11回 「札幌 下田塾」講義録

 

私ごとになりますが、非 常に面白い経験をしました。水曜日に佐藤先生が来られた時は何でもなかったのですが、木曜日の朝から体調を崩しておかしくなりました。本当に久し振りに ピックリしました。木曜にトイレに行ったら便が非常に硬かったのです。いわゆる熱血の便秘みたいでした。そしてお昼に何か変な、トイレに行きたいような感 じがしてトイレに行ったら、完全な水様便でした。それが34回続いて、夕方になって熱が出始めました。始め38°ぐらいで、最高39°を越すぐらいになったのですが、そこで考えました。 私は普通の風邪の時は葛根湯なのですが、お布団に入ったら麻黄湯様の暑さではないけれども気分が良くなかったのです。でも下痢をしたし、熱も出て寒気もし たから太陽と陽明の合病だろうと思って葛根湯を飲んで寝たのです。そしたら、苦しくて、苦しくて。前に麻黄湯と葛根湯の話の時に麻黄湯の時に葛根湯を飲む と非常に苦しいと言いました。結局麻黄湯だったのです。要するに体内に熱がこもって表面が破れないから非常に苦しくなったのです。それで寒いのにお布団を かけられないから、やっぱり麻黄湯だったのだということにようやく気が付いたのです。ただ三時間前に葛根湯を飲んだばかりだったのですぐ麻黄湯を飲んだ ら、下手すると壊病になりかねないので、ちょうど、ある製薬会社から良いシナモンを貰っていたので、そのシナモンだけを振り出しにして、麻黄湯と飲みまし た。シナモンはパッと気を廻らしますし、シナモンを加えても麻黄湯は麻黄湯ですから良いのです。そうすると飲み終わって5分か10分 ぐらいで頭痛がスーツと抜けてきて、30分ぐらいしたら全 身にダーツと発汗しました。麻黄湯は9時ぐらいに1回、夜中の2時 ぐらいにもう1回飲んで、翌朝から桂麻各半湯を2回飲んで治りました。合わないとダメですがちゃんと合えば陽病というのは1服か2服 で効くのですね。何を言いたいのかと言うと下痢をしたから陽明と思ったのですが違うのです。陽明の下痢は腹痛もあるし、1回行っても全然我慢できないのです。水溶性の下痢で、1回行ったらすっきりするのは小腸性の下痢です。麻黄湯を飲んだら下痢はす ぐ止まり、又便秘になったのです。大腸を通過して大腸には燥便がそのまま残っていたのだと思うのです。要するに陽明の部分は大腸に熱として潜在していたの です。下痢をしたら太陽と陽明の合病で、葛根湯で良いのだと言っていましたが、自分で経験してみて、こういう事もあるのだと言う事が解りました。小腸性の 下痢だったら純粋な太陽病の事もあるのです。今回飲んだのは葛根湯は一服だけで、他は麻黄湯と桂麻各半湯で、結局太陽病の薬を飲んで効いたのです。麻黄湯 を飲んだときバスロープに2枚本当にしぼる様な汗が出まし た。ただし麻黄湯証はインフルエンザの時以外滅多にないので、この様なことはあまりありません。私の場合麻黄湯証になることを全く予想せず、自分は葛根湯 証だと頭だけで考えてしまったのです。赤ちやん等が風邪をひいてきたらほとんど麻黄湯です。大人はそうそう簡単に麻黄湯にはなりませんね。

ところで本題に入ります が、いつも言う東洋医学的なことは番号で考えていくと非常に整理しやすいのです。

 

1 丸ごと、方証一致
2 陰陽
3 気血水、内因、外因、不内外因
4 望聞問切
5 五臓
6 六腑、六経
7 七情内傷、七奇経
8 八綱弁証
12 十二経絡

 

これだけの数字の順で覚 えてしまうと良いのです。診断するときは出来れば全ての考えで説明出来たら良いのですが、どこを切り口にしてどこから入って行っても良いのです。例えば五 臓のどこにあるか、あるいは今六経のどこにあるか、その患者さんを見ると七情内傷がどういうふうになっているか等から入って行っても良いのです。まあ八綱 弁証はやや観念的になり易いのですがね。実は今日、十二経絡図の人体模型を持ってきてもらったのは、十二経絡というのは大変大きな意味があるからです。こ れを良く眺めていると解ってくるのですが、痛みとか違和感を経絡に沿って訴えていることが非常に多いのです。西洋医学的考え方ではそんなの関係ないと言っ て一顧だにしませんが、例えば、前に言ったかも知れませんが、右手の親指の甲側と一番関係があるのは左足の親指の裏側です。そしてこの間に経絡を通じて肺 や大腸があります。そして肺や大腸の疾患の人がこの通り道にいろいろな症状を出していることが非常に多いのです。西洋医学だったら個々の臓器ならその臓器 だけ、手首だったら手首だけと見てしまいますが、東洋医学は全部有機的につながっている関係として見ますので、この模型をずっと見続けていると、例えば虫 に刺されたなどという場合は別ですが、患者さんのどんな訴えにも経絡とか臓腑と関連しているのが解って来ます。例えば自然にある痛み、ある時突然出てきた 痛み、実は頭が痛いのだけれども足も痛いとか、あるいは動悸がするけれどもお腹も痛いとかいう訴えを厳密に追っていくと、必ず臓腑とか経絡と関連している のが解ってきます。でも、いつも言うように最終的にどういう弁証をするのかというと、どういう切口をとっても良いのですが、最終的には丸ごと人間を見るこ とが出来て方証一致させることなのです。方証一致と言えば、古方で言う傷寒論の条文に一字一句違わないのを 言うと思う方が居ると思いますが、古方の方達の言っている「口訣」というのは彼等の先人が、経験でこの処方はこうだと捉えた事を言うのです。これは傷寒金 匱にない事なので、丸ごと捉えるということと同じ事なのです。例えば1人 の患者さんを目の前にした時に極端な事を言えば、生薬一つ一つ混ぜるのでも、パッとこの患者さんはこういう処方だという事が浮かんでくるようになれば一番 理想なのです。これが簡単にならないから1から12までの弁証をいろいろやるのです。その為にその話をしながらずっと薬の話をしているのです。そして頭の 中を常に整理して、これは何だという様に一つの部分を深めるより、この1から12を意識しながら、あれは何かな、これは何かなというように幅広くどれにで も首をつつこんでみた方が良いかも知れません。一つだけ深めようとしても意外に深まって行かないし、迷路に迷い込んでしまったりします。広く浅くやってい るとだんだん螺旋状に深くなってくるのですね。例えば気血水のところだけを読んでいたら、ちんぷんかんぷんだったのが、他を学んだ一年後にはもっと深い部 分で見られるようになっていたりします。一つのことにこだわらずに、いろいろな事を学んでください。全部「はてな?」と思う事もあるけれど、全部なるほど と思えるように、これ(1から12)が助けてくれる事もあります。ちょっと判じ物的なものが入っている場合もありますが、全く荒唐無稽なものであるならば 歳月を越えてこれだけ伝わってはいないのです。それなりの真理を含んでいます。

