7回 「札幌 下田塾」講義録

 

まず、雑談的な話からし ます。いつも脈診のことを言いますが、殊に傷寒の時期は脈診をマスターしていると非常に楽だと言う事です。ちょうど佐藤先生が来られていたとき、午前中の 終わりで一番忙しい時に、障害者の人達5人が一遍に来まし た。風邪をひいていると言って施設の看護師が連れて来たのです。あまり自分の訴えを充分できない人たちで、看護婦は皆同じ症状で咳をしていると言うので す。西洋医学的見方をしたら、皆同じ風邪だろうということで治療をしてしまうはずなのですが、一応忙しい中でも全員ちやんと脈だけはとっていきました。四 人は風邪なのですが、一人だけは脈が浮いても沈んでもいないのです。これは違うなということなのです。何処に問題があるかというと、肺の脈にです。それは 陰病の脈でした。多分心臓に問題がある(東洋医学では心肺機能は肺の機能とする。冠血管は心とする)のだろうということで、心電図と胸部レントゲン検査を しましたら、うっ血性心不全だったのですね。(明らかな心拡大とlow voltageを 認めた)脈診をきちんとやっていると、陰病と陽病というのを、忙しい中でもほとんど見逃さないで診断できるのです。これは本当に心がけてやるといいと思い ます。

それと更に雑談的なこと になりますが、例ので205点ルールがなくなりますね。漢 方薬も全部レセプトに書きます 漢方薬は柴胡の入っているのと、猪苓の入っているのを除くと、コージンやサフランを使わなければ、ほとんど安い薬です205点以下だったからあまり載らなかったのです。今回以後は全部明らかに なるのです。それで仕方なしに、今月では間に合わないので、先月カルテの病名を一応合わせてみました。そうしたら本当につくづくと思ったのですが、厚労省 は決して東洋医学を認めているのではないと言う事です。保険診療と言うのは東洋医学や漢方医学を認めているのではないのですね。それが非常に良く分かりま す。保険病名というのを見ると、誰がこういう病名をつけたのだろうと疑問に思われるところがあります。全然血の道症と思えない処方に血の道症とついていた り、西洋医学的には肝炎に使われるはずのものに、肝炎の適応がなかったりします。東洋医学をやっていていつも頭の中に置いておかないといけないのは、厚労 省は全く漢方を認めていないという事です。公の機関で認めているのは文科省です。医大で東洋医学講座がだんだん置かれてきています。最初は富山医薬大です ね。その後も文部省管轄の大学にはあちらこちらに東洋医学講座が出来てきています。僕なんかも札医大に招かれて東洋医学の講義に行っていますけれども、国 立病院は東洋医学を標榜しているところは一つも無いのです。厚労省管轄の一番上は国立病院ですね。文部省の一番上は医大です。国立病院に全然一つもありま せん。全く認めていないのですね。じやなんなのかと言うと、あくまで診療の補助として漢方薬を使うことを認めている、それだけなのです。それは保険診療の 約束で保険病名が当てはまった形で使用を許可されているのです。出来ることなら、漢方薬を使うことで西洋薬を減らすことが出来て、そして出来ることなら一 つの医療機関等の総投薬量が減ってくれればいい、ただそれだけなのです。そうすると僕のところでは厳しい面もあるのですね。よそのところから来ている患者 さんで他院で投与されている薬をとにかく医療機関を一ケ所にしたいということで、それも投与せざるを得ないことになりますが、それをどれだけ包括的に漢方 中心でカバーして行けるかというのを考えてはいるのですが・・。全体としては僕のとこ ろは一件あたりの投薬量はむしろ多いかもしれません。要するに自分のところだけ総合診療的にやってしまうことになります。東洋医学会で発表したのですが地 域医療全体からみると、僕の地域の総医療費は半分ぐらいに減ってしまったのです。だからそういう意味では間違いなく東洋医学をやっていることで、診療報酬 全体を下げるのに役立っているという自負はあるのですが、レセプトー件あたりだけで点検されるとちょっと厳しいかなとも言えるように思います。皆さんもど んどん東洋医学的なものをやっていけば間違いなく総合診療的になっていきます。そうすると、今言ったようなことを意識しておかないと、あるときからどんど ん減点されたりいろいろなことが起こってきます。あくまで保険診療として使うことを認めているのであって、漢方医学や東洋医学を理解して認めているのでは ないのです。どうしても対立したとき、どういわれるかと言うと、「いや東洋医学は立派ですよ。東洋医学も素晴らしい医学です。でも保険診療では認められて いませんので、どうしても正しい医学をおやりになりたいのであれば、どうぞ自由診療でおやりになって下さい。」と。それが厚労省の論法なのです。だから一 応その附近は頭に置いておいてください。

