がっているのがその場で伸びてしまったという人などもそうです。

 五臓診断とその関節の 穴がぴったり合ったら、その場で指が伸びたのです。ちょっとでもずれるとなかなか難しいですが、ただうまく当たれば1関節まで当てることができます。でも1関節まで当てるのは、当たったらラッキーというぐらいです。でも基本的に は肩があって、肘があって、腕があって、指先があるという順番です。

 それから足の方はなぜ か坐骨神経に属するところがこちら側に分かれ、普通の足に関するところがこちら側に分かれて足の指先までいきます。手の方は図で解るように親指側が内側に 行きます。足はつま先側が手の方に向かっていて、かかと側が反対側の方に向いています。

 これを覚えるのが結構 大事です。患者さんが例えばここが痛いと言っている1点を そのまま耳で必ず探し当てることができるからです。肩が痛いと言っているときは、耳の肩の点を選べばいいのです。考え方によっては非常に解りやすいので す。耳の解剖を、体の解剖に合わせてその1点を選べば済む ことなのです。だから難しいようで易しいのです。非常に単純な作業です。

 ここには骨盤内の病 気、さっきの神門はありますけれども、内生殖器だとかそういうものがあります。同じ骨盤内の病気でも膀胱や前立腺はこちら側にあります。腎臓よりもっと先 にあります。あとは解剖学的配分では頭ですから、目がここにあって、この前後に口蓋だとか、あるいはうなじだとか、そういうところがあります。

 この解剖学的な配分 は、とにかく患者さんの何らかの症状に対して、特に痛みに対して非常に有効です。その痛んでいる場所を取る、ただそれだけなのです。最初にも言ったよう に、五臓診断を除いては、取るべき場所がもう決まっているのです。痛みがあるなら、神門と枕を取って、あとは痛んでいる場所を取っていきます。最終的に効 くか効かないかは、五臓診断が合うかどうかにかかっています。それだけのことです。あくまで場所を当てることが目的ではなくて、五臓診断を導くためですか らね。あくまで鍼は診断です。治療ではありません。私のところのカルテでも、処方や治療側には書いていません。所見を取る側に鍼の所見というのを書いてい ます。要するに診断をし続けて確認し続けるということですね。

 それから先に覚えてお きたいのは、いくつか機能点というのがあります。先ほど言ったように、機能点で、一番重要なのは交感という穴です。これは交感神経の穴です。だいたいこの 奥にあります。

この一番奥ですね。中に 指を突っ込んでみて、この出っ張りを追っていって、この突き当たりのこう向いた側(耳介に対して直角に指を当てた指先の位置)、ぶつかったところの中に落 ち込む位置、その位置に交感というのがあります。

これは文字通り交感神経 を整えるツボです。このツボがものすごいのは、例えば喘息発作でぜいぜいしている子供が、そのツボを取った途端に、ぜいぜいがすっと消えるということで す。要するに交感神経を興奮させるのと同じ状態です。 逆に交感神経が過緊張しているときは、それを解くこともできます。面白いツボです。

 鍼に限らず東洋医学と いうのは、最初にそのお話をしたと思うのですが、虚実や補瀉は対立概念ではなくて、一直線上にあると言いましたね。例えば毫鍼の場合の補法と瀉法というの は刺激の度合いなのです。より強い刺激を与えるのが瀉法になりますし、優しい刺激を与えるのが補法なのです。

 耳鍼もまったく同じで す。耳鍼では補瀉をどうするのかは、非常に簡単です。耳鍼で実際に補瀉をやるところは、ほとんど五臓が多いのです。耳鍼の場合は強く揉めば瀉になり、軽く 揉めば補になります。補瀉も非常に簡単なのです。

 ただ、交感という穴は 人によってちょっと反応の仕方が違っています。強く揉んで発作が治まる人もいますし、軽く揉んで治まる人もいますので、まず軽く揉んでどうかというのを確 かめてみた方がいいかもしれません。要するに喘息のときなどはそうですが、それ以外のときでも交感神経が非常に緊張していると思われるときに、この交感と いうツボをまず取ります。

 それから次に重要なツ ボというのは内分泌というところがあります。ここにあります。この下ですね。これは一切の炎症に対して有効です。だから、リウマチとか、明らかな慢性炎症 のある人に対しては、この内分泌のツボは非常によく取ります。最近、西洋医学でようやく喘息は炎症であると理解されましたけど、昔から喘息にも耳鍼は実は 内分泌を取っているのですね。やはり炎症と見なしているのです。

 あと特異点。ちょうど この内分泌のこの上、これは実は軟らかい模型だと、合わせるとこちらとこちらでぶつかるところがあります。自分の耳でやってみれば分かるのですが、いずれ にせよこちら側の一番飛び出したところ、これは腎上腺と書いてありますが、何のことかというと副腎です 副腎を刺激するツボです。

ここに圧丸をあてること で、内因性の副腎のホルモンの分泌を増やすことができます。だからこれも結構よく取ります。

喘息のときも当然取りま す。外からステロイドを加えるより、内因性のステロイドをあげた方がいい場合ですね。それから、リウマチでステロイド離脱を図っている人も必ずこれは取り ます。できればちょっとステロイドを使ってみたいなと思う人の場合は、外から加えるのではなくて、このツボを取るのです。これは西洋医学的な感覚で取って 構いません。「ああ、この人には本当はステロイドを使いたいな」と思う人にはこのツボを取ります。

 そしてこれとぶつかり 合うこの反対側、ちょうどぶつかるところが喘点といわれ、喘鳴を押さえるツボです。なぜか同じような咳でも咳点という穴もあります。喘息じやなくて気管支 炎みたいなものは、神門と内生殖器の中間ぐらいの角窩中(咳点)というところを取ります。だから最近増えてきたお年寄りに多い、慢性の肺線維症、まあ喘鳴 もあれば咳もあるというものですが、この場合には両方を取ります。単なる気管支炎だけだったら咳点になります。