今日は乙字湯からです。 この処方の薬味は今までで全部出てきたものばかりです。でも柴胡に関しては四逆散で出てきただけで、小柴胡湯の様に黄芩を含んだ処方はありませんでした。 乙字湯は柴胡と黄苓がセットで出てくる一番薬味の少ない薬です。一応これは小柴胡湯や大柴胡湯の加減方と考えられるのですが、ちょっと特殊過ぎて現実には ほとんどの場合痔の薬としてしか使われていないです。ごく稀に、肝炎もあるが痔もあるとか、あくまでも痔があることを前提として何らかの炎症、例えば肝炎 とか腎炎とか、慢性気管支炎等がある時に使う事が多いのです。もうひとつ柴胡と升麻の組合せについてですがこの組合せは昇提作用といって下っているものを 上げる作用です。因みに瀉心湯というのは下らなければいけないものが止まっているか、止まらなければならないものが上っているのに使います。柴胡と升麻は 丁度これの逆で、上らなければいけないものが止まるか、止まらなければいけないものが下がってしまうのに使います。後で出てくる補中益気湯等も同じ作用で すが、乙字湯の方がより実証に使います。何らかの意味で下に下ると重力がかかるので下半身の筋系が緊張し、血液がうっ滞し、この状態が結果として痔を作り やすいということだけなので、これを引き上げてやる目的で作られています。他の薬味は当帰、大黄等はそれを助ける薬です。あまり難しい薬ではありません。

次は防已黄耆湯です。こ の処方で大きな作用は黄耆です。でも古典の名前で防已と黄耆が並べてあるのはもちろん意味があるのです。防已は一方で冷やして水をさばきます。これは ちょっと不思議かも知れませんね。黄耆は温めて気を高める薬なのです。人参は脾を補って肺を助ける薬で、それに対して肺を補って脾の負担を軽くする薬で す。黄耆を使う人は肺の弱さがあるのですが(西洋医学的に言えば心肺機能も入る)潜在的な心不全傾向があるので、どこかに水が溜り、その為に防已の水に対 する作用が必要になるのです。こういう人は脾に入ってくる水を肺に充分上げられなくなります。旭川から来ている山下先生から、「肩関節周囲炎も膝関節炎も 水の病証なのにどこが違うのか?」という質問を受けて、私も初めてその事についてじっと考えてみました。どちらも水の病証ですが、脾が水を上げる事が出来 て、しかも肺がそれを受け取る力があっても、肺が全身に水を回す力が落ちてくるとどうなるかというと、水は上ったまま下がらなくなるのです。それで上半身 の水毒になってしまって肩関節周囲炎等になります。

それに対して脾から肺に 上るのがダメになり、体内に入った水が全身に分布しないとどうなるかというと、重力の法則で下半身に溜まり防已黄耆湯になります。防已黄耆湯の状態という のは下半身の水毒です。下半身に水毒があって下半身に冷えがあると、やはり全身の気の廻りが悪い状態になります。気の廻りが悪くなると、下半身は冷えて当 然上半身は熱をもって来るのです。水毒に対しては一応、朮は入っているのですが、水を動かす荏苓が入っておらず、防已という薬を主にした処方名になってい ます。防已は一応冷やす薬ですが上半身にある熱を何とかして動かして、ついでに水も動かしてやろうという作用です。そして黄耆は潜在的なここの状態(脾の 水を肺に上げる。肺はそれを受け取り、全身に水を回す作用)を改善させるために配してあるのです。だから処方名が防已黄耆湯となるのです。いつも言うよう に大棗、生姜は脾をちょっと助けてあげるだけです。薬味が多くなってきたら大棗、生姜は考えないで良いのです。甘草も全体を調和するだけですから考えなく ても良い訳です。そうすると防已と黄耆と朮(朮は上半身・下半身の関係なく水をちょっと動かす)を考えればよいのです。朮はどちらかと言えば少し補うよう な利水薬で、防已は少し攻める利水薬です。この二つの利水薬と黄耆という肺や脾を補う薬の配合です。