417日から土用に入っています。土用の意味はご存知ですか。土用は年に4回あります。土が用いられるときが土用なのです。土は脾です。脾が用いら れるときが土用です。例えば春は肝の支配です。これが夏は心の支配になります。肝が働いている時から心が動く時に変りますが、これがいきなりは変らないの です。肝が支配しているときは一応心はおとなしくしているのです。野球の救援投手が、そろそろ出番が近づいたなという時にあらかじめウォーミングアップを します。このウォーミングアップをするときが、土用の時なのです。今の時期だったら次の心に対して一生懸命栄養を送って、(脾というのはいろいろな臓器に 栄養を送る根源です。)そうして心をウォーミングアップしてくれているのです。では今の時期食べるものをどういうものを摂れば良いでしょうか。脾は甘いも のを必要とします。心は苦いものを必要とします。だからほろ苦く甘いものが良いのです。季節でちやんと与えられているのです。今時の山菜等を甘い酢味噌で でも食べれば丁度合いますね。夏の土用は次が秋で肺なのです 肺は辛いものです。だから滋養があって辛いものになります。だから蜀山人はそれが解っていた のかもしれません。うなぎに山椒の粉を振り掛けて食べるのは実に理にかなうことですね。これが土用の一つの特徴です。普通の場合はこれで済むのですが、も う一つ土用の特徴があります。春は健康なときは、肝が伸びやかに働いています。例えば、非常にストレスを受けて肝が損なわれている人は、この時期は一番弱 いのです。夏の時期は心ですが、若者は元気なのです。夏にお年寄りが意外とコロコロといってしまうのは心が弱いのです。心が活きがいいときは、この時期は 元気でいられるし、逆に心に弱いところがある時は、この時期は一番弱くなります。そうすると土用も同じことが起こるのです。

脾の働きが非常に良い人 は土用の時期は結構元気なのですが、脾の働きが満度でない人の場合は、土用の時期は非常に不安定な状態になります。四季の土用というのは非常に問題なので す。土用の時期に不安定になるとどうなるかということを説明します。脾は心下で、大抵は気が上衝するのをガードしているのです。人間の体というのは気の上 衝や重力の法則だけで下半身が冷えているのではないのです。冷たい気が下半身にあるのです。暖かい気(陽気)というのは上半身にあるのです。経脈では陽の 経脈は上から下に流れます。陰の経脈は下から上にあがります。陽の気を下に下げ、陰の気を上に上げてバランスをとっているのです これを一番調節している ところが脾なのです。脾はとにかく中心なのです。黄帝内経というのは何でわざわざ黄の字を使っているかと言うと、黄色は土(脾)の色で、中心を表します。 神農の後に諸国が乱れて、自分がこの国の中心であるぞということで、公孫が即位した時に、黄色い雲がたなびいたというので黄の字の黄帝という名がついたと 言うのです。要するに中心と言うことです。ここ(脾)が不安定になるからいろいろな事が起こります。上半身がのぼせて足が冷える等の症状が起こります。心 下で一番ガードされているのが脈で言ったら衝脈です。衝脈というのは上に衝き上げる脈ですね。これがガードできなくなるものですから、土用の時期は決まっ て喘息発作を起こす患者さんがよくいます。