 それからあといくつか 特異点というのがあります。交感の上の方のつけ根、ここが降圧点と言われます。それともう1つ、 ここを肝陽といいます。これも特異点なのです。肝陽上亢というのは、反応性の交感神経の緊張状態で、いわゆる興奮状態です。緊張して青筋を立てているよう な状態、それをなだめる穴です。

 それから耳の裏側に降 圧溝があります。これはちょっと難しいのですよね。患者さんの耳の裏側を見ると分かるのですが、耳の裏で真っすぐ最初に見える筋はここにあります。それと は別に分かれて、ちょっと三角形にくぼんだところがあります。その中に降圧溝というのがあるのです。要するに降圧のための溝です。

 でも模型が悪いです ね。実際に耳を見た感じとはちょっと裏側は違いますね。

まあだいたいその付近に あります。最初の溝じやないと思ってください。最初の溝も同じ高さのところは、実は肩凝りなどに使うツボです。耳の表側は逆立ちに(体の部位と)なってい ます。耳の裏側はそのままなのです。だから耳の裏側の体に対する位置関係は、第1列 は上から肩になりますし、真ん中が胸ぐらいになりますし、下の方が腰や足になります。それとちょっとずれた斜めの奥に降圧溝というところがあります。

 実はこの降圧点と降圧 溝と肝陽を3点セットで取ると、肝陽上亢を起こしているタ イプの高血圧の方だったら、その場で上の血圧が20ぐら い、下の血圧が10ぐらいストンと落ちます。それで診断的 治療ができます。だからそういう方というのは抑肝散などで血圧が上がらなくなります。高血圧で、いわゆる白衣高血圧とか、本当は降圧剤を飲ませていると、 明け方には100ぐらいまで血圧が下がっていたりするよう な、そういう人はたいてい反応性の高血圧なので、上記の3点 セットで取ると、もうそれだけで診断的治療ができます。

 もちろん五臓診断をき ちんとして、そこに置鍼していて、最終的にこの降圧点、降圧溝、肝陽を取りますが、肝陽上亢があるのだというのをとらえないとだめなのです。肝陽上亢をよ く起こすのは脾虚肺虚肝陽上亢です。あるいは腎陰が不足して肝陽が上がるタイプです。たまには肝実脾虚肺虚で巡ってきて、もう1回肝陽が上がってくるタイプもあります。いずれにせよ、肝が絡んで血圧が 上がっているというのは神経が緊張しやすいということですね。こんな人は神経が緊張して血圧が上がっているのだなと確かめる為、この3点セットで取ると、本当にその場ですっと下がります。そうするとそういう 人には西洋医学の降圧剤は良くないのです。西洋医学の降圧剤に全部悪口を言っているのではないのですよ。腎性高血圧とかそういうものは、漢方や鍼ではあま りうまくいかないのです。やはり腎血流量を増やしたりする降圧剤が必要になるときもあります。でも、現実に外来で遭遇する高血圧の患者さんというのは、だ いたい9割が肝で血圧が上がっている方です。だから、よそ から来る人で降圧剤をもらっていた人の10人のうち9人までは、通っているうちに、降圧剤が不要になってしまいます。本人はハ ラハラしますし、血圧が上がっていると不安になりますので、最初はこういうツボを取って下げてあげるのです。でもこれをやって下がるのだというのが解った ら、一所懸命自分でも耳を揉みながら乗り越えていきます。

 そのうちに抑肝散だと か、あるいはもちろん釣藤散(脾虚肺虚肝陽上冗のときは釣藤散です)、あるいは釣藤散に釣藤鈎や天麻などを加えた処方をしていきます。あるいは抑肝散に釣 藤鈎や天麻を加えるような処方もします。前にも言ったように、反応性にちょっと血圧が上がるのが釣藤鈎で、肝陽がうんと上がりすぎて脳にまで影響を与えだ すと天麻なのですが、天麻と釣藤を合わせて使っても結構いいものですね。

 七物降下湯証の高血圧 にもある程度は有効ですが、ちょっと効き目は悪いですね。当然、七物降下湯の場合は腎が絡んでいる高血圧なので、この組み合わせはあまり効きません。でも 患者さんが、どうしても西洋の血圧の薬を減らしてほしいと希望するときには、結構使います。

 あと日常的にどんどん 使う鍼の処方といいますか、それを話していきます。先ほどから何度か喘息の話をしました。特に子供の喘息はもうその場で治まりますが、お薬を出すとだいた いその後1回ぐらいしか、鍼を必要とする発作をおこすこと がないのです。

 それで後はお薬だけ で、だいたい2年で完全に治ってしまいます。非常に簡単で す。というのは、子供の喘息はもうほとんど決まりなのです。肺がたいてい絡んでいます。だから解らなかったら肺を取ればいいわけです。でも、この子は神経 質そうだなと思ったら、当然肝が絡んでいますから肝も取ります。胃腸も弱そうだなと思ったら脾も取ります。ほとんどのパターンはこの肝と肺と脾です。

 一臓診断と言うけれ ど、子供の喘息の場合、耳鍼の便利な面もあるのです。五行理論からはこの組み合わせは肝実脾虚肺虚にしかならないのです。だから、一臓診断できなくても、 子供の喘息の場合は肝を瀉し肺と脾を補う、そういう鍼の付け方をします だから肝と脾と肺を取って、肺は右肺、左肺で、心臓を挟んで2点取ります。そして交感を取って、内分泌を取って、腎上腺を取って、喘点 を取って、気管がちょうどこの付近にあります。ちょうど心臓と耳の穴(あな)の間に気管があります。それでほとんどその場で治まります。

