15回札幌下田塾

 

一臓診断はその場で患者 さんの病気が解ります。その場で効果が出るので、その場で診断が確定します。それが大変大事なことなのです。診断が確定すると自信を持って薬を出すことが 出来ます。鍼の効果は術者の能力とはほとんど関係なしに現れます。術者がいかに正確に診断できるかは本来は能力です。一般的診断では、能力が高まれば高ま るほど正確に診断できるのが事実です。でも、一臓診断が出来るようになれば、能力とは関係なしに鍼の効果が有る無しで診断が決まります。診断が間違ってい れぱ鍼は三日ぐらいで効果がなくなってしまいます。一臓診断を正確にする度毎に自分の診断能力は上って来ますし、薬の選び方が非常に正確になってきます。 特に西洋医学中心にやっていると最終的に治癒力は相手まかせ、薬まかせになってしまうことが多いのです。例えば西洋医学的治療、あるいは漢方治療をやって 診断しても、果たして効いてくれるのかどうかと言うことは、しばらくしないと解らないのです。術者が直接その人の治癒力に働きかけるのではなくて、術者が 薬という媒体を介してやる訳です。「医者は傷を縫うのだが、皮膚をくっつけるのは神様だ。」とヒポクラテス自身が言っています。神様というのは自然治癒力 です。その様に直接治癒力を働かせるというのはなかなか出来ないのですが、まずこの一臓診断をすることによって、それが可能になるのです。だから是非やっ て下さい。これは非常に大きいことです。これをやり続けることで皆さんのやっている東洋医学の世界というのが変わってくるのです。うまく鍼が当たればその 場で患者さんの症状が変化します。その場で解らなくても合っていれば二週間後には必ず変わってきます。それぐらいはっきりします。

ところで非常に面白いこ とがあります。初診の方ではない事なのですが、例えば「家を出て幾寅に来る問に調子が良くなってきました。」と言ったりする患者さんが居ます。あるいは 「来てから待合室に座っている間に調子が良くなってきた。」と言ったりします。これは現象を非常に良く自覚している患者さんの場合で、この様にかなり正確 なことを言うことがあります。そこまで自覚していない患者さんの場合は「10日 ぐらいは調子が良かったのですが、その後悪くなりました。でも今日になって、また調子が良くなっています。」等と言います。それは私のところとの関係を意 識していない患者さんです。これは一体何なのでしょうか。危ない世界の話をしているのではないのですよ。例えば私に何か怪しい力があって気を送ったら、札 幌から幾寅まで来る途中で具合が良くなったりする等という事ではありません。気の治療といって、そういう怪しい治療を唱えている人が結構います。現実に西 野式等というのを見たことがありますが、 あれははっきり言って催眠術ですね。例えば柔道とか武術等考えると分かりますね。師はある年齢に達するまでは弟子より強いかもしれませんが、ある年齢に達 したら師の方が弱くなるのです。それが当たり前なのです。あるいはその年齢に達していなくても、師も油断したら弟子に負けることがあります。私のところに 来ている先生達と一緒に診ていて私の方が間違えることもあります。私がこうかなと思ってやっていても、先生達の方が正しいこともあります。私が間違ってい たら、私の診断で鍼をしても全然効かないのです。先生達の診断が正しいかなと、首をひねって鍼をしなおしたらちゃんと効くということもあります。西野式が インチキだと解るのは、上下関係が完全にはっきりしているからです。あんなにヨボヨボになっていても西野先生が気を発すると、屈強の弟子が飛ぱされるので す。そして、その弟子の弟(おとうと)弟子はやはり兄弟子にかなわないのです。そういう構造を作り出しているの は本来は催眠術の世界です。では私のところに来ている患者さんは何故そういう事になるのかというと、これはモチベーションの関係ですね。最初は条件反射な のです。来て鍼をすることで気の流れが良くなります。いつも言うように鍼は治療ではないのです。その人の気の流れを整えているのです。痛いところにする鍼 は対症療法の鍼で、鍼灸院でやっている鍼です。私のところでやっているのは体全体の気の流れというのを制御しているだけの鍼ですが、それで合うと、きちん と症状がとれるのです。そうするとその気の流れが整うことで自分の治癒力が出てきます。最初の時は、鍼というのは15日ほど経つとほとんど効果は半減してしまいます。最近、30日近くまで、ある程度効果が持続してくれる人も出て来ましたが、大抵は15日です。15日 というのは何なのかというと、二十四節季の一節季のことです。二十四節季がうまく作られているということは、人間の体内リズムも15日周期で変わっていくことが解ります。だから、鍼をしても15日ぐらいで半減し、30日 たつとほとんど切れて来ます。15日周期ですが一番最初の 頃は、10日過ぎで切れて来ます。これを患者さんは感じて いるのです。でも効いているのは本来自分の自然治癒力ではあるのです。それを感じているものですから、3,4ヶ 月通っているうちに、幾寅に行くという行動をとるだけで、条件反射で気の流れが良くなります。それだけの事なのです。決して暗示とかそういうことではない のです。本当に患者さんの気の流れというものが変わって来るのです。だから、気がつかない人は昨日まで具合が悪かったのですけれど、今日になって調子が良 くなったのですと言ったりするのです。治ってきているのは本人の力です。逆に本人の力で治っている以上、無限の可能性があるのです。薬や鍼で無理矢理に治 療しているのだったら限界があります。薬を止めたらダメなのか、鍼を止めたらそれで終わりなのかというと、必ずしもそうではありません。鍼はその人の気の 流れを整えますが、気の流れが整ったら自然治癒力が働きます。その時に治るために栄養とするのが漢方ですが、漢方薬で治っていくのも結局は本人の自己治癒 力ですね。自然治癒力が満度に働くと、人間と言うのは本当に信じられないほど治癒力を発揮します。初めからダメだろうとか疑心暗鬼ではいけないのです。