それからリウマチの患者 さん等でよくあるのですが、皆さんも経験したことがあるかも知れませんが背中から始まってみぞおちの附近から焼き火箸でも刺される様に痛んで、それが上に 衝き上げられる様になり、よくある狭心痛と間違えられて心カテまでされて、結果は異常なかった等ということです。これも土用の時期に起きます 時期と症状 を聞くとそれだけで衝脈の発作だということが分かるめです。それから衝脈というのは上にあがりますが、帯脈というのは一般的には下に下がります これも脾 が調節しています それがうまくいかなくなると先程言った陰陽の別れとなり、上半身がのぼせながら、力が抜けるという様な状態になります。こういうのが結 構この時期に出てきます。もちろん胃が悪くなる人もいます。そこを養うものはそこを損なうものでもありますので、甘く苦いものがよいのですが、摂りすぎる と逆に胃を損ないます。これが土用ですね。注意していれば非常によく分かります。各季節の変わり目の前17日 間が土用にあたります。

この前、苓桂朮甘湯の時 に話し忘れたことがあります。白朮の話ばかりしていましたね。実は朮には白朮と蒼朮があるのですが、白朮はほとんど補う作用です。蒼朮は少し瀉す作用も 持っているのです。これは全くキチンと説明してくれないのですが、実はツムラさんの薬は白朮を使うところをほとんど蒼朮を使っているのです。ニ朮湯とか、 半夏白朮天麻湯とか、はじめから完全に白朮と決めてあるのを除けば、ほとんど蒼朮を使っているのです。だからツムラさんのエキス剤が出たときに随分疑問に 思ったのですが、実にエキス剤で使うと白朮と蒼朮はそんなに差は出ないのですね。何故かそんなに強い作用も出ないのです。

だから、まあいいかとい うことで、僕のテキストでは朮としか書いていません。キザミで使うときは白朮と蒼朮は絶対的に違います。これは覚えていて間違いないようにしてください。 白朮も蒼朮も気を補い水を動かすのですが、どちらかと言えば白朮の場合は本当に気を補い水を動かすのに対し、蒼朮の場合は気を動かして水も動かすのです。 ちょっとニュアンスが違います。

蒼朮は脾胃がある程度の 強さがあって、刺激されたとき反応するだけの力がないと使えません。白朮は気を補って水を動かすのです。蒼朮は気も動かして水も動かすのです。蒼朮の場合 は刺激されるのに見合うだけの脾胃の強さが受ける側にもないと使えないのです。四君子湯はほとんど補だけの薬だといつも言っていますけれど、四君子湯は白 朮ですね。ところがツムラさんの四君子湯は蒼術を使っているはずなのです。実際使ってみるとあまり変わりないのでエキスにされる過程で何か飛ぶのかもしれ ません。飛ぶとすれば、やはり揮発成分です。何かが飛ぶことでほとんど同じ薬効になるような感じがします。とにかく、脾胃を助けて水を動かすのが白朮で、 ちょっと疲れている脾胃を刺激して水を動かすのが蒼朮です。

水の代謝系についてお話 します。水を動かすとき考えるのは、肺と脾と腎です。腎が水を主るということに一応なっています。最終的に全ての水は腎に集まるから、だから主ると言えば そうなのですが、では他の肺や脾は従的なものかというと、そうではないのです。水に関しては気や血と違って、水そのものが他の物に動かされるのですから、 どの臓器も関係ないということはないのです。結構、脾というのは大きい役割を果たしているのです。脾は、腎が水を充分利用できないで溢れていたらその水を 摂り、溢れていなければ摂らないという働きもありますが、脾は主に水をどこから摂るかと言うと、それは水殻の気として口から摂るのです。そしてそれを主に 何処に送るかといったら、肺に送ります 肺はもちろん呼吸という格好で外に出す場合もありますが、主に血液の中の成分と一緒に体内に宣散します。またある 程度のものを下げて粛降します。脾に主に働いているのが朮です。脾から肺にかけて働くのが茯苓です。茯苓は肺にも脾にも働き、どちらも補います。それから 肺から腎に働くのが桂枝です。腎に働くのが沢瀉や猪苓です。あくまで、朮、茯苓、桂枝というのは前から言っている様に利尿剤ではないのだということはこう いうことなのですね。脾や肺の働きを正しながら腎をカバーしているのです。それに腎に働く利尿剤である沢瀉や猪苓が加わっているのが五苓散です。