 大人もたいていは治ま ります。ただ、大人の場合は耳鍼では手応えがちょっと弱いのです。また、耳鍼の欠点は言っていなかったですが、痛いということです。体の鍼は、場所を選べ ば全く痛みなしですることができます。刺入点を、痛点を避ければいいわけです。だから痛みに敏感な人は、丁寧に時間をかけて痛点を避けて刺入してあげれ ば、全く無痛でやれます。ところが耳鍼というのは痛み刺激で反応するものなのですね。だから大人の場合は残念ながら痛くないと効かないのです。

 ところが、例えば幼児 は、体の鍼の場合は実際に鍼を刺さなくても、鍼を貼付するだけで良いのです。要するに危険信号に対して皮膚が非常に敏感なのです。だから耳の鍼もほとんど 痛みを与えないで、せいぜい絆創膏がきちんと留まるだけ、最初にきちんと押さえるぐらいでちやんと効くのです。その場でみるみる呼吸が楽になってきて、喘 鳴が治まってくるので解ります。そうすると何よりもお母さんが安心して、すごく信頼してくれるようになります。お母さんの信頼を勝ち得ると、少々のことが あっても大丈夫ですね。子供にとってみたって、注射されるより早く、しかも楽になりますから、すごくいいのです。

 

Q

耳鍼というのは鍼を置く のですか。

AA

鍼じやない、種ですね。

 

Q

種を置く。

AA

はい、前あげたのは王不 留行(オウフルギョウ)の種で、薬草の種です。日本にないのですね。だから中国から持ってくるしかないのですが、すごく安いのです。この間も、皆さんにお 分けした分、全部でも何百円ぐらいだと思います。だからツムラさん、中国にしょっちゅう行かれているので是非買つてきて、皆さんに配ってあげてください。 そして私の場合はさらに中国の薬用絆創膏を使っています。それと同じ物もツムラさんは分かっていますので、買ってきてもらって、それで張ってもいいと思い ます。

 ただし、私のところで はもう1つ、カブの種を使っています。王不留行の種という のは薬効というのを持っていて、これそのものがかなり強い気を持っているのです。だから張っておくだけでも効きます。子供などは特に張っておくだけで効く けれども、カブの種は常にもんで痛み刺激を与えないと効きません。

 だから私のところでは 逆に、王不留行では効きすぎてしまいそうな人にはカブの種を使います。でも全然効かないわけではないので、王不留行が簡単に手に入らないなら、少なくとも その場での診断をするだけだったらカブの種で十分です。治療はもうお薬でします。診断が合っているかどうか確かめるだけだったら、カブの種で十分です。そ の場でもめば効くわけですからね。診断が合っていれば効きます。

 カブの種もコカブの種 というのがいいです。コカブの種というのはきれいな真ん丸い形です。1点 に当てられるようになれば構わないのですが、そうじやないときは、いびつな種だと落ち込んでくれませんが、こういう真ん丸だったら落ち込んでくれますの で、そういうのを使います。王不留行というのは非常にきれいな形をしています。そして黙って張っておくと、それだけで過敏な人はかぶれるぐらい強い気を 持っています。だからこれが一番いいと思うのです。

そして子供の喘息の場合 はこれでほとんど効いてしまうので、こうやって診断がつけば、もう使う薬は当たり前のこととして神秘湯になります。神秘湯と発作を起こしたときに麻杏甘石 湯合小青竜湯を持たせておくのですが、ほとんど麻杏甘石湯合小青竜湯は飲まないで治ってしまいます。神秘湯をずっと飲みながらやっていると、だいたい1年を過ぎたぐらいからもう子供も嫌がって飲まなくなってきます。それでだ んだん症状を見て飲ませる様にして、だいたい、2年ぐらい のところで、お母さんが不安がっても、説得してやめさせます。アトピーはたまに、もう少し時間がかかる場合があるのですが、喘息に関しては最近では2年以上かかった記憶がありません。

 子供の耳鍼は肝のとこ ろはちょっと強く揉んで、肺と脾のところは軽く揉むぐらいで、もうテープが貼れてしまえばそれでいいのです。ただし、カブの種でやるときはやっぱり揉んで やらないと、子供の場合もだめだと思います。王不留行だったら軽く押さえていって、付きさえすればそれでいいのです。喘息に関しては、耳の鍼は結構小学校 まで有効かもしれません。

 アトピーには、実はあ まり耳の鍼は交かないのです。アトピーは体鍼しか効きません。いろいろ本に書いてあり、やってみましたが、アトピーの子というのは耳も過敏性を示すことが 多いので、効く効かないより以前に、耳に貼ると絆創膏に反応してしまって取れてしまうのですね。かえって余計にただれたり、それで耳鍼がうまくいかないこ とが多いのです。喘息に関しては非常にいいのですが‥・。

 喘息に近いもので、ア レルギー性の鼻炎なども取る点はほとんど同じです。喘点の代わりに、腎上腺の内側にある内鼻点を取ります。それと名前は書いていないですが、10頁の図でだいたい額と鎮咳点の中間ぐらいのところに反応点があり、これ を取ります。

 だから喘息の取り方と ほんのわずかの違いで、後はまったく同じです。交感と腎上腺と内分泌と取り、気管を内鼻点にし、喘点を額と鎮咳点の中間の反応点に移動させるだけです。

 これは一林先生、もう 何度も見ましたよね。鼻が詰まっている人がその場で鼻がすっと通ります。あるいは鼻水が止まらなかったという人がその場で止まるのです。これはその場で分 かります。そのくらい劇的に反応します。鼻炎を起こすのは、9割 は肺です。でも1割ぐらいは肝や脾を出発とする人がいま す。本当は一臓診断を正確にやった方がいいのですが、解らなくなったら同じように肝実脾虚肺虚で取ることもできます。(肝と脾と肺を取る。)