一番易しいのは耳鍼だか ら、耳鍼からやるのです。体鍼でいきなり五臓六腑を診断して、ここに鍼をしなさいと言っても、まず穴を取るのが簡単に出来ません。

私は穴に触っただけで、 患者さんはそこに痛みを感じます。体の鍼というのは非常に広範囲ですし、一つ一つの穴は離れているので捕まえるのがすごく難しいのです。ところが、耳鍼な ら特に一臓だけだったらわずか六ヶ所ですからね。肺だけが二ヶ所で心をはさんで上下にあります。丁度、肺が二つに分かれているように穴も二つに分かれてい ます。箸の先で触ると、その人の中心の一臓の位置で痛がります。それで簡単に一臓診断が出来ます。その位置に王不留行を置くのです。これには私自身が初め の時、カルチャーショックを受けました。こんな世界があるのかと。耳鍼をしてみると五臓六腑の診断が空理空論ではないと言うことが解りますね。要するに、 臓腑と薬とを合わせるという事はそういう事なのだなと解ります。いつも言うように、治していくのはあくまでも本人の力で、治せなかったら私の限界というこ とです。神ならぬ私の限界はどこまで行ってもあるのですね。

扁鵠は死んでしまった人 間を生き返らせたと言われます。一度埋葬された人を生き返らせたという話があるのですが、多分伝説だろうと思います。まあ治ったら患者さんの力です。患者 さん自身の力をどれだけ助けてあげるかというのが我々のする事だろうと思います。

インフルエンザは大体流 行は過ぎてしまいましたね。前回と傾向は変わりません。最終的に漢方を飲んでいた人も飲んでいない人も風邪症状を出した割合はほとんど同じです。でも漢方 を飲んでいた人の中では、インフルエンザとして発症した人は圧倒的に少なかったのです。だから、インフルエンザが体内に入っても、一般の風邪として発症し ただけで、インフエンンザウイルスの増殖は抑えられていたと言って良いと思います。

今日は帰膠艾湯ですね。これは 一応金匱要略の薬です。ただこれ自身は必ずしも頻繁に使う薬ではないのです。前にも言ったように、金匱要略の中では、薬をそのまま並べている処方名は張仲 景が作ったのだろうという事です。張仲景以前にあった処方ならそのままの名前で出てきます。張仲景は非常に誠実だった人で、自分で命名はしてないのです。 川芎、当帰、阿膠、艾葉の他に芍薬、地黄という四物湯の成分が入っています。本来は四物湯がこの帰膠艾湯から作られたの です。これは六味丸と八味丸との関係と同じです。六味丸は八味丸から桂枝、附子を除いて、八味丸の後に作られました。帰膠艾湯から阿膠、艾 葉、甘草の三味を除いて作られたのが四物湯ですが、これはいろいろ血に働く薬の骨格として、その後様々な処方に入ってくるようになりました。この四物湯と いう処方は単独ではそんなに重要ではないのですが、一番基本的な処方として記憶していても良いかなと思います。
この
帰膠艾湯の薬味を見る と、芍薬は血管のトーヌスを整えるぐらいですが、地黄は一応造血作用があるので、地黄を表に出しても良かったかなと思います。どちらかと言ったら川芎と芍 薬の方が裏方かも知れないですね。当帰と地黄に阿膠、艾葉の方が効き方としては解り易かったような気もするのです。川芎はちょっと大きな血管の血流を良く し、芍薬は血管全体のトーヌスを正常化し、当帰は微小循環を良くし、地黄は造血作用や腺上皮内の血流を良くします。阿膠、艾葉は解り易く言えば、ほとんど 止血剤です。要するに、血を廻らす薬や血を増やす成分の入っている止血剤ですよという事です。何故、地黄を表に出さなかったのか考えてみると、薬効から言 えば地黄の方が大きいのですが、実際に使われるのは圧倒的に婦人の不正出血ですので、川芎を表に出したのかも知れません。川芎や当帰の匂いというのは婦人 薬の特徴です。しかも貧血気味の婦人に使う処方です。葛根湯加川芎辛夷が御婦人の頭痛を伴う風邪に非常に良く効く大きな理由は川芎が入っているからです。

生の川芎に触ったことが ありますか?。札幌近辺なら由仁あたりにかなり広い川芎畑 があります。生薬学会の先生方に聞いて一回行って触ってみたら良いです。本当に強烈な匂いです。セリなどよりはるかに強い匂いです。一回触ると、まる一日 手を洗っても匂いが消えないぐらいです。それより当帰の方が匂いはまだやさしいのですが、当帰芍薬散等を今、散で飲まない理由は、散で飲むと当帰の匂いの ゲップが出て非常に具合悪がる人が多いからです。おそらく、川芎の強い匂いが婦人薬として作用する面があるからでしょう。香成分は血より気に作用する部分 が多いのですが、それが非常に印象的なので川芎の方を選んだのかも知れません。これはあくまでも貧血気味の人に使う婦人薬です。四物湯は必ずしも婦人薬と してだけではなく、体液の枯渇等を是正する老人薬としても使います。川芎についてはそういう事ですが、使っている感じとしては、一番効いているのは当帰と 地黄だと思います。でも表に出ているのは川芎、当帰で帰膠艾湯という名前に なっています。どのくらい効くかと言うのは、現在、産科や婦人科をやっていないので私は何とも言えません。以前、離島に居たときはかなり使っていました が、今、幾寅に婦人の更年期や不正出血で通っている人はいません。ずっと通っている人でたまたま不正出血気味だという時に出すぐらいです。でも、たまに出 しても二週間後に止まりましたので元に戻して下さいとほとんど言われるので、まあ効いてはいるのでしょうね。基本は四物湯で解り易く言えば四物湯に止血剤 が加わっているという処方です。

この処方から止血剤を除 いて四物湯を作り、それからいろいろな処方が作られたのです。内科では使う機会は少ないと思います。婦人科でも特殊な難病をのぞけば、当帰芍薬散、桂枝茯 苓丸、加味逍遙散の三つで95%はカバー出来るとも言われ ていますので、多分、四物湯や 帰膠艾湯まで使う例は少 ないだろうと忠います。