今日は大建中湯からにな ります。人参、乾姜、山椒、粉飴ですね。粉飴が膠飴の代わりになるのかという文句も結構あったのですが、あまり変わりないですね。煎じ薬の場合、膠飴も包 み紙の飴で一個7gから10gぐらいのものを使います。例えば大建中湯などは初めから入っています けれど、小建中湯を粉飴でなくてやってみたいなら、桂枝加芍薬湯等に膠飴を買わせて溶かして飲ませるといいのです。これもやってみるとあまり変りはない様 です。きっちり比較したことはあまりないのですが、大建中湯や小建中湯をいろいろやってはみたのです。するとエキス剤のほうが良いのです。建中湯類を飲む 人は、嘔気とか消化器系の反応が強い人が多いのです。例えば大建中湯を煎じ薬で一回に何百ccも 飲めるのかといったらちょっと大変ですね。それよりもエキス剤をせいぜい何十ccか のお湯で溶いて飲ませたほうが良いのです。人参と乾姜はすでに出てきました。山椒が入っている様に、これも全て補す薬ではないのです。山椒というのは消化 管をあたためていながら、少し刺激するのです。山椒が刺激するのに応えられるだけの消化管の力というのを持っていないと、大建中湯もダメです。

癌の末期の患者に例えば そういう力が残っているのかというと、実は残っているのです。大建中湯適応の人は消化管のそういう力が残っているのです。だから結構飲めるようです。先程 から言っている様に、建中湯とつく薬は必ずお湯で溶いて飲ませます。建中湯とついていながら実は飴の入っていない薬があります。当帰建中湯などはそうだっ たと思うのですが、あれは多分間違いなのだと思います。要するに今に至るまでで、いっの間にか飴が処方から漏れてしまっただと思います。目的からして建中 湯として飲ませたほうが良いので、僕の場合、当帰建中湯を出す時は、粉飴を買わせるか、あるいは自分の家で、 きれいな透き通ったものでなくて、昔のあまり出来の良くない茶色の水飴を好きな甘さに溶いて加えなさいと言います。建中湯類は必ずそうして下さい。まあ、 人参湯などに似ているのですが、大建中湯証には人参湯証にはない急迫症状があるのです。昔も、記載を見るとやはり癌性腹膜炎と思われる病証に大建中湯を 使っていたようです。今も使うのはほとんど、癌性腹膜炎か術後の癒着性の腸炎です。癒着性腸炎の場合は小建中湯と合わせて、中建中湯として飲ませるほうが 良く効く場合もあります。大建中湯を飲ませるぐらいの癌性腹膜炎の人は45ケ月で亡くなります。長く飲んでいる人は癒着性腸炎の方だけですね。うま く合うと結構これだけで良い状態が保たれる様です。

次は五苓散です。五苓散 の薬味は先程全部話してしまったので、薬味に関してはもう話すことはないのですが、ただとにかく、この五苓散は非常に大事な薬です。水の病証だと判断した ら、目をつぶってこれを出せばどんな病気にも一定の効き目は必ずあるはずなのです。要するに先程言った、水のトライアングル全てに効く薬で構成されてい て、それ以外の余計な薬は入っていないのです。だから細かな調節は出来なくても、これは水の病証だと判断してしまったら、黙って五苓散を投与してみて下さ い。それだけで効きます。水だけの病証というのは無いのですが、水が非常に大きな役割を果たしているという病証というのが多いのです。そういう病証だと判 断するための所見にいくつかのポイントがあります。一番はっきりするのは舌です。本当に舌が白くてポッテリと膨らんでいて、水々しいならば間違いなく水の 病証であると考えて差し支えないのです。他に意外とあるのは心下の水気です。これは脾がちゃんと水を処理できていない徴候です。これらの徴候があれば異常 なのです。体の浮腫は必ずしもそれだけで水の病証とは言えません。例えば下半身の浮腫はそれだけで水の病証と言って良いかというと、それは非常に難しいの です。稀に張れてテカテカになっていて、針を刺したら血が出ないで水が出てくるというそれぐらいになれば、間違いなく水の病証があると言えます。気や血の 滞りで水が滞ります。水を意識しないでも、気に働くだけの薬でも、又血に働くだけの薬でも引いてくる水の病証というのがあります。最初の時にスライドで見 せた、全身浮腫の女の方の水が引いたのは、桃紅四物湯によってですね。全く水の薬を使わないで血の薬だけで軽快しているのです。