 あと、しばしばよく取 る点で、耳鍼の入門で解りやすいのがあります。よく遭遇するのは寝違えです。

寝違えもほとんど首が動 かない状態で来ますけれど、その場で動くようになります。寝違えをする人はほとんど肝の人です。

 そうでなくても寝違え は、最終的には肝穴は加えた方がいいのですが、やはり一臓診断をできるだけ正確にした方がいいと思います。肺や脾の人は、肝は従として上がって来ます。心 や腎の人も、心や腎がうまくいかないために肝陽が上がってきている場合があります。心や腎の反応として肝陽が上がっている場合は、肝だけじやなくて肝陽も 一緒に取った方が、いい結果が出ます。

 その人の反応している 中心がどこにあるかというのをとらえると、後は痛みですから非常に簡単なのです。神門と枕を取り、頚椎と首と鎖骨のこの横1列、3点 を取ります。耳の図の方は、この3点をきちんと分けてあり ますね。だいたい寝違えている人というのは、ほとんどの場合、肝の方が多いのです。なぜかというと、肝の方というのは寝ている間にも筋肉を緊張させている のです。そのために寝違えをしてしまいます。だから9割ぐ らいは肝の方なので、迷ったらまず肝に置いてみて、神門と枕で脳や脳神経に結び付けて、後は場所点として首筋の3点(頸椎、首、鎖骨)を取るだけです。これもその場で首は動くようになり ます。

 当然そうなると、肝の 人だったらやはり抑肝散などになってきます。肺や脾の人だったら葛根加朮附湯みたいなものになってしまうのです。このように同じ寝違えでも薬がちょっと変 わってきます。あるいは心や腎の人だったら、桂枝湯系統になってくることがあります。

 これに近い状態とし て、一番多いのは肩凝りです。私のところは、さすがに肩凝りだけで来る人はそういませんけれど、前のところにいたときは近場の人が、特にお母ちゃん連中 が、しょっちゅう肩凝りで来ていました。これも何らかの意味で肝が絡んでいることが非常に多いのです。肝の絡んでいる人というのは、ストレスと一生懸命闘 いながら生活しているからです。ただし何度も言うように肝が出発の人か、肺や脾が出発の人か、心や腎が出発の人かを診断します。肝が出発の人はこの場合は7割ぐらいでしょうか。2割 ぐらいが肺や脾が出発で、1割ぐらいが心や腎が出発の人で す。その点を一応見極めて、取るのはやはり神門と枕と、同じところを斜めにこう整っていきます(頚、頚椎、肩)。

今例えばここで肩が凝っ ている人はいますか。別に王不留行がなくたって大丈夫なのです。肩が凝っている人はたいてい肝なのです。

(受講生一人に)でも、 少しあなたは脾もある人なのですね。種を取らないで指先でやっても良いのです。(脈をとって)やはり肝ですね。肝を押すと。

(受療者)そこは痛いで す。

痛いですね。これが神門 と枕です。(穴を揉み終わって)どうですか。肩を動かしてみてください。

(受療者)楽になったよ うな気がしますけど(笑)。

 慣れてくると指先だけ でも大丈夫です。シンポジウムのときも、腰が痛い人をその場でやってあげて治っています。肩こりはこういうふうにだいたい場所が解ってくるとその場で出来 ます。いいですか。膝なんか痛いのはだいたいその場で治すことができます。一応耳鍼の材料は、いつも私は持ち歩いているのですが、その場でやろうとする 時、慣れてしまったら指先で今みたいに揉んであげるだけで、症状を取ることができます。そうするとそれだけで治療が可能です。

 痛み系統で、よくある のは膝関節症です。膝関節症で圧倒的に多いのは脾の病証です。肺も絡んでいる場合があります。意外と肝は絡んでいないことが多いのです。脾と肺だけが絡ん でいることが いですね。そして舌を見たらやはり水があふれています。舌に水があふれていないで膝を痛がっている場合は、いわゆる膝関節症じやなくて、リ ウマチによる膝の関節炎や、老化現象による膝の関節炎ということになってきますので、その場合はまたちょっと違うのですが、基本は主たる臓腑が何であるか ということです。

膝関節症もやはり7割ぐらいは脾か肺、要するに太陰の病証です。だから、だいたいは脾と肺を 取ります。そして痛みですから神門と枕を取ります。この場合は、交感はたいてい絡んでいません。それから膝関節を取ります。それから膝関節のもうちょっと 隣に、腰に近い所に膝点がありますね。膝に対して新たに取る点は、内分泌と腎上腺、この4点 です。これもしばしばその場で、お座りできなかった人がお座りできるようになったり、膝の屈伸ができるようになつたりします。

 後は要するに臓腑点は 何を取ったかでお薬を決めるのですが、肝などを中心に取らざるを得ない人はやはりリウマチ絡みです。そうすると柴胡の入った薬や、同じ痛みでも苡仁湯などを使っていく ことが多いです。でも単純に太陰の人で、太陰だけで水があふれて、この膝の4点で痛みが取れてしまう のなら、防已黄耆湯一剤でいいのです。

 脊柱付近はどこを痛 がってもほとんど同じです。やはり神門と枕に交感を加えます。後は痛い場所を取ります。それだけです。表で痛い場所を、できれば裏でも痛い場所を取りま す。裏は逆に上から順になると言いましたね。上の方が肩で、真ん中が胸ぐらいになって、下の方に腰や膝があります。だから臓腑弁証をして、神門、枕を取っ て、交感を取って、腰の1点を痛がっているなら、探ってみ れば穴がちゃんと浮かび上がります。浮かび上がらなければ、探索子で押してみて、反応する点を探してください。これは実は腰の写真には非常に有効です。腰 の写真の、例えば腰椎の3番目がつぶれていて痛がっている なら、探せばちゃんと3番目のところに反応点が出てきま す。丁寧にやれば必ず出てきます。そこを押して、裏側もうまく探せば、だいたいその該当する付近に反応点が出てきます。そこに種を置けばいいのです。