四物湯は一臓診断をすれ ば、腎か肝です。腎が衰えているか肝が衰えているかです。四物湯は本来は肝を補うことで腎を助けようとする薬だということは前から言っています。四物湯は 位置として腎に対する薬だとは言うけれど、腎そのものを補う薬味というのはないのだと言うことは何度も言っています。腎は補うことは出来ないのです。帰膠艾湯や四物湯系統が 作用するところが一番多いのは、やはり腎の衰えで、その次が肝の衰えです。抑肝散は七物降下湯と一緒にお話しましたね。
次は神秘湯です。これはすごく良い薬なのです。やはりこれを見ると浅田宗伯という人は偉いなと思いますね。古方の連中は浅田宗 伯について悪口をよく言います。古方の連中は吉益東洞一辺倒ですからね。浅田宗伯?、 何だそれは」とまで言う人が居るほどです。古方の人が褒めるとしたら防風通聖散ぐらいです。

防風通聖散になると見れ ぱ解る様にエキス剤で薬味が一番多いのです。あれだけ薬味を入れれぱ何にでも効く、少しはよい薬になるのかなあという感じです。

ところがこの神秘湯とい うのは薬味が多くないのですね。後世方の薬は極端な事を言ったら百味丸になってしまうような、百味箪笥にある薬を全部入れ込むような、そういう処方が多い ので悪口を言われるのです。その中では、この神秘湯というのは非常に良い薬でエッセンスが詰まっています。そして非常に良く効きます。前に麻杏甘石湯など をお話した時に触れたと思いますが、喘息の治療の基本のパターンがあります。小児の喘息は二年で治ります。小児の喘息は一臓診断をすれぱまず例外なく肺で す。小児の喘息で肺以外というのはほとんど記憶がないのです。肝実脾虚肺虚というパターンになることはあるのですが、その場合でもやはり太陰の様な気がす るのですね。小児の喘息は必ず二年で治ります。二年以上かかった例というのは、ほとんど記憶がないです。アトピーもほとんど二年で薬がいらない状態になり ます。アトピーというのは能力ですから、皮膚の乾燥感とかそういうものは二年たっても残ります。小児のアトピーは二年たつと母親を説得して薬を止めさせま す。母親は実際は止めたがらないのです。私のところに来るまでかなり苦しい思いをしていたので、本当に止めても大丈夫でしょうかと言ってなかなか止めてく れないのですね。小児のアレルギー疾患で一番時間がかかるのはアレルギー性鼻炎です。鼻炎というのは肺を守るために鼻でガードしている故の症状ですから、 なかなか薬を止められない面もあります。でも、子供の喘息はほとんど例外なしに二年で薬を止められます。そして、子供の喘息はほとんど一臓診断は肺です。 大人の場合は肝咳や腎咳があって難しいのです。実は、私のところに来る大人は肺でない人が結構多いのです。何故かというと、一臓診断で「肺」の人は上手な 医師にかかったら、西洋医学でもあまりステロイドを使わずに治ります。ところが小児の喘息となると、なかなか西洋医学ではうまく治せないのです。やたらと ステロイドを使って副作用でおかしくなったり、テオフィリンの副作用で子供が異常な興奮状態になったりして、 お母さんが西洋医学的治療を嫌がって私のところに来たりします。子供は喘息の治療としては難しくないのですが、薬の副作用が出て、それで困るので私のとこ ろにお出になるのです。そういう中で神秘湯というのは中核的な働きをする処方です。