そうすると今まで出て来 た薬の何かに似ていませんか。真武湯ですね。真武湯は歳をとって潜在性の心不全となり、腸管の動きが悪くなったり、便秘になったり、いろいろな症状を出し ます。防已黄耆湯は本来は若い人に使います。今ではあまり見ないのですがいわゆる水肥りタイプに使います。

当帰芍薬散もそうです が、男性には滅多に使いませんが、稀に使う事はあるのですよ。女神散などは男性に使った事はありません。いわゆるこういう形の水の病証というのは男性には 起こりにくいのかもしれません。若い男性では大抵堅肥りなので、防風通聖散のことが多いのです。防已黄耆湯は女性に多いのですが、昔の女性はもっと多かっ たのですね。最近の女性は活発に動くので当帰芍薬散タイプもあまり居なくなった様です。防已黄耆湯タイプは下半身に冷えと水、上半身にのぼせが来ます。上 半身にのぼせが来るのは真武湯とちょっと違うところですね。真武湯は全体が冷えます。防已黄耆湯は若さ故の陰陽分離になるのです。そして下半身に冷えと水 があると、重力の法則でどんどん下に水が溜まります。そして体重がオーバーすると一番負担がかかるのが膝なのです。比較的若い人で水肥りで膝関節症を起こ してくる人は、ほとんど防已黄耆湯です。水はどこに出るかというと舌に出るのです。下半身の水でも水があれば必ず舌に出ます。どうしてでしょうね。どんな 場合でも水毒がある時は、舌に水が無い事は無いのです。舌に水がある時は舌がポッテリとしていて、甚だしい時は舌に圧痕があります。そして冷えていれば舌 そのものは薄いピンクになり、決して濃い赤にはなりません。苔もありません。防已黄耆湯は舌を見ただけでもわかりますが、お腹に手を当てただけでも解りま す 白くて軟らかくてもち肌です。何故そう感じるかというと、水があり自汗があるからです。軟らかい肌でも水が無くてカサカサだったら、もち肌ではないで すね。しっとりと吸い付くような軟らかさです。お相撲さんはもち肌なんですね。非常に奇麗な肌です。但し日本人のお相撲さんです。小錦や武蔵丸の肌は奇麗 ではないですね。お相撲さんの肥り方というのはモンゴロイドの日本人に良い肥り方なのですね。大乃国等は、女性が見たら羨ましがるほどの奇麗な肌でした。 もしかして診察してみたら防已黄耆湯かも知れません。重力の法則で水が溜まり、一番訴えの多いのが膝関節症です。確認するのは舌が一番で、それと皮膚のき め細かさですが、実は腹証は一生懸命運動しているタイプではないので、腹には力が無いのです。起立時にはお腹は出ていますが、仰臥位になると必ず横に張り 出します。仰臥位で腹部の真ん中が膨降していて横に張り出さなければ防已黄耆湯ではないのです。

防已黄耆湯は膝関節症や 下半身のむくみの他に若い女性の便秘にも使います。この便秘は普通の下剤を使っても出ないで真武湯が効く便秘と全く同じなのです。若いご婦人で非常に頑固 な便秘があり、放っておくと何日も出ないのです。ただし特徴的なのは何日も出なくても本人は苦痛ではありません。でも出ないと体に悪いのではないか、ある いは肌に悪いのではないかと思って無理矢理下剤を飲みます。それも並みの量ではないのです。例えばコーラックなら一瓶買ってきて一週間に一度その全部を飲 んだりしますが、すっきりしないけれど絞り出すように便がでるという状態です。非常に頑固な便秘をして水肥りであることは真武湯と全く同じ状態です。腸管 が浮腫状になって細くなっているから通じがつかないのです。
おそらく同じ理由なのでしょうか、そういうタイプの閉経前の女性に話を聞くと、必ず月経困難や生理不順があります。普通は月経 困難や生理不順は当帰芍薬散や桂枝茯苓丸等の婦人薬を使うのですが、このタイプは腸管や内生殖器が水毒で圧迫されていてそういう現象になりますので防已黄 耆湯で見事に改善します。但し常用量では効きません。真武湯は常用量を使うと下痢になってしまうという人もいます。真武湯の場合23量 から15倍 ぐらいを使います。防已
黄耆湯のそういう頑固な便秘の場合、倍量ぐらい使わないとエキス剤では効きません。今までで増量して、増量して、最大225g3倍量)使用しましたら、こんなに気持ちよく出たのは初めてだと言った患者 さんが居ました。これは安い薬ですが、今は全部レセプトに出ますので、引かれるかもしれません。煎じ薬なら引かれる心配もないし、エキス剤よりも安いで す。非常に面白い薬です。

テキストに書いてある他 の適応症は水毒のものですね。こういったときに最初に言った気血水について言っているのだなと頭の中に整理する事が大切です。更に経絡のことを言えば防已 黄耆湯の体の主な反応点は太陰になりますし、太陰が落ちると肺と脾が落ちますので、肝が上がり、防已黄耆湯の膝関節症は本人が訴えるところは厥陰肝経と少 陽胆経ですから陽陵泉や曲泉になります。