 耳を小さなその人の胎 児形として、体全体がここに写し取ってあると思って診て探せばいいので、非常に簡単です。痛みに関する場所を探すのが一番簡単ですね。指先の関節11本 というのはすごく小さい範囲になるので、これはなかなか探し当てられませんけれど、腰椎というのは大きいです。だからこちら(耳穴)でも非常に探しやす い。そして、このくらいの範囲で5カ所にしか分かれていな いのです。

 胸椎ももちろん分ける ことができるのですが、現実に胸を痛がって来る人というのは年に何人かしかいないですね。首は痛がって来ます。頚椎は選ぶことができます。でも圧倒的に外 来に来るケースが多いのは腰の痛みですよ。ぎっくり腰もあります。

 普通の腰痛は、その場 で9割方改善しますけれど、残念ながらぎっくり腰は完全に はその場では取れません。ぎっくり腰というのは機序からいくと、東洋医学的にも、西洋医学的に考えてもそうなのですが、骨と筋腱と筋肉のバランスが崩れて 起きるのです。骨というのは骨だけで支えられているのではなくて、骨があって、筋腱があって、筋肉があって、この3つのバランスが取れているときは良いのです。そのバランスがどこかで崩れ ている人が何かの折に痛めるのがぎっくり腰なのです。だから別にぶつかったとかそういう訳でもなく、ちょっとひねった拍子とか、そういうときに痛めるとい うのはそういうことなのです。もともとバランスが崩れているのですね。結構長いそのバランスの崩れの積み重ねが、ちょっと地震みたいなもので、プレートの ひずみがあるときにぐちやつと来たようなものです。それを修復しようという機構も一生懸命自然に働いているので、そこに鍼を加えても簡単に完全には元に戻 らないことが多いのです。でもそうではなくて、じわっと来た腰痛だったら、もうほとんど9割 方、その場で楽になります。もちろんぎっくり腰も鍼をやります。やりますけれど、その場合は「完全には取れないからね」とちやんと前置きしておきます。

 あといくつか更にポイ ントがあります(資料107頁)。だいたい中国語は読めま すか、皆さん(笑)。ざっと読んでいってみましょうか。これは悪心、嘔吐。次は急性、慢性胃炎、その次は分かりやすく言えば神経性胃炎、それから次は胃潰 瘍、十二指腸潰瘍、胃痙攣、胃下垂、慢性胆嚢炎、慢性膵炎、それからその次がしゃっくりですね。その次は下痢、それからその次は腸稔転です。この付近は やったことがないですかね。

 それから腸管のガスが いっぱいな状態、その次は消化不良、それから腸がねじれるような痛みということですね。それから食欲不振、この付近は鍼でやる必要はないと思います。この 次のやつとその次のを合わせると、IBSになりますね、過 敏性腸症候群。それから右側に書いてある主穴や配穴というのは、こういうところを主に取ることになるよということの基準穴です。それはだいたい今言った耳 の鍼の位置を探してください。その次は便秘、アルコール中毒、まあこれはやったことはないですね。

 それから咳、それから 胸の中がもんもんとする、胸に痛みがある、それからその次は傷寒ですね。それから気管支炎、その次は、一番下が気管支喘息です。だいたい今言ったようなツ ボが書いてあります。その次は百日ぜきですね、肺炎。この付近はやったことはないですね。

 その次は鼻血。これは 実は効きます。内鼻点、肺点、更に私の場合は脾も必ず加えます。やはり脾の統血が悪いことが多いので、額の点を取ります。これは鼻汁の点と非常に近いです ね、それに腎上腺。

 それから扁桃炎、それ から梅核気といってヒステリー球というのですね。半夏厚朴湯等の適応です。あと高血圧、低血圧、脈なし病。これは耳鍼でやったことがないからよく解りませ ん。それから心肌炎というのは心嚢炎みたいなもので、これもあまりやったことがないので解りません。その次が陳旧性の心頻拍です。陳旧性ではないけれど、 確かに、心頻拍にこのツボを取って効いたことはありました。前にお見せしたと思います。その次は鉄欠乏性貧血と書いてあります。これはやったことがないで す。それから顆粒球減少ですね。これもやったことがない。

 期外収縮は心悸亢進と 同じで効きます。それから冠心病というのは冠虚血ですから、以前やったことがあるのですが、対症療法的には症状は取れました。でも心筋梗塞と診断したらも ちろん専門医に送ります。ただ、どうなのでしょうね、痛みが取れるから、モルヒネを使わないでも送れるのでかえっていいのかもしれない。確かにその場で痛 みが和らぐのです。そういう経験が2回ぐらいありましたか ね。心電図もまだはっきり変化が現れないで、本当にそうなのかなと迷うぐらいでしたが、この位置で痛みが取れるので多分そうだろうということで送ったら、 やはり間違いなかったのです。心筋梗塞に移行していったが、助かったという例がありました。

 それからその次が心房 細動ですね。その次は、狭心痛だからほとんど冠心病と同じだと思います。その次は徐脈です。心臓にサルコイドーシスが入ってしまった人がいまして、今ちょ うどやっているのですが、第1AVブロックで、かなりの徐脈になっていたのが、鍼を置き始めて、昨日2週間目でおいでになつたのですが、PR間隔が1割 短くなっていて、心拍数も1割ぐらい増えていましたね。だ からまあ全然反応がないわけじやないなと思って診ています。心律失常、これも不整脈のことです。

 その次の頭昏、頭痛は  眩暈と頭痛ですね。これはお話ししますね。

頭痛、頭重感はほとんど の場合はやはり欝ですね。肝が上がって脾が抑えられているタイプ、あるいは脾や肺が非常に虚しているタイプで、特に太陰のうつによく効くのです。そういう 人はお薬で言えば釣藤散や、あるいは六君子湯みたいなものを使うタイプです。何か分からないけど頭が重い、西洋薬だったらドグマチールか何かを使ったら すっきりするのではないかな、というような感じの人です。向精神薬は飲ませるとどう反応するか分からないので、抗うつ剤もあまり出したくないなというよう なタイプです。