子供の喘息の治療の一番 の基本パターンは麻杏甘石湯合小青竜湯です。これがいつも言う麻黄剤です。だから気管支拡張作用を持っていますし、去痰作用も持っています。麻杏甘石湯は 熱を持ちやすく、痰が切れにくく、麻黄や杏仁で気管支を拡張し去痰作用を示しながら、石膏で熱を引かせる薬です。逆に冷えがあって痰が水性を帯びるタイプ が小青竜湯です。大人の喘息も同じ様にしますが、発作が起こっているときは、この麻杏甘石湯合小青竜湯をまず使います。病態が麻杏甘石湯か小青竜湯のどち らに片寄っているかで両者の量を調整します。例えば小青竜湯100%で も良いのですが、大抵の場合この中間のどこかでうまくバランスが取れるのです。発作が起こった時に飲むのだよと言って処方します。二方の組み合わせの割合 をどうやって決めるかは、より熱がりか寒がりか、あるいは舌を見て水が溢れているかどうかによってです。舌に水が溢れていて、舌が白っぽい色をしていて冷 えがあれば小青竜湯です。逆に熱を持っていて、舌は赤くて乾燥ぎみで水があまりないそういう状態だったら麻杏甘石湯です。この様にどちらかにシフトさせま す。等しい位ならそれぞれを常用量の2/3量ずっ合方しま す。だから一日量を常用量の4/3を使用します。そして発 作のない時は柴朴湯を使います。柴朴湯は小柴胡湯合半夏厚朴湯ですが、実際は大柴胡湯合半夏厚朴湯の大柴朴湯もあります。柴朴湯の凄いところはI型と、W型のアレルギーを明らかに改善させることです。これはすでに実験 的に証明されていますので間違いありません。柴朴湯で喘息が治まらないときは麻黄剤が必要です。古方では柴朴湯に麻杏甘石湯を加えます。でもそれではいか にも薬味が多いですね。麻杏甘石湯と柴朴湯を合わせたものから余計なものを取り除いたら、ちゃんとこの神秘湯になるのです。だから浅田宗伯という人はやは り天才的な人だなと思いますね。これだけスッキリとして、今だに非常に良く効きます。古方の連中が馬鹿にして使わないでいたのですが、教えてあげたら使っ てみて意外と良い薬だなと言います。私の立場はどういう立場の人にでも結構平気で物を言えますので、耳を傾けてくれる人が案外居ます。香蘇散等もそうです ね。香蘇散は良いよと言うと、寺澤先生などはそんな難しい薬を使うのか等と言います。香蘇散は何も難しい薬ではないのです。でも古方の方達から言ったら、 彼等の理解の範疇を超えている薬なのです。でも使ってみたら良いですねと言います。神秘湯もそうなのです。そんな難しい薬をあなたのところで使っているの かと言った人から、最近電話がかかってきて、神秘湯があんなに良い薬だと思わなかったと言って来ました。そんなことが結構あるのです。それは本当にそうな のです。薬味がこれだけ少なくて麻黄も入っていて、しかもある程度アレルギーも改善します。アレルギー改善作用は何処にあるのかまだ完全には解らないので すが、アレルギーだけが有る病態の人に使う薬としては、一つは柴胡、それと蘇葉、陳皮です。この附近がアレルギーを改善して行ってくれるのだろうと思いま す。厚朴は気剤で、麻黄、杏仁は気管支拡張作用や去痰作用ですから、抗アレルギー作用はあまりないのです。柴胡、蘇葉、陳皮等が柴朴湯の抗アレルギー作用 を持っていてくれるのかなと思います。それと柴朴湯に比べて神秘湯の良いところは黄芩が入っていないというところです。柴朴湯は小柴胡湯の変方ですから柴組です。神秘湯はわざわ ざ黄芩を除いてあります。これが素晴らしいのです。黄芩の入っていない柴胡剤はトランキライザーです。小児喘息の子というのは、本人もそうですがお母さん も半分ノイローゼみたいなところがあります。例えば、お母さんから叱られたり、あるいは親が何か用事があって、全然別の方に気持ちが行ったりしていると、 それだけで発作を起こしたりします。そういう面に対しても神秘湯というのは非常に良く効いてくれます。大人は一応、柴朴湯を基本にするのですが、小児の場 合はほとんど基本方を神秘湯とします。発作を起こすときは麻杏甘石湯合小青竜湯にします。そして小児喘息の時は一応耳に鍼をします。私の場合、臓腑間で弁 証して更に喘息を抑える穴をとりますけれど、でも一臓診断で肺に穴を取るだけで全然違います。私のところに来る小児喘息の患者は西洋薬を全部止めさせま す。それまで実際に発作を起こし続けている患者さんでも止めさせます。今夜から飲ませなくても良いですよと言って、それだけでほとんど大丈夫です。耳鍼を 置いているだけで大丈夫ですね。12回発作を起こすことがあるという程度で治ります。そして非常に軽い発作を 起こしても、それは鍼が取れたのが原因であることが親自身解るので、鍼をつけてもらいに来たりします。こんなことも12回 ぐらいで、後は一年ぐらい薬を続けた後、薬を減らして二年ぐらいで廃薬するというパターンでやっています。基本を神秘湯にして発作時に麻杏甘石湯合小青竜 湯を出しますが、一ヶ月経った頃で、麻杏甘石湯合小青竜湯のほうは12回しか飲みませんでしたという方が多いですね。ごく稀にお母さんが神経質 で、非常にこまめに計った様に薬を飲ませ、一寸でもゼイゼイしたら麻杏甘石湯合小青竜湯を飲ませるという場合もあります。そうなると少々難しい面もあるの ですが、どれだけ根気よくお母さんを説得していくかということになって、別次元の間題になってしまいます。そういうことで、神秘湯というのは小児喘息を中 心に使う非常に良い薬です。

それから神秘湯の説明に 大抵、思わぬ悪化をすることがあると書いてあります。これは医者としての基本的な診断の問題です。これは西洋医学でも起こることです。喘息の強い重積発作 の時で、ほとんど呼吸が出来ない状態になった時は、やはり呼吸音が落ちてきます。神秘湯の状態というのはいわゆる心気症的な病態で、非常に神経症的な静か さというのがあるのです。発作を起こしている時は、ゼイゼイ言っているのですから解り易いのですが、普通の神秘湯の状態というのは比較的ゼイゼイは軽くて ジーッとおとなしいのです。それを重積発作で換気が出来なくなっている時と間違ってしまうと、西洋医学でも同じことが起こります。重積発作を起こしていて 気管を拡張できない時に、やたらとテオフイリン等を使ったら大変なことになります。それと同じ様なことを歴史上やったみたいなのです。これは診断のミスだ と思います。その状態に神秘湯を飲ませた為に呼吸が止まったりしたのです。これは当然ありえますよね。これは、神秘湯がそんなにこわい薬だということでは なくて、基本的な喘息の診断ミスです。ただ神秘湯の適応となる状態のあまり喘鳴の強くない静かに見えるものの中に、本当に呼吸が出来なくなっている状態が あるという事だけを頭のどこかに置いて、キチンと診断をつければ大丈夫です。だから私自身は全くそういう経験はないのです。因みに東洋医学だけでそういう 間題を何とかしようと思ったら、薬を飲ませる前にまず鍼をします。子供の場合だったら耳鍼をします。それでその場でほとんど呼吸が改善します。大人の場合 は耳鍼では足りないので体鍼をします。それで前にスライドでお見せしたように、鍼をした直後から肺活量が上りますので、本人は非常に楽になります。胸の音 を聞いていても解りますし、大体、話も出来なかった人がしゃべれる様になりますので効いたことがよく解ります。西洋医学だったら気管支拡張剤を与える前に まずステロイドを使いますね。それと同じ考え方でまず鍼をして呼吸を楽にして、それから麻杏甘石湯や小青竜湯や神秘湯を使っていくというやり方をします。 小児喘息の患者さんはたくさん来ますけれど、ステロイドもテオフィリンもほとんど使ったことはないです。私のところでステロイドを使っている人は、ずっと 以前から使っていて、ステロイド依存症になっている人ぐらいです。喘息に関しては、今だったらほとんど漢方中心でやっています。たまにテオドールなどを出 している人はいますね。でもあまり居ないです。とにかく神秘湯はすごく良い、薬です。是非お使いください。