同じことで、例えば老化 現象の膝関節症の場合は大抵少陰経に痛みを訴えます。だから膝関節症一つとっても防已黄耆湯の人も八味地黄丸の人も苡仁湯の人もいますが、局所だ け見てもかなり推測はついて来るのです。意外と主経脈そのものになっているところは強い反応を出さないのです。見た目の腫れとか所見のあるところはあって も、痛みを訴えるところは従経脈になっているところが多いのです。その附近を整形の先生(旭川の山下泉先生)なんかはよく悩んでいます。やはり痛みを訴え るところが主経脈なのか従経脈なのか本当に悩むことが多いのです。

次は当帰芍薬散ですね。 これも今まで随分話したからあまり話すことがありません。桂枝茯苓丸のところでも、四物湯のところでも話しました。地黄が入っている処方は、皮膚がかなり 枯渇した状態になっている時に使います。当帰芍薬散には地黄が入っていません。何が入っているかを考えるのも大切ですが、何が入っていないかと考えるのも 面白いですね。当帰芍薬散というのは血を補う薬でありながら地黄が入っていないのです。四物湯の主薬は地黄ですが、実際に増えるかどうか解らないのですが 何となく造血作用のようなものがあります。当帰芍薬散は違うのですね。血管を開いて血行を良くするだけです。その他は、朮、沢瀉、茯苓という五苓散の主薬 で水に働きます。これに猪苓と桂枝が加わると五苓散になります。当帰芍薬散は造血を図るのではなくて、血と水を整える薬です。

どうも当帰芍薬散の証と いうのは病気でそうなるというのではない様です。もって生まれた体質をずっと引きずって、少陰経の流れが悪いま、血の流れも停滞しています。当然血と水の 流れが停滞しているから冷えも出てきます。但し防已黄耆湯みたいに強い水の停滞は大抵は出てきません。これは多分、元から持っている生命のエネルギーが少 ないから、水を沢山保てないのでしょうね。だからどちらかと言うと痩せているし貧血気味だし、水の停滞はありますが、ひどい水毒という感じではないので す。でも確かにどこかに水がありますし、皮膚がカラカラということはありません。本当に一昔前は美人タイプでしたが、今だったら何となく病弱だなという感 じで、内向的で心も体も下を向いているような感じがします。最近はどうも、当帰芍薬散の状態で薬を欲しいと言ってくる患者さんはいないような感じがします ね。桂枝茯苓丸や大黄牡丹皮湯の人は来るのです。活発に動いているとやはり何か調子が悪いと言ってくるのです。当帰芍薬散の若いご婦人が居たら、今は家に じっと閉じ籠っているのではないでしょうか。最近、当帰芍薬散という処方をした記憶がないのです。その状態で少陰経の痛み、即ち足腰が痛み始めたとき、初 めて医療機関に来るのです。だからそういう人には、最近は附子を加えて当帰芍薬散加附子として飲ませます。そういう処方が必要になった段階で、かなり痛み が強くなって、それもいやいやながら受診します。10年も 前には結構居たのですが、最近は純粋な当帰芍薬散の段階で受診した人はちょっと記憶にないのです。
本来は何度も言うように、三大婦人薬の一つです。四物湯は他の薬に加味されるだけで、主薬ではないのです。当帰芍薬散、桂枝茯 苓丸、加味逍遙散の三大婦人薬は、婦人科の先生が入口でこの三つを、来る患者さんに振り分ければ、婦人病の95% の枠はクリアできると思います。要するに血虚タイプ(当帰芍薬散)か血瘀タイプ(桂枝茯苓丸)かそのどちらでもない(加味逍遙散)かどれかを見極めて投与 すれば95%は良いのです。私のところでは当帰芍薬散の人 は来ませんが婦人科にはよく来るのです。例えば当帰芍薬散は安胎の薬の代表的なものなのです。私が九州の離島にいた時、母子センターがあり、医者は私しか いないので助産婦さんと何度も赤ちゃんをとりあげました。我々の世代は正常分娩だったら心配しながらも何とかできたのです。当時、この当帰芍薬散をよく使 いました。当帰芍薬散を妊娠当初から飲ませると、つわりも軽いし、妊娠中毒症もあまり出ませんし、赤ちやんも健やかですし、産後の日立ちも良いのです。私 の妻が妊娠した時はいつも飲ませていました。習慣性流産の人にも何人か出しましたけれど、うまくいかなかった例はありません。前に切迫流産をした人でも、 ほとんどこれでくい止められます。そういう意味で安胎の薬と言えるのです。不妊治療には必ずしも当帰芍薬散は当てはまらないのです。桂枝茯苓丸の人でも妊 娠したら当帰芍薬散の体に変ります。妊娠すると出産に備えて血液をどこかにプールするために見せかけの貧血になります。妊娠2週間ぐらいでおきます。その頃よく風邪症状が出ますが、当帰芍薬散や香蘇 散を飲ませれば治まってしまいます。どうも本当の風邪ではなくて、丁度、妊娠による体の切り変りのようです。妊娠に気付かないと、強い抗生剤を使ったり、 消炎鎮痛剤を使ったり、あるいはレントゲン写真を撮ったりして大変な事になることがあります。

妊娠したら当帰芍薬散に 体が切り変ります。不妊の治療には方証一致による随証治療になります。例えば、瘀血体質だったら桂枝茯苓丸で瘀血を取り除いてあげれば妊娠が成立するかも 知れません。加味逍遙散で神経系をなだめてあげた方が妊娠が成立するかも知れません。不妊治療だったらイコール当帰芍薬散というのは間違いだと思います。 妊娠が成立したらほとんど当帰芍薬散になりますが、たまに温経湯の場合もあります。でもほとんどの場合、当帰芍薬散です。一般内科にはほとんど当帰芍薬散 の人は来ないのですが、婦人科の場合は来るだろうと思います。婦人科だったら当帰芍薬散と桂枝茯苓丸と加味逍遙散とをキチンと見極めて投薬すれば95%の患者さんは満足してくれると思います。あとの5%はどうするかというと、自分はこの患者さんで勉強できるのだと思って取 り組むのですね。何が合うだろうかと思ってね。全部がうまくいったら勉強する必要がないのです。私なんかも最近は難しい人が来ると張り切るのです。