 たいていの場合は肝か 肺か脾を、どれか選ばないといけないのですが、ほとんどの場合神門と枕と、太陰を助ける意味で胃のツボと、枕の下のツボを取ります。「頜」はクオと言うの ですかね。枕の下にあります。それとこの垂前です。この部分(耳たぶ)はちょうど、解るようにだいたい9つ の区域と、もう1つその中に入るような場所と、10の区域に分けるのですが、その中の一番前の部分(垂前)と枕のすぐ下の 部分(領)、この2点が非常によく効くのです。

うつ病の患者さんのかな りの人にこれを取ります。抗うつ剤を使わないで東洋医学だけで、例えば先程言ったような釣藤散や六君子湯、あるいは加味帰脾湯みたいなもので治療していく 方というのは、胃のツボとこの領のツボですか、それと垂前という、この3点 を加えて取ることが非常に多いのです。

こういう人というのは結 構、今度は後頭部の、加味帰脾湯や加味逍遙散の帯帽感を訴えている場合がありますが、この場合はさっきの肩凝りや寝違えのときに使った一番出発の穴の頸を さらに加えます。そうするとそれだけで帯帽感もすっと取れてくることが結構あります。頭痛だと訴えてくる人の中には、うつあるいは抑うつ、要するに太陰か ら出発するうつか、肝が緊張しているための抑うつかの二つのタイプの人がかなりいます。そういう人に上記のように穴を取ります。

 それから脳に異常がな いはずなのに眩暈がしているときは、喘点の内側、睾丸とか皮質下と書いてある穴を取ります。なぜか睾丸と脳は一体なのです。これはちょうど下垂体から間 脳、あるいは橋の付近に眩暈が何となく由来していること、あるいは内耳などもこの付近に原点が絡んでいることが多いのです。

それ(睾丸)とこちら側 〈頜〉、この2点を取ることが多いのです。この2点を加えて取ると、これだけで眩暈がかなり改善します。こちら側とこちら 側ですね(睾丸と頜)。

 それと明らかに脳梗塞 とか脳出血、あるいは髄膜炎とか、そういうものの由来があるときはこの脳頂を取ります。耳の頂点の裏側に、脳頂というところがあります。模型には書いてい ないと思います。こちらの一番詳しい図の背面のところに書いてあります(資料11頁)。 これは大脳半球に何かが起こっているときにしばしば反応します。眩暈と頭痛を一緒くたにしてあるのですが、頭痛と眩暈というのは本来ちょっと取り方が違っ てきます。次は不眠です。ここに胃というのが出てきますよね。本来はそういうことに胃が使われます。

それから次は片頭痛で す。

 次は三叉神経痛です。 次は顔面神経麻痺で、ベル麻痺というやつですね。これもうまくいくと、目が閉じない状態でも、すぐその場で閉じますし、口などのゆがみもかなり改善されま す。ただし、このベル麻痺に関してはやはり起こしてすぐ来てくれないとだめですね。何年もたって来られると、かなり時間がかかります。それでもある程度は 反応します。この場合はだいたいよく取るのは口、舌、目、それから額を取ります。要するに反応しているところを全部取っていくだけなのです。

 それと、顔面に起こる 一切の病気に必要なのがこの面頬点です。これは区域点というより一種の特異点なのですね。丸く囲まれて面頬区というのが出てきますね。だからこういう麻痺 にも使えますし、顔面痙攣なんかのときにも使えます。耳鍼でやっていると、ベル麻痺と顔面痙攣というのは、取るツボはほとんど同じなのです。

 ただし臓腑点は違うこ とが結構あります。顔面痙攣を起こす人は、ほとんどは肝です。麻痺している人は意外と肝ではないのです。もちろん肝の人もいますけれども、結構、肺の人 か、あるいは心などの異常で来ている人もいます。だから経験的にやってみると一臓診断の違いだけであって、反応点選びはまったく同じですね。顔面痙攣もう まくいくとその場で非常に軽くなりますね。

 しやつくりなんかも さっき出てきましたけれど、実は本当に難しいのですね。今1例 取り組んでいて、それはうまくいっているのですが、これは例外的なものです。あと肋間神経痛や坐骨神経痛は今まで言ったのともうまったく同じですね。

 ところで、目の疾患は かなり交きます。これに関しては、今、1人緑内障で失明し かかっていた人を治療しています。サルコイトシスも合併していて、ステロイド漬けになっていたのですが、今はほとんど、ステロイドは離脱してしまったとい うところまで回復した人もいます。

 目に関してはこの目の1、目の2、 眼(がん)、あと腎上腺、内分泌、これを5つセットで取れ ば、反応点はほとんどオーケーです。ほかの点はほとんどいらないかもしれない。神門や枕や交感なんか全然いらないです。これだけを取って、あと一臓を取り ます。目ですから一番多いのはやはり肝です。肝は目に開きます。何らかのストレスが絡んで目に来ているときは肝です。でも、もちろん違う場合もあります。

 例えばさっき言ったサ ルコイドーシスの人などは肺です。やはりサルコイドーシスは皮膚表面に変化しますし、皮膚の一番表面を支配しているのは肺ですから、そんな人は肺です。そ れから視神経に来ると、これは心になりますね。心や腎だから少陰になります。だからどこの由来で目に来ているかというのをきちんと見極めます。耳鍼で診断 しなくても、意外と西洋医必的な洞察でも選ぶことができま。この人は肝から来ているのではないかなとか、肺から来ているのではないかとかです。脾はあまり 来ません。それからやはり心は来ることが多いのですが、腎が来るときは白内障です。いろいろ言われていますが、白内障には言われるほど漢方薬も効かない し、鍼も効きません。いわゆる未老先衰の状態の白内障だったら効くのだろうと思うのです。