あとこういうところ(右 図)に振水音というのがあるのも、水と考えて良いのでしょうか。逆に非常に口が渇くのが水の病証のこともあります。でもやはり一番分かりやすいのは舌と心 下の水気です。他に局所の水で、変な所にポコツと水腫をつくるのがあります。下半身は重力の法則で溜まってしまうので、下半身の水は必ずしも水の病証とは 言えないのです。局所に明らかに水があるなと言われるものでは、代表的なものは膝関節だけか単独で腫れて、しかも熱を持たない病証です。これは局所の水な のです。これは間違いなく水の病証です。意外と気が付かれていないけれども四十肩、五十肩もこれは局所の水なのです。最近分かってきて西洋医学でもメニ エールは内耳の水腫であると言っています。まさに局所の水です 二日酔いがそうです。乗り物酔いも、あれは振動で内耳に水腫をおこした状態です。まあ二日 酔いと乗り物酔いは似たようなものです。それから苓桂朮甘湯の時に話しましたが本態性高血圧もそうです。水が溢れてきてしまうのです。それからご婦人に多 い全身の浮腫です。下半身は重力の法則で来ます。全身に来るというのは変なのですね 要するに特発性浮腫の事です。それからまぶただけポッコリ腫れる、こ れも水の病証です。黙って五苓散を出せば効かないということは無いのです。あとは一つ一つの病証に応じて微調節すれば良いのです。もちろん水だけで異常を 来たしているとは限りません。本来は気か血の方に異常があるはずなのです。ところが臨床的に現実に水の病証に出会うと分かるのですが、血の病証はあまり水 の強い病証を出さないのです。血の病証の時は意外と血を中心に病態を作り、水も少し調節するぐらいの時が多いです。気がやられていて、あまり血が表に出な い時のほうが水の病証と言うのが強く現れることが多いのです。そうすると血があまり絡まないとなると水のトライアングル(右図参照)でこれのどこに問題が あるか考えて弱いところを補ってあげれば良いのです。脾に問題があれば朮を加えて、脾一肺に問題があれば茯苓を加えるのです。肺一腎に問題があれば桂枝と いうことになるのですが、桂枝を増やしてもあまり変化はおきないようです。