次は越婢加朮湯です。婢 は多分脾の間違いだろうと思います。脾と言えば西洋医学的に言う膵を中心とした形態群です。西洋医学でもこの膵というのも沈黙の臓器の代表なのですが、東 洋医学でも実は脾と言うのは表に出ないものなのです。でも、脾は五臓及び六腑に栄養を送っている源です。人間の生きている後天の気の食物のエネルギーや水 を取りみ、それを全身に送る中心です。この処方が成立した時期というのは、どちらかと言うと外因病の多かった時で、外からのもので脾がやられて、要するに 脾を抑えられてしまって水の代謝が全身にわたって悪くなった状態を何とかしようとするのが越婢湯です。更に、水の代謝を良くする朮が加えられたのが越婢加 朮湯と言う表現みたいです。現実には急性疾患で、筋、関節に来て麻杏薏甘湯になることがあり、これは痛みが強い状態です。

越婢加朮湯は急性疾患の 経過中で、何らかの水の代謝障害が起きてきた時に使われます。麻杏薏甘湯はどちらかと言うと血の方に異常が出てきた時に使われます。急性症状を伴ってきた 関節炎に麻杏 薏甘湯を使い、腎炎等で浮腫が出てきた時に越婢加朮湯を使うと言う事になっているのですが、現実にはこれらの状態はあまり見られません。皆 さんのところでは診るかもしれないので一応話しておきますが、私のところでは、急性期で来院して麻杏薏甘湯や越婢加朮湯までなってしまったら最初の治療が 間違っていたことになります。私は今は、まずこういうことにはしません。急性期の病気は、初期の状態でシャットアウトできる自信はありますし、まず麻杏薏 甘湯や越婢加朮湯にはなりません。この状態になるような亜急性期の時は近くの専門医に行って、わざわざ、あのような南富良野の山の中まで来ないのです。今 の南富良野町は3100人しか居ないですし、40分車で走ったら総合病院がありますから、やはりこれくらいの患者さんは 専門医にいってしまうのですね。

九州の離島にいた時は一 万人も居て、夜になったら船も通わないですし、嵐がきたら一週間ぐらい本当の離島になってしまいますから、麻杏甘草湯や越婢加朮湯の患者さんも来ました。 その頃は使っていましたが今は使っていません。

今は内因病で使う事が非 常に多いのです。防已黄耆湯は同じ水の代謝障害でも潜在性の心不全があり、肺や脾の衰えもあり全体的に虚している状態で冷えや水があります。越婢加朮湯の 人は麻黄や石膏が使えますので結構強い体質ですね。一応これも慢性化したら附子を加えます。昔の処方でも越婢加朮附湯というのがあります。それでも防已黄 耆湯証よりも体質的にはまだ強いようです。膝関節症の場合は防已黄耆湯と越婢加朮湯と合方する場合もあります。成人の関節症はうんと弱ると膝に水が溜まり やすいのですが、越婢加朮湯だけの状態だったら必ずしも下半身だけとは限らず、全身どこにでも水毒という状態が現われます。丈夫な人で炎症が明らかにある と考えられる人でリウマチとか多発性関節炎がある人にもこの越婢加朮湯を使います。

ところが実はこのテキス トには書いていないのですが、私はこれをアトビーに使います。これは非常に特殊な使い方です。他の本にも載っていないと思います。東洋医学的治療を普通に やられていないから書かれないのだと思います。前にも言いましたが、リウマチに柴胡を使って揺さぶるという治療と同じ意味合いになりますが、アトビーのど ういう状態に使うかと言うと、ステロイドを長く使っていると皮膚が紅皮症というよりも、象の皮膚の様に分厚くなってしまって、触るとゴワゴワになっている 時に使います。あの状態と言うのは薬が皮膚まで到達しないのです。その皮膚を破る薬として使います。「あなたの皮膚はゴワゴワで破らないと中の悪いものが 出ないから、一旦悪くするために薬を出すからね。」と
はっきりそう言って患者さんに覚悟してもらいます。そうするとガーゼを一日に何回も取り替えないといけないぐらい浸出液が出ま す。けれども皮膚が薄くなり、軟らかくなるのを患者さん自身が感じ取ってくれるので、頑張って治療を続けてくれます。越婢加朮湯は何故こういう作用がある のか私も分からないのです。麻黄かなと思いますが、他の麻黄剤ではそういう作用はありません。石膏かなと思っています。石膏は皮膚の下の水に作用します。 でも他の石膏の入っている処方ではこういう作用はない様です。私もいろいろやってみましたが、麻黄と石膏の組合せ等もそういう報告がありません。多分どこ もこういう使い方をしていないからだと思います。でも敢えて私はやります。そして皮膚が破れて一直線に治ってくれれば良いのですが、あんまり出すのがひど 過ぎると、ちょっと制御する意味で、今度は消風散に切り替えたりして、出させてはフォローし出させてはフォローする様な治療をします。前にも言った様に、 私のところで引き受ける患者さんというのはステロイドを使って、使えば使うほど悪くなってくるような人たちで、覚悟して来ていますので、そういう治療に耐 えるモチベーションを持っており何とかなるのでね。