 最近、白内障がよく なってきましたといった人が、実はいたのですが、白内障については最初の問診では言っていないんですよ。私は知らなかったのです。でも、年齢をよく考えて みたら、まだ50歳そこそこなのです。そうしたらこれは確 かに未老先衰ですね。なぜ最近の白内障に効かないのかなと思ってずっと考えていたのですが、70歳、80歳になっての白内障というのは本来、老化現象そのもので、未老先衰じや ないのですよね。未老先衰のときには八味丸も効きます。

 老化現象そのものを治 療する方法があったら、人間年を取って死ぬ人がいなくなるわけです。どうもそうみたいです。80歳 を過ぎた人が白内障を何とかしてくれと言ってきて、一応やってみたことは何度かあるのですが、八味丸を出そうが鍼をやろうが、ほとんど反応がないのです ね。だから腎が目に来ているときはどうも効かないのです。こういうところ(肝、心、肺)はいいですね。

 あと、肩関節痛や膝関 節痛、あるいは肘の関節に来ているときも同じです。要するに炎症があって、何らかの失調があって痛んでいるときは、一方の組み合わせは内分泌と腎上腺、そ して場所点、一臓診断があって、神門と枕を加えれば全部効きます。だから非常に簡単です。この付近に(111頁 下に)たぶん肩関節周囲炎と、落枕があります。落枕というのが寝違えです。

 もちろん前立腺がんに は効きませんが、前立腺の肥大の尿路の不快感にはやはりよく効きますね。それは先程言ったように、前立腺の場合はやはり交感とこの前立腺点と尿道点で、非 常に細かいところに3点付けることになります。後はその人 の一臓をきちんと取れば非常に効きます。何かそれはロコミで伝わったのか、最近少しずつ増えてきているのですよね。ここに来ればよくなると聞いたのでと。 お薬は当然その人に応じて五淋散を使う人もいれば、竜胆瀉肝湯みたいなものを使う人もいます。その人の、やはり一臓診断が合っていないといけないのです。

 あと、ご婦人もいるの で、話さなかったのを教えてくれというのがあったら、電話ででも何でも結構です。後でお教えします。

 もう1つ劇的に交くのが生理痛ですね、月経困難症。私は自分の体で経験できない ので解らないですが、うちの看護婦さんたちでも何人か生理痛がある人がいるのですが毎月やるのです。生理痛になると、今月もお願いしますと言って来ます。 その場で劇的に生理痛が消えてしまいます。生理痛を起こす人はほとんどの場合、肝か腎ですね。これもその人の一臓診断をした方がいいのです。

 穴は非常に簡単で、先 程言った内生殖器、それと内分泌、交感、それとこの睾丸点です。睾丸点というのは実は卵巣点でもあるのですね。やはり何か卵巣が絡んでいるみたいです。た まに腎上腺を取る場合もあります。それと耳の裏の耳迷根を取ります。耳を2つ に折った一番真ん中の、ちょうど頭蓋骨と耳の付け根です。これだけの点に置いて揉んであげたら、もうその場できれいに痛みが取れてしまいます。

 たいていの女性はここ (下腹部)が熱かったのがすっと消えたと言います。要するに子宮が急になくなっちやつたような気がするというぐらい、そのぐらい劇的に効きます。これは非 常に喜ばれます。肩凝りのツボと、この生理痛のツボというのはご婦人からすごく喜ばれますね。こういう方というのは、ほと

んどの場合は当帰芍薬散 や、通導散や、ああいうものが効くのかもしれません。

 だいたい時間になりま した。かなり大まかな病気はお話ししました。細かく見ればほとんどこれ(資料)に全部書いてあります。ツボの選び方とツボの場所はこちらに書いてありま す。だからそれを見比べながらやっていって、あくまでこれで治療するのではなくて、最初に言ったように、これで自分の診断を確かめていくのです。この人は やはり厥陰の人なのだ、太陰の人なのだ、少陰の人なのだという、大まかな分類ができるだけでお薬を選べていくわけですね。自信を持って、確信を持って使え るのです。

 そして診断しながら最 初に言ったように自分の能力を上げていくことができるのです。上げるのは技術ではないのです。これも何度も言うように、テクニックではなく、能力です。能 力を上げていくというのは、要するにこの場合は耳穴を通じてタッチングを繰り返すことで、診断能力も自分の気の力というのも上がっていきます。

 1年ぐらいこれでやって、解らないところがあったら耳鍼に関してはその都度 どこを取ればいいのかというのは、どんどん聞いてください。王不留行はツムラさんに手配してもらってください。いつもしている処方を、耳鍼をやって考えて いくと、鍼が結び付いて、飛躍的に能力が上がってきます。

 この後また1年ぐらいの間はずっと処方解説の残りを続けていきます。ある程度皆さんが 耳鍼でいろいろなことをやってきたころに、今度は皮内鍼の陰陽太極法というのをお話しします。本当に概念の話でいかないといけなくなりますね。だからもっ と難しい話になります。でもだいたい1年ぐらいたったとこ ろで、今度は全身の鍼の事をお話ししたいと思います。

 そういうことで、本当 は45時 間かけないといけない話を2時間で、はしょって話させてい ただきましたけれど、ぜひ利用してください。今日のお話はこれで終わりますが、どうしてもこれだけは聞いておきたいということがあれば。お薬の話でも結構 ですが。

 

Q

実は同級生ですごく太っ ている人がいて、前立腺の痛みで何人もの同級生の名医に診てもらっていますが、治らなくて困っています。私に相談されて1カ月前に竜胆瀉肝湯を処方したのですが、どうも効かないようですので、耳 鍼でやっbてみようと思いますが、痛みも前立腺炎の穴でよろしいですか。