次は治打撲一方ですね。 これはそんなに難しい薬ではありません。これもあまり使う薬ではないのです。中味を見れぱ解る様に、日本国内で簡単に手に入る、あるいは江戸時代にも安く 手に入る薬で構成されています。一応、駆瘀血剤です。江戸時代だったら本格的な更年期障害の瘀血よりも、打ち身、捻挫の方が多かったかも知れません。慢性 疾患で医者にかかって高いお金を払える様な人は、本当に一部の特権階級だったかも知れません。大部分の農民や町民は腰を打ったりし、たまらず外用薬でやっ ていてどうも思わしくない、いつまで経っても痛みが取れない時、何とかならないかと言って医者にかかります。その時、高い薬はお金が払えないとなると、安 い薬で効果有るのは何だろうということになります。川骨というのは今でも北海道で、その附近の川で生えていますよね。こおほねというやつね。分類はちょっ と難しいのですが、ハスの仲間に分類されているのと、キンポウゲの仲間に分類されているのがあります。花の形はキンポウゲですね。葉はハスのように、要す るに水の中のハスの小さいやつみたいです。因にキンポウゲの仲間はほとんどが毒か薬です。明らかに毒がある代表はトリカブトです。薬として使うのはトリカ ブトと黄連等です。福寿草などもキンポウゲの仲間なのですが、あれはほとんど毒です。キンポウゲの仲間で毒がなくて食べられるのが三つあります。谷地ぶ き、二輪草、それとこおほねの三つです。二輪草や谷地ぶきは多少の薬効は認められていますが、薬としては使えないものです。こおほねは薬草として分類され ています。一応、血を動かす薬です。桂枝、川骨、丁子等は脳内血流を増すから、例えぱ脳梗塞の後に使用したら出血性梗塞を起こした例がある等という報告が ありますが、そこまで言える作用はあるだろうかと疑われます。それは治打撲一方の作用を強調する意味でのことかも知れませんね。要するに打身等で滞ってい る血を溶かして流して取り除くという作用を強調する意味であり、本当に脳梗塞の血栓を溶かして、 出血性梗塞まで起こすようなことはないんじゃないかなと思います。要するに安価に使える駆瘀血剤で、急性期をかなり過ぎたものに使う薬です。その様に覚え ておけば良いと思います。 瘀血の圧痛点等があることもありますが無いこともあります。間違いなく打身、捻挫、打撲等があってかなり経っているのに、局所 あるいは全身の痛みが取れないという時に投与してみると良いのです。打身、捻挫の急性期の時は桂枝茯苓丸ですね、普段何でもなく健康な人がひどい打撲、捻 挫、外傷を受けた時は、まず目をつぶって桂枝茯苓丸を投与しておけぱ、ほとんど間違いないのです。それをしないで置くと数日後にはひどい便秘になって局所 の痛みが強くなることがありますが、その状態が桃核承気湯です。結構強い症状のまま慢性化していくと通導散になります。強い症状はないまま、なんとなく すっきりしないというのが治打撲一方です。数多くは使いませんが、たまに使います。ずっと飲み続ける薬でもないのです。ずっと飲み続けなさいといっても、 良くなったら来なくなります。

次が八味地黄丸です。六 味丸の時に大部分しゃべってしまったので、そんなにお話しする内容もないのですが、大事な薬です。六味丸と八味丸はたった二味違いですが、患者さんの見た 目は大分違います。六味丸は熱証が現れます。陰が虚すと内熱が現れ、陽が虚すと冷えが現れます。陽が虚すというのはよくよくの事なのです。陽というのは本 来は熱い部分ですね。陰虚と陽虚のどちらが重い病気かというと陽虚の方が重いのです。陰は初めから本来は冷たいものです。陰は初めから虚し易いというか、 本来は虚すしかないのです。最初が100%です。その陰か らエネルギーを送られているのが陽の部分ですから、最初に出て来る病証というのは、どんな場合でも陰が虚して陰がエネルギーを保てない分が陽に送られて、 見かけ上、陽の実になり、これが実証と言われる状態です。六味丸の状態は本当は虚しているのに実して見えるのはその為です。顔が真っ赤になって目がギラギ ラ輝いているような事も出てきます。でも、いよいよ陰が虚してくると、陽に送る部分も無くなって陽も虚してくるのです。だからこの状態というのは対立概念 ではないのです。陰が虚すと熱が出てきて、陽が虚すと冷えが出てきます。熱と寒は対立概念ではないのですね。同じ数直線に表れるのです。虚実が対立概念で はないのと同じですね。これは、今、内因病の方を言っているのです。

外因の場合の熱と寒は対 立概念です。外から入って来るものは熱邪と寒邪が対立しています。熱邪は体内に入ると熱くしてしまいます。寒邪は冷やします。寒邪で破られる代表は傷寒で す。外因病の場合は寒熱は対立概念ですが、内因病の場合は寒熱は対立概念ではありません。虚実に関しては内因病も外因病も同じで、対立概念ではありませ ん。内因病の場合は、最初は陰が虚して内熱を生んで、陽がプラスになる様に見えるので、実証に見えてくるのです。そして陰が益々虚して来て陽に送れなく なったら、本来虚しているところの症状が表に出てくるので、虚証が現れます。だから数直線上の問題であって、より軽い段階では熱証として現れ、より重い段 階では寒証として現れます。その典型はこの八味地黄丸と六味丸の関係です。表に出ているところがどちらかというだけであって、体全体を診察する感覚はほと んど変わりません。顔が赤いかどうかであって、腹証の少腹不仁があるというのは同じです。六味丸のほうがちょっと軽いかなという感じです。少腹不仁は繰り 返し触って覚えるしか無いのです。お腹全体を触りますと下腹部が軟らかく、八味丸の場合は正中芯が触れて冷たいのです。臍から上が冷たいのは脾虚ですね。 脾虚も同じで、早い時期は脾の陰が虚すと熱くなり、虚が進むと冷えてきます。八味丸の状態になると下腹部が冷えて来る事が多いのですが例外はあります。そ して正中芯の横にも芯が触れることがあります。三本線が触れなくても正中芯だけが触れることがあります。芯が触れなくても軟らかくて指が入り、入った途端 に痛がることがあります。力を入れなくても痛がります。力を入れたら誰でも痛がりますが、力を入れなくてもグッと筋性防御を示すほど患者さんが痛がれば、 八味丸の証はほとんど間違いありません。あとはほとんどテキストに示されたとおりです。