アトビーの治療は、他に は状態を見ながら十味敗毒湯や荊艾連翹湯を使ったりします。私は越婢加朮湯で皮膚を破るのがうまく行くのが分かって、もう一つ別の疾患に越婢加朮湯を使っ ています。それは尋常性乾癬です。これはほとんどと越婢加朮湯と当帰飲子の組合せです。アトビーは文字通り湿疹です。湿っているところをある程度乾燥させ ないといけないのです。乾癬は文字通り基本が乾いて肥厚した癬ですね。これを潤す最大の薬が四物湯に皮膚薬の入っている当帰飲子です。要するに四物湯で乾 癬を中から潤してあげて、乾癬の部分を破ってあげるのです。これが非常に効くのです、ほとんどうまくいっています。尋常性乾癖は難病という事で尋常性乾癬 友の会を作っているのですが、先生方のところで治療してもらえば、友の会はそのうち解散するのではないでしょうか。但し、乾癬は完全に無くなりはしませ ん。本人の生まれつき持っているものですからね。でも全身がひどい状態になっていても、薬を飲んでさえいれば本人が社会生活をするのに苦痛を感じる事は無 くなります。露出部分は本来は治り易いところですので、女の人だったらノースリーブの服が着られて、膝までのスカートをはければそれで良いでしょう。そこ までにはなるのです。体の奥というか陽の当たらないところは治りにくいのです。特に最後まで残るのは背骨の腰椎の附近
です。貨幣状湿疹と尋常性乾癬とを北海道の先生はよく間違って発表したりします。尋常性乾癬友の会の中にまで貨幣状湿疹の人が よく入っています。貨幣状湿疹は文字通り湿疹ですから、乾癬程の皮膚の厚さはありません。最も強いステロイドを使えばリバウンドはありますが、23日 で完全に消えます。乾癬は23日で消える事はありません。乾癬は慢性化する程盛り上がってきます。乾い て大抵は淡紅色かピンク色の盛り上がりです。それをキチンと確認してほとんど病名診断で越婢加朮湯と当帰飲子を使っていただければ大抵良いようです。ほと んど視診が全てを決めているという感じです。だから皆さんがお使いになられたら、あんな山の中(南富良野町)まで患者さんが来なくても良くなるのではない でしょうか。そんなに時間はかかりません。乾癬は本人が皮膚が軟らかくなって来ているのが分かるのです。写真を撮っておけば私達もはっきり良くなっている のが分かります。ということで越婢加朮湯は皮膚を破る薬です。初めアトビーの象皮症みたいなものに使って効くということで尋常性乾癬に使ってみたらやはり 効くということで、自分でも面白い使い方だと思います。
 次は麦門冬湯です。これは後で出て来る炙甘草湯とよく似ています。三陰三陽で分類してある図では、この二つはすぐ近くに書い てあります。この附近は皆、脾や肺の虚がある人なのです。麦門冬湯は基本は外因病に使います。でも脾や肺の虚がない人は普通の状態では麦門冬湯証にならな いのです。そこまで言うと内因病と外因病の関係が非常に分からなくなってしまうのですね。純粋な外因病で麦門冬湯になる疾患はたった一つだけあります。そ れは百日咳です。ワクチンが出来てから今では無くなったのですが、私が医者になった頃はありました。本当に小さい12歳 の子供がひどい咳をして可愛そうでした。他の鎮咳剤や去痰剤が全然効かないのです。でもこの麦門冬湯だけが非常に良く効くのです。何故か分からないが他の 薬が効かないから百日咳というすごい名前がついたのでしょう。麦門冬湯はもしかしたらそういう様なものを想定して作られたのかも知れません。

現代では単純に風邪をひ いて基礎疾患がないなら、例えば麻杏甘草湯や麻杏甘石湯合、あるいは単なる麻黄湯や桂麻各半湯とか、普通の太陽陽明の合病とか、その付近の状態になるので す。でも風邪をひくと必ず喘息になるとか、痰の切れない咳がつくという人がいます。先に言った百日咳の場合はこれ一つだけで良く、合方する必要が無いので すが、今言ったような風邪の時は必ず麻杏甘石湯と麦門冬湯を合方して使います。それに対して内因病から出発して慢性気管支炎になっている状態にも麻杏甘草 湯と麦門冬湯あるいは五虎湯と麦門冬湯の合方という全く同じ処方で効いてしまいます。でもこの人は外因病で使い、この人は慢性気管支炎に使っているという ことを一応頭の中で整理しておいたほうが良いですね。そうしないと薬は同じでも外因病として治療しているのか内因病として治療しているのか曖昧になってし まいます。麦門冬湯の一番の特徴は「大逆上気」です。咳き込んで顔が真っ赤になるのが上気です。場合によっては吐くぐらいになるまで咳き込んで、それで ちょっと痰が出て楽になります。痰は多くないのです。これが麦門冬湯の証です。まあ聞けば分かりますね。これと似た状態で痰がたくさん出て、それでも咳き 込むというのが五虎二陳湯だと言うことは前に言いました。普通は、麦門冬湯に気管支拡張作用のある麻杏甘石湯や五虎湯を合わせて使います。どちらかといっ たら外因病の時は麻杏甘石湯と組み合わせる事が多く、内因病の時は五虎湯と合わせる事が多いのですが「大逆上気」の時に使うというのが特徴です ただ肺や 脾の虚があるのは確かめたほうが良いのです。