AA

それでいいと思います。 ただ、非常に太っているというのだったら、意外と太陰の人かもしれませんね。前立腺などの症状があるから少陰かというと、必ずしもそうじやないですね。異 常に太るというのは脾の実ですね 普通は脾の実になるというのは、肝腎両虚で脾の仮性実証のことが多いのですが、全部あり得るのですね 肝が出発でも、腎 が出発でも、脾が出発でもあり得るのですが、肝や腎が出発なのは異常な肥満までならないような気がしますね。意外と非常に肥満状態になっている人は、脾が 多いですね。

 その場合、言わなかっ たですがダイエットポイントね。これ(耳の模型)にはないのです。やせるツボというのは実はないのですよ、はっきり言うと。やせるツボとはよく言っていま すけれど、うそです。鍼というのは人間にとって気を整えるものですから、本来は有利なことです。人間にとって多少太っていることは本来有利なのです。だか ら、やせさせるツボというのは、本当はないです。ただしダイエットポイントはあります。それはどういうことかというと、ここに飢点、渇点とあります(資料10頁)。だからこの耳の模型でいけばこの付近になるのです。ちょうどもう この境目の、ここに飢点とあって、ここに渇点とあります。

 解りやすく言えばこれ はどんなものかというと、たくさん飲み食いしなくても満腹できるツボなのです。だからこれを取っても、が一つと飲み食いしてしまえば同じなのですね。食事 の前にこれを十分揉んでから食事をすれば、たくさん食べなくても満腹感が出るし、たくさん飲まなくても満腹感が出ます。

 飢点だけで取る人もい ますが、たいていは飢点、渇点を取ります。太っている人は舌を見れば分かります。舌を押して全然水も溢れていなければ飢点だけでいいのです。でも大部分は 水も溢れています。要するに水も取りすぎなのですね。食べ物も取りすぎで、水も取りすぎです。そのとき、この飢点、渇点に置いてあげて、それで一臓診断し て、あとさっき言った前立腺などのツボというのを取ってあげれば良いのです。まずやせさせないとだめなのだろうと思います

 

Q

ちやんと診察はできな かったのですけれど、ゴルフ場のロッカーでおなかだけは触ったのですが、ぼよ−んとしたおなかで。

AA

水があふれているのだろ うと思いますね。その水を処理してあげないと、そういう方というのは治まらないと思う。

 

Q

ものすごく水を飲むので す。

AA

普通の体型の方はだから 飢点、渇点を取ったところでやせないのです。でも異常な肥満という人では、私のところで今まで1年 で26キロやせた人がいます。なぜそうなのだという理由 は、普通の人じやないからです。女の人でやせる前は106キ ロあったのです。そうですね、彼女ぐらいの背丈なのに106キ ロあって、やせて80キロになった(笑)。だからやっぱり 分かりやすく言えば異常な肥満なのですね。異常な肥満レベルになると効きます。異常でない肥満レベルではあまり効きません。

 

Q

その人も110キロあります。

AA

これ(ダイエツトポイン ト)も結構重宝していて、たまに聞きつけて私はやせたいのだと言って来る人がいますが、あなたはだめというのですね。若い女性が結構スマートなのにさらに やせたいと言っても、それには絶対効きません。鍼というのは本来そういうものではないですからね。

 

Q

処方としては竜胆瀉肝湯 はまず効かないというのが、今お話を聞いて思うのですが、防已黄耆湯の他に、考えられるのは処方はありますか。

AA

あと考えられるとしたら 何でしょう、黙ってエキス剤なんかで合わせるなら、五苓散なのかもしれません。五苓散は太陰、少陰どちらにも有効ですので。あるいは茯苓末を加えたりして も良いです。あと尿路だけに加えたいのなら、末で車前子だけを加えてあげてもいいのですが、車前子の末は結構飲みづらいのですよね。飲んでくれるなら、車 前子とかああいうものだけを加えてあげると、結構尿路の消炎作用で、痛みを取り除く作用というのがあります。

 

Q

肛門痛もあり、放散痛の ようです。

AA

肛門も痛がるのであれ ば、やっぱりその付近の鍼というのは必要です。

 

Q

初歩的な質問ですが、耳 の穴は右と左でありますよね。それで・‥…

AA

ごめんなさい、それも話 さなかった。耳の鍼に関しては 症状のある側の耳がよりよく効きます。体の鍼は逆なのですね。右を痛がっているときは左の方が効きますし、左を痛がってい るときは右側から取り始めた方が効くのです。ところが耳は同側の方が、例えば右の足が痛がっているときは右の耳から始めた方がいいです。反対側だったら全 然効かないかといったらそうではないのだけれど、時間がかかります。反対側からは。おそらくずっと伝達されてゆっくり効いていくのだと思う。だから最初は 症状のある側から取って、2週間後こ反対側を取ります。同 じ側をずっとやっていると、刺激閾値が上がってしまのですね。効かなくなってくるので、2週 間ぐらいで反対側にやります。

 

Q

子供の疝痛を取るには、 機能性の穴とか、そういうのは特別なものはありますか。

AA

腰痛などと同じで、神 門、枕、交感とおなかの部分でいいはずです。ただ、どうなのでしょうね、鍼で抑えるというより、たいていは柴胡桂枝湯など、内服で治まってしまうことが多 いのですけどね。

 

Q

種を張り付ける場合の時 間とか、どのぐらい張り付けるかとか。

(AA)

2週間は十分効いていま す。ただし、なかなか2週間付けていられることが少ないで す。でも耳鍼の説明に書いているように、取れたら取れた後、触ると痛みが残っています。そこを小指の先で押したり、自分でやってもらうと、結構効き目は続 けさせることができます。それも耳鍼のいいところかもしれません。体鍼は、はずれてしまったら自然にだんだん効果が切れてくるのを見ているしかないのです が、耳鍼は案外触ると痛みが残りますので交果が持続します。

 

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