そして八味丸の患者さん は一臓診断はほとんど腎です。六味丸の場合は少し心の方も居ます。三経診断をすればどちらも少陰なのですが、六味丸の状態の人というのは心の方も少し含ま れます。でもその方は進行するとどちらに行くかというと、八味地黄丸の方に来ないで、七物降下湯の方に流れていきます。六味丸の人で腎の人は八味丸のほう に必ず流れていきます。この場合は腰を痛がっていようが、先程腎咳と言いましたが喘息であろうが、一臓診断は腎でかまいません。腎に鍼をすれば喘息発作も 明らかに収まります。古方は臓腑診断をしないのですが、「私は古方の考え方だから、そんな事はしない。」と決めてかかることは絶対に出来ないのです。八味 地黄丸で治る呼吸器疾患があるというのは、古方では説明できないのです。肺と腎は肺から腎に行く水の道を支配しているのです。そして、腎は肺からもらった 水を尿に出すか脾に送って再循環させるかです。それともう一つ肺気というのは体全体に行き渡らないといけないのです。そうすると腎が悪くなると肺が水を下 げられなくなり、水そのものが溢れてくる場合もあります。水を受けられないぐらい腎が衰えてくると、肺は水を下げれないだけでなく、肺の宣散も悪くなりま す。要するに、スムーズに水を下げられないと言うことは肺に負担をかけることにもなります。このように腎が悪いために生じる肺疾患は、喘息や肺気腫や慢性 気管支炎や細気管支炎等いろいろな病名で言われていますが、それらを西洋医学ではうまく治療出来ないのです。前から言っているように、一臓診断で肺から来 ている呼吸器の疾患は、上手な呼吸器の先生はキチンと治療できます。肺咳は余程下手な医者ばかりにかかった人が、私のところに来ます。ああ良い医師にめぐ りあわなかったんだねと言って、一応治療します。ところが、腎咳というのは西洋医学では治療は全然出来ません。概念が無いのです。それでしぱしばステロイ ド漬けになったりして、それでも良くならないと言ってお出になります。もちろん鍼も良いと思いますが、長い目で見たらもちろん薬ですね。八味地黄丸で見事 に改善して行きます。一応、親切のために麻黄剤等を加えたりもしますが、最終的には八味地黄丸だけで腎咳は治って行きます。八味地黄丸のタイプというのは 未老先衰という言葉がありますが、年をとったら八味丸というのではないのです。未老先衰というのは未だ年をとっていないのに衰えが先に来ているという意味 です。だから90歳の人に白内障が来たり、骨粗鬆症が来て も八味地黄丸とは限りません。でも、60歳の人に白内障や 骨粗鬆症が来たら、これは八味地黄丸に間違いないのです。要するに年齢相応以上にどこかが年取っていて、その為に全身に異常を来たしているのが八味地黄丸 の証なのです。肺や腎の関係が他人より早く衰えてしまった為に喘息が起きたりします。老人性喘息と言われているのはほとんどそうです。

喘息のパターンでもう一 つあるのが肝咳です。神秘湯は肝咳にも効きます。肝咳というのは子供がお母さんから叱られた途端に発作を起こしたり、御婦人が夫婦喧嘩をして、夫から「お 前なんか死んでしまえ」等と言われて大発作を起こしたりすることがあります。「また仮病だ」と言ってほったらかしにしていたら、本当に重積発作で死んでし まったということがあるのです。肝咳というのはストレスに伴う発作です。これも西洋医学では非常に難しいのです。でも肝咳は、西洋医学でも心療内科的診断 の出来る医者はトランキライザー等を使って治療できますね。

でも、腎咳だけは概念が 無いから、どうしようもないのです。老化現象を治療する方法というのは西洋医学ではないのです。東洋医学以外に無いですね。その代表がこの八味地黄丸で す。もう一つ、何故こうなるのか解らない八味地黄丸証があります。これはほとんど女の人なのですが、若い頃から一所懸命筋肉労働をしてきたガッチリしたタ イプで、お腹もガッチリしており、ちょっとお腹を触ってもほとんど正中芯等は触れませんが、臍のちょっと下のところだけが手が入り、痛がります。もしかし たらと思って触ってみるとそうなのです。これは一臓診断ではなかなか難しいのですが肝腎両虚脾仮性実証という状態になっているのです。非常にきびきびとし ていて、元々は肝の人だったのかも知れませんが、一所懸命働いてきてガッチリとした筋肉や骨格のまま年をとって来て、肝腎が衰えてきても、その衰えがあま り表に出ないで脾が実になるのです。肝と腎が衰えると五臓相関で脾が実になります。