実は麦門冬湯のお年寄り 版は清肺湯なのですが、清肺湯になると「大逆上気」も強くありませんし、痰の量は少し増えます。でも痰が粘張で切れにくいのは同じです。何故そうなるかと 言うとお年寄りだから「大逆上気」するほど咳き込めないのです。そしてお年寄りになると肺疾患も慢性化していて、肺の線維化も起こっているので、痰も少し 多くなります。これは年齢によるシフトであって、五虎二陳湯の様な水性の痰がたくさん出るようなことはないのです。後で出てきますが、清肺湯は麦門冬湯の お年寄り版で五虎清肺湯の組合せで使います。お年よりはそんなに水を貯められませんので、五虎二陳湯というのはほとんどありません。おそらく若い人の五虎 二陳湯も五虎麦門冬湯も、歳をとると両方とも五虎清肺湯になっていくと思います。麦門冬湯は特殊な状態の時にしか使わないのですが、結構使い手はありま す。急性疾患にも使いますし、慢性疾患で長期に使っておられる人も居ます。

次は茯苓飲です。茯苓と 似た薬がいっぱい入っているのですが、敢えて茯苓飲と名付けて茯苓を主薬にしてあるというのは、やはりこの処方が一番茯苓らしいからでしょうね。人参は気 を補い、黄耆は肺を補い、白朮は利尿作用で、茯苓は一応水を助けるのです。強心作用は人参や黄耆の方が多いのです。これは心が拍動している部分の心肺機能 で酸素を取り込み、血液を全身に回す作用です。それから本来の「心」というのは冠状動脈と内頚動脈からの脳循環です。茯苓はどう作用するのかと言うと冠血 流とは言えないし、山梔子や天麻の様に脳関門を通って脳に入ったりしないので脳循環とも言えないのですが、でも明らかに茯苓を使うと心神が正気に戻ると言 うような感じがあるのです。丁度、逆のことがあります。脳死状態になると2週 間以内に必ずMOFになって、どんな治療をしようが死んで しまいます。茯苓はこの逆をやる様なのです。要するに脳の活力が少し低下して、いわゆるMOFま では行かないで、もっと軽い臓器不調とでも言える様な感じになって、いろいろな臓器が元気が無いという状態の時に、茯苓を使うとすごく全体がシヤキッと締 まって来るのです。茯苓そのものが何かしているという感じではないのです。利尿作用は確かにあるのですが、ほんの少量加えても何か引き締まってくるので す。おそらく多臓器不調になっているのを改善するのだと思います。人参等は基本的な潜在的な心不全等を補おうとはしているのですが、刺激する薬も入ってい るので徹底的に弱っている状態ではないのです。枳実が陳皮と一緒に入っており、ほとんど動かす作用になります。陳皮は枳実と一緒になると刺激する作用にな ります。そして乾姜ではなくて生姜が入っており、陳皮、枳実、生姜とみんな刺激する薬として働きます。そういう薬が使えるから、そういう薬に反応するだけ の物を体力として持っている筈なのです。でも、何となく指令塔があまりうまく働いていないので全体的に不調になっており、それをちょっと一方で亢め、一方 で刺激しながら茯苓でキチッと引き締めるというそれだけの薬なのです。こういう茯苓飲の状態になると、やはり脳や脾、肺の働きが落ちて、気の働きが悪く なって水の不調がおきます。でも、茯苓飲だけの患者さんはあまり来ないですね。水だけの停滞の段階が多いのです。茯苓飲合半夏厚朴湯の状態になると気も不 調になり、患者さんとして医療機関に来ます。だから茯苓飲の診断は難しいです。これが確実に出来るようになったら、かなり力が上がったと言って良いでしょ う。茯苓飲は、一応水の異常がありますが、水毒というほどではないので、舌を見てもそんなに強い水毒が出ていません。厳密に言えば水毒傾向だなあとか水が 滞っているなあぐらいの感じです。防已黄耆湯のように舌が分厚くなるような状態ではありません。非常に強い冷えがある訳でもなく、お腹の痞えも軽いので す。だから何を見るかと言ったら、やはり望診でその人の正気が「少し落ちているな。」と言う事を把える事です。正気が落ちていてそれで頑張っていると、見 せかけの興奮状態が出てきます。その場合は桂枝茯苓の組合せになるから、これは分かり易いのです。興奮したり落ち込んだり、精神の不安定状態が出てきま す。桂枝茯苓丸や苓桂朮甘湯がそうです。茯苓飲だけの場合は「正気が違うかな。」という感じがあり、そのために何となく体に元気が無いという状態です。あ とは前にも言いましたが、術者の気が亢まってくればお腹に手を置いただけで分かります。水の動くのが感じ取れるのです。大体心下部あたりですが、たまに右 下腹部に在ることもあります。左下腹部は私はあまり記憶が無いですね。手からの気というのはすごいのです。例えば当帰芍薬散の人はお腹を痛がるのですが、 手を置いているとその痛みが消えるのです。本来、血と水の働きが悪くなって痛みが出ているのでが、術者の気が伝わると痛みが消えるのです。茯苓飲の人は術 者が手を置いた途端に水が動くのを感じます。茯苓飲合半夏厚朴湯の人は気と水が同時に動きます。これは水泡が動くのが感じられます。茯苓飲の場合は水だけ がスーツと動くのが感じられますが、こちらの方がはるかに難しいですね。茯苓飲の人もまず医療機関には来ません。茯苓飲という処方はついでにしかしたこと はありません。

別の人に付いて来て、つ いでに見てほしいとか言う場合にしか処方をしたことはないですね。茯苓飲単独の人はわざわざ医療機関にこなで、町の薬局に行って「一寸調子が悪いのです が、何か薬ありませんか。」と言って薬を飲んでいるかもしれません。茯苓飲合半夏厚朴湯になるとちょっと強い症状が出てきます。胸の痞とかお腹がゴロゴロ するとかですね その場合は私がお腹をちょっと触るとグルグルと鳴ります。場合によっては患者さん自身がびっくりするぐらい、お腹が動いて鳴りますのです ぐ分かります。だから、茯苓飲合半夏厚朴湯の人ぐらいからお腹を触ってマスターして行けば良いと思います。疾患として茯苓飲は胃の病気に使うのですが、本 来は正気の低下に作用します。その為に茯苓飲という名前が付いているのです。生薬で1gか ら3gぐらい茯苓を使うと本当に引き締まってくるのです。 茯苓は上薬ですのでまず副作用は出しませんし、簡単に加える事が出来ます。因みに人参も上薬ですがやたらと出すと胃実になり過ぎて、お腹がバンパンに張っ て来たり、更にひどい場合はクッシング病様になったり、血圧が上がり過ぎたりすることがあります。また、黄耆は合わない人が居て、飲むとかえって具合が悪 くなったりすることがあり、その人によって合ったり合わなかったりすることがあるのですが、茯苓はほとんどそういう記憶がないですね。この人は全体にバラ ンスが悪いのではないかと思える人には大抵エキス剤に茯苓を原末でちょっと加えてあげるだけで結構良い結果を出します。今日はこれで終わります。質問をど うぞ。

 

質  問

アトビー治療に越婢加朮 湯を使うことについて。
答  え

越婢加朮湯で皮膚が破ら れて出すぎたら消風散を使いますが、細菌感染を起こしている場合はミノマイシン等も使います。消風散で出過ぎが治まったら、また越婢加朮湯を出します。本 人が希望する場合は荊艾連翹湯に越婢加朮湯か消風散を加えます。体外に出し続けるために苡仁を出すこともあります。

これは生のものを煮て食 べさせます。前にも言いましたが苡仁は外からのフリーラ ジカルをカットする働きがあり、うまくすると細菌感染に対しても抗生剤を使わなくても済む事があります。もう一つ黄耆は、の働きを正常化し一方的 に出たり入ったりするのを調整します。ただし、皮膚がグチヤグチヤになってが働けなくなったら効き ません。そうするとどうするかと言うと、出てしまったものを発散させるために蘇葉を加えます。それでも本人が辛がる場合には気だけですので、気を紛らわせ るために薄花を加えます。薄花はちょっと皮膚の爽快感を持たせます。そういうものを使いながら、基本的には越婢加朮湯で破って出し、出し過ぎを制御する時 は消風散を使います。

 

質  問

アトビー性皮膚炎に黄連 解毒湯や白虎加人参湯は使いませんか?

答  え

黄連解毒湯は荊艾連翹湯 の中に入っています。黄連解毒湯はいろいろな皮膚疾患に使います。白虎加人参湯は特殊な状態に使いますが、大体はその中に入っている石膏の作用を目的とし ています。越婢加朮湯に石膏が入っていますので、大体これで対応できると思います。

 

質  問

瘀血がある時に下痢がひ どいと言う状態はありますか?

答  え

瘀血の圧痛点を取り間 違っているのかもしれません。お腹には縦に陽明胃経と少陰腎経が走っています。少陰腎経は臍から1横 指ちょっと外側を下って行きます。陽明胃経は更に1横指 ちょっと外側を上って行きます。瘀血の圧痛点はそれらより臍に近いのです。大抵左下に多いです。そして腹部の瘀血の圧痛点で確かめます。血海反応は血海を 押さえると非常に痛がりますが、それをしばらく押してその後、瘀血の圧痛点を診ると圧痛は軽減あるいは消失する事を確かめる事です。他に瘀血は少腹急結が あります。それは左上前腸骨棘あたりからお臍に向かってこすりますと、非常に痛がります。患者さんは少腹急結があると思わず顔をすくめるか、あるいは顔を しかめます。腹診だけで瘀血を見る場合はその様にします。やはり全身に他の瘀血の所見が無いかという事も診たら良いと思います。そして一般的に瘀血の時は 便秘のことが多いのです。下痢というのはあまりないので、おそらくそれは胃がおかしいためのものか、あるいは少陰経がおかしいときは小腸経の痛みが起きる ときがありますので、それを瘀血の圧痛点と取っている可能性があります。

 

質  問

中年女性の指の関節痛に ついて
答 え

ここ(近位指節間関節) の痛みはリウマチ系の病気に発展する可能性があります。一番末端の関節の場合は腱鞘炎ですが、これは整形の先生に聞いたのですが、男性はあまりならないの です。女性の農家のお母さんなんかは必ず起きる様です。これは機械的なもので何をやっても治りません。強いて言うならば仕事を止める事ですが、止める事も 出来ないので甚だしい場合は30度ぐらい曲がってしまって いる人がいます。男性はならないのです。だから筋肉の構造などが違うのですね。

それからここ(近位指節 間関節)の痛みは将来12年後に膠原病になる可能性がありますので、そういう症状があり本人が苦痛 を訴えれば膠原病の治療を開始しても良いかも知れません。12年レントゲンをとって経過を見れば必ず骨のエロジオン等の変化が出てきま す。よろしいでしょうか。ではこれで終わらせていただきます。

どうもありがとうござい ました。

 

漢方トップページ