脾は本来実しない臓器で す。心は実し易く、全てのエネルギーを集めてきます。肝も実し易いです。肺は本来、中は空気ですので肝と同じ様には実しにくいのです。でも一番上の臓器で 実証を表わし易くはあるのです。腎は生まれた後はどんどん虚していく臓器です。腎が使い果たされたら死ぬのです。腎は実しにくいのです。腎の次に実しにく いのは脾です。脾が実しにくいのは腎や肺が実しにくいのとは意味が違います。脾は自分に取り入れたものを五臓六腋に常に送っているから実するひまが無いの です。ところが肝と腎が虚してしまったら、脾は五臓相関では実せざるを得なくなります。そうするとどういう現象になるかというと、一所懸命働いてガツチリ として筋肉質で骨太の人で、普通は年をとって来たらある年齢から食欲も減ってきてやせて来るのに、更年期の頃から働いてない人と違って食欲が増してきて、 どんどん硬太りになってきます。あれが、この肝腎両虚脾仮性実証なのです。脾が実したくないのに肝腎両虚のために食欲が増してしまうのです。「私は食べた くないのについ食べて太ってしまう」と言います。結局それが足腰に来るのです。骨は腎が虚しているからやられるのです。でもガッチリしているからパッと見 た目には解らないのです。これはどんな本にも載っていません。八味地黄丸といったら痩せ型で皮膚が乾燥しているとありますが、こういう方は乾燥していない のです。最初は患者さんに教えられたのです。普通に考えて苡仁湯に附子を入れて出 したり、あれこれ考えていろいろな薬を使ったり、肝の人だと四逆散系統かなとか、芍薬甘草湯を加えるとどうなるかとか随分昔悩んだ人が居たのです。ところ が、ある時その患者さんに「薬局に行って八味地黄丸が腰に効くと言うので買って飲んだら、私すごく調子良くなった。」と言われました。ええっと思ってみて も、それまで白分の頭の中にある八味地黄丸証と全然違うのです。でも良くみたら元気そうなのですが、明らかな熱証は出ていないのです。全然想像もつかな かったのですが、最初の例は患者さんに教えられました。ああそうだったんだと思って、それから丁寧に診て行ったら、同じ様なタイプの患者さんは八味地黄丸 が見事に効くのが解りました。それは要するに肝腎両虚脾仮性実証なのです。話を聞いたら解ります。若い頃から筋肉労働をしていて、年をとるにつれて食欲が 増して太って来て何となく足腰が痛くなってきて、頑固な痛みでいろいろ治療をしたけれど治らないと言います。もしこれが熱証だったらNSAIDが効くはずなのですが、それが効かないのです。本来は虚している ので痛み止めを飲んだら具合が悪くなるのです。考えてみるとそこで気がっかなけれぱならなかったのだけれど、やはり先入観があるとダメなのですね。その患 者さんはよく通ってくれたものだと思います。半年以上真面目に通ってくれたのです。そして「先生実は。」 と言われてね。そう言われるまでこういうタイプには八味 地黄丸なんてないと思っていました。あと八味地黄丸で大事なことは、必ずしも証が間違っていないのに潰瘍を作ってしまうことがあるという事です。これは何 故かよく解らないのですが。私の力では証のとらえ方が間 違っているのかも知れません。地黄で胃を焼いてしまうというか、胃の熱をあげてしまうのかな。 八味地黄丸の中にはほとんど冷やす薬は入っていないのです。Nセ イドで胃に潰瘍を作るのは、本来は胃の冷えている人に冷やす薬を入れるので潰瘍を作ってしまうのですが、八味地黄丸の中には温める成分しか入っていないの でやはり地黄なのですね。地黄は胃粘膜の分泌を盛んにするので胃酸を高めるのかも知れませんが、それだけの間題ではないと思うのです。八味地黄丸で胃にさ わる人で、七物降下湯や十全大補湯等に変更すると、全然胃にさわらない方が居るのです。憩室の関係かなということを一時考えたこともあるのですがそれも違 うのですね。八味丸でさわる人は六味丸でもさわるのです。でも十全大補湯では大丈夫なのです。じゃあ人参、黄者が入っているからかと思って、八味丸に人 参、黄者を入れてみたのですがダメなのです。何か組み合わせでもなくてちょっと完全にはわからないのです。申し訳ないのですけれど、私はまだ結論を出し切 れないのです。六味丸も牛車腎気丸も八味丸も同じですが、飲ませて何か胃がもたれるといったらすぐ処方を変更するしかありません。そのまま続けて飲ませる と確実に潰瘍を作ってしまいます。昔の八味丸を作るのは大変でしたからね。処方するのも練って30粒 の丸薬にするのも大変で、薬局も忙しい時は嫌がって、先生も一緒に丸めてくれと言われて手伝ったりしたこともありました。だから煎じ薬を出していた頃はそ う多くもなかったのですが、エキス剤が出てから沢山使い始めましたが、最初の頃本当に巨大潰瘍を作ってしまったことがありました。胃が痛い胃が痛いと患者 さんが言っても、本には書いてあるけれどそんな事は無いだろうと思っていましたが、あまり痛がるから、内視鏡で確かめてみたら本当に穿通性の潰瘍でした。 胃の壁が溶けてしまって肝臓が見えている、そんな潰瘍を作ってしまったことがあるのです。その後もやはり八味丸を飲み始めてから胃が痛くなったと言う人が 居ると、確かめてみたら潰瘍の一歩手前という人が結構居ました。これだけは、どういう人に八味丸を投与したら潰瘍になるかということは解らないのです。も しかしたら八味地黄丸という形態に配している地黄に対する特殊性なのかなという感じがするのです。例えば先程お話したガッチリタイプだとか、やせているタ イプだとかそういう区別は無いのです。大分診てきているのですがね。だから、どういう人に投与したら潰瘍になるよということは言い切れないのです。そのた め、投与したら次に来た時、必ず「どうですか、薬の飲み心地は?」 と聞くのです、何となく胃が変だと言われたら、速やかに処方を変えるのです。それしかない様な気がします。

次は大柴胡湯ですね。大 柴胡湯は小柴胡湯と並べて話して来ましたが、大柴胡湯は柴組の作用を最大限に示し ている処方です。柴組の作用を人参や大棗、 生姜等でマイルド化して非常に使い易くしてあるのが小柴胡湯なのですが、そうではなくて柴組の作用を大黄や枳実等 で逆に強めてあるのが大柴胡湯です。

わずかに大棗、生姜が 入っていますけれど、わざわざ甘草を入れてないので、このまま使うと非常に強い歯止めのない薬になります。大黄は入っていますけれど、必ずしも下剤として ではなく、瀉薬としての作用を増強させます。大柴胡去大黄湯というのもあります。しかしこれは便秘をしていない人に使うかと言ったらそうではないですね。 普通だったら大柴胡湯を出したら下痢をして、大柴胡去大黄湯を出したら下痢をしないと思うのですが、そんな事は無いのです。本当に大柴胡湯が合っている人 は、状態が良くなったので通じつくのであって、大柴胡去大黄湯でも、合っていて便秘していれぱ通じがつきますし、効き過ぎたら大黄が入っていなくても下痢 をします。あくまでも大黄は瀉薬としての強さに関係しますね。前にもこの話はしましたけれど、あくまでこの大柴胡湯、小柴胡湯、柴胡桂枝乾姜湯の三つは柴 胡剤としての瀉薬であるという事です。そして大柴胡湯は実証で柴胡桂枝乾姜湯は虚証で小柴胡湯は中間証だというのは間違いです。これら三方は瀉薬ですので 「実」に使う薬です。実中の実が大柴胡湯です。因みに四逆散は大柴胡湯と小柴胡湯の中間証だというのは間違いだということも以前に話しましたね。大柴胡湯 と小柴胡湯との中間ぐらいの処方は今言った大柴胡去大黄湯なのです。そして、大柴胡去大黄湯に甘草と人参を加えたら、小柴胡湯にかなり近い処方になりま す。いずれにしろ、柴組が入っているからには 非常に強い薬です。そして非常に強い薬だからあまり使わない薬です。小柴胡湯はいろいろな変方が出来ます。柴何とか湯といったら皆、小柴胡湯の変方です。 大柴胡湯の場合は病勢がかなり強い状態なので、滅多に遭遇しません。大柴胡湯を出すのは一年に一人か二人ぐらいでしょうか。これだけの急迫状態というの は、人間は長く続けられないのです。非常に強い炎症で普通だったら急性胆嚢炎とか、非常に激しいセロコンバージョンを起こしつつある肝炎だとか、そういう 非常に強い状態でしか大柴胡湯証にはなりません。例外は、 元々ガッチリタイプの非常に体力のある人が、慢性疾患が急性転化するように発症した場合にこの状態になることがあります。例えば、先程お話した大柴朴湯の 状態で発症する人がたまにいます。これは本来は柴朴湯より遥かに体の丈夫な人が喘息になってしまった時です。このようなことは数少ないですね。本来、体の 丈夫な人というのはなかなか喘息にはなりにくいのです。他には大柴胡湯合桂枝茯苓丸のタイプがあります。これは大柴胡去大黄湯合桂枝茯苓丸も同じですが、 うんと衰えた状態ではないけれど、粘液水腫を思わせるようなタイプでガッチリして体全体が何となくむくんでいます。いずれにしろ大柴胡湯や大柴胡去大黄湯 は、お腹に手を置いただけで解ります。小柴胡湯や柴胡桂枝乾姜湯の場合は胸脇苦満は右側だけの場合が多いのですが、大柴胡湯はほとんどの場合両側に現れま す。柴胡桂枝乾姜湯の胸脇微苦満を捕らえるのはすごく大変なのですが、大柴胡湯の胸脇苦満は、そんなに強く押さなくても手を置いただけで顔をしかめる程強 いのですぐ解ります。西洋医学的意味では何らかの腹膜炎か、腹膜の刺激症状が出ている人ではないかと思える程、強い胸脇苦満でデファンスに近いのです。だ から大柴胡湯は極く一部の特殊な慢性疾患の人を除いては、本来は長期に投与する例は意外に少ないのです。でも最初の頃、急性胆嚢炎の人に大柴胡湯を使って 下痢をして、膿みたいなものが下がったと言うことをお話しましたが、要するに右悸肋部付近の炎症があって、どうしても攻め下さないといけないような時には 大柴胡湯を使います。でもこれだけでやるのは少し恐いですね。そういう場合点滴したり、入院させて管理しておいた方が無難かも知れませんね。徹底した瀉法 を大柴胡湯でやろうとしたら、多分それだけ激しい反応というのは有り得ます。

それから三黄瀉心湯と半 夏瀉心湯との関係が、大柴胡湯と小柴胡湯との関係と同じだという事です。半夏瀉心湯は連組です。連組の作用を大黄で強め てあるのが三黄瀉心湯です。連組を人参等でマイルド にしてあるのが半夏瀉心湯です。半夏瀉心湯の連組を柴組に切り替えてあるのが 小柴胡湯です。柴組の作用を大黄等で増強 してあるのが大柴胡湯です。三黄瀉心湯と半夏瀉心湯との関係のように、大柴胡湯と小柴胡湯との関係が作られているのです。後でよく薬味を見比べて下さい。

まあ、それで今日も大体 時間になりましたので終わりにします。何か又質問があればお受け致します。

 

質 間

喘息の寛解期に柴朴湯を 使うのは瀉剤だけれども大丈夫でしょうか。

答 え

柴朴湯はそのとおり瀉剤 だから子供の場合は神秘湯の方が良いのです。神秘湯の良いところは黄芩が入っていないという事です。そして、小児喘息というのは非常にナーバスネスになっ て、むしろ黄芩がない方が柴胡のトランキライザーの作用が増強しますし、逆に黄芩が入っていない事で長期投与の副作用も出にくいのです。子供には特にあま り沢山薬を使わないほうが良いのです。

 

質 間

大人の場合は?

答 え

大人の場合は大人になる までにドロドロになって来ている事が多いのです。大人の場合発症してあまり長くない人は神秘湯でやることが多いのですが、 間違いなく肺咳や肝咳の人で長くたって居る人は柴朴湯を中心にすることが結構多いです。先程、麻杏甘石湯と言いましたが、五虎湯を使う方が多いです。その 方がリーズナブルという感じがします。

 

質 問

麻杏甘石湯について

答 え

要するに神秘湯は、本 来、柴朴湯程ではないけれど、柴胡等による抗アレルギー作用を持っています。だから神秘湯や柴朴湯は根治につながる処方なのです。麻杏甘石湯や小青竜湯は それで根治するものではありません。あくまで対症療法的なものです。

 

質 間

六味丸の小児への適用に ついて

答 え

その附近は本当に難しい のですが、ただ八味地黄丸と言うのは本来は未熟児に使うのだと言われています。普通に成長して成長のバランスが崩れている時は建中湯になるのです。要する に機能障害的なものに建中湯を使います。やはり六味丸を使う例は八味丸の流れであって、親からもらった力がちょっと不足している、あるいは先天的なものが 少し不足していると感じさせます。その時に基本として六味丸を使います。よろしいですか。

先程言ったように是非一 臓診断をして下さい。一臓診断をしてまず耳鍼をやって下さい。一番簡単です。六ヶ所しかないのですから。そうすると何かが変わってくると思いますので来月 良い話を聞かせていただけることを期待します。

 

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