桂枝は気の上衝には効果 がありますが、水の病証の場合、あまり変わりないのです。ここ(肺一腎)に作用するのが、一番は麻黄です。肺から腎に最も粛降を促すのは麻黄です。西洋医 学で一番有名なのはテオフイリンです。カフェインですね。元々生薬です。カフェインを飲むと尿が沢山出て呼吸も楽になります。 テオフイリンはまさにここ(肺の粛降)に作用します。それと、後で又お話しますけれども、脾と肺は太陰ですが、腑で言えば陽明です。陽明の主薬をここに足 してあげると非常に良いのです 陽明病の主薬は葛根です。これは覚えておいてください。陽明で使う薬はいっぱいあります。今までで石膏がありますし、 大黄も出てきました。ここ(下図)を賦活する一番の中心の薬は、要するに大腸や胃を賦活して肺や脾の動きを活発にする主薬は葛根です。だから五苓散に葛根 湯(麻黄も葛根も入っている)を加えると、非常に強い利尿剤になります。本来は利尿剤だったらここ(腎)だけの問題に思えるのですが、代表的利尿剤である 五苓散は、朮も茯苓も桂枝も沢瀉も猪苓も入っており、麻黄は肺一腎を、葛根は脾一肺を賦活して利尿するのです。しかし、あくまでも水は腎から排泄するので すから、五苓散と葛根湯はあまり多くはいりません。五苓散30、葛根湯20 ぐらいで充分です。脾一肺、肺一腎が主ではないのです。最終的に重要な のは腎からの排泄です。ほとんどの水の病証は、五苓散と葛根湯の組合せを使うと何もいらない場合もあるぐらい良く効きます。現実にはいろいろなことをやり ます。例えばメニエール病の時など、半夏白朮天麻湯を主処方にして、頓服で五苓散と葛根湯の組合せを出しておいて、ひどい発作の時にはこれを飲みなさいと 言っておきます。二日酔いのときもこの組合せが一番です。五苓散、黄連解毒湯というのはあまり良い飲み方とは思いません。二日酔いというのはそういう事で すからね。要するに普通の時は人間と言うのはそんなに水分を取れないのです。お酒の肴というのは随分塩分が多いのです。塩分と一緒に水とアルコールを飲ん だら、ものすごい量の、人間が処理できないほどの水分が入ってしまいます。それはどこかに一時ストックしておくのですが、それが後から痰になってくるので す。だから五苓散と葛根湯の組合せを出すと、そこを処理します。本態性高血圧なら、五苓散でなくても苓桂朮甘湯でだいたい良いですね。婦人の特発性浮腫と いうのも大抵この五苓散と葛根湯でおさまります。それから膝関節症は本来は防已黄耆湯が主役ですが、分からなかったら、とにかく五苓散をやってみて下さ い。水の病証であればそれで全然効かないということはないはずです。五苓散は水を動かす一番基本の処方ですから。薬で治すのではないのです。薬がさっき 言った水のトライアングルに働きかければ、後は体が勝手に治って行ってくれるはずなのです。より親切な治療をするにはそこにターゲットを絞ったほうが良い のです。

肩関節周囲炎なら、水を 動かす薬に鎮痛剤が入っているニ朮湯の方が良いです。ニ朮湯は消炎剤は入っておらず、鎮痛剤だけが入っています。肩関節周囲炎は炎症ではないのですね。ニ 朮湯は特効薬なのですが。でも水の病証を理解するためには、これはニ朮湯だなと思ったらまず五苓散でやってみる事です。そうしたら分かります。あと五苓散 で問題になるのは小児の自家中毒に使うときです。実は小児の自家中毒にもこの五苓散というのは特効薬なのです。でも使い方を間違って、うまく使えない場合 が非常に多いのです。小児の場合、飲めないこともあるので、坐薬として使っても効くという報告もあります。でも僕は経験的にやってみて分かったのですが、 ゲーゲー吐いてきても五苓散なら飲める正しい方法があるのです。要するに自家中毒になりかかっているときの嘔吐と言うのは、水逆の嘔吐といって、心下に水 が溢れていてもう処理できなくなつています。これはもちろん陽明に傷寒が入って、心下が焼かれてしまって働かなくなって、心下に水が溢れてしまった状態で す。陽明だけが焼かれているのか、太陽の影響で心から焼かれているのかも分からないのですが、要するに心下に水が溢れているのです。胃の中に水がいっぱい ある状態なのに、お母さんも、中途半端に理解した小児科のお医者さんなどもよくやる間違いは、風邪薬と五苓散を大量の水などで一緒に飲ませてしまうことな のです。水分が不足しているから何とか飲ませようとするのです。心下に水が溢れているのですが、体全体が脱水状態になっていて何も食べていないから食べさ せようとするのです。そんなことをしたらいくら飲ませたって吐くに決まっていますね。

五苓散を飲ませる時はま ず絶食にして、そして粉のまま舌に乗せてあげるのです。脱水状態になっていて心下に水が溢れている時は、ほとんどの子供は五苓散を飲めます。私は今まで飲 ませられなかったというのはほとんど経験ないのです。飲ませられなかったのは、ほとんどの場合、お母さんが良く理解できなくて、ちょっとでも嫌がったら怖 がって飲ませられないという様に、親のほうに問題があった様な気がします。皆さん二日酔いの時にお飲みになったら分かります。水と一緒に飲もうとしたら飲 めません。粉のままか、最小限の水、それも氷水ぐらいで飲みます。あるいは子供の場合だったら氷のかけらでも良いですね。そうすると、ロの中で溶けてだん だん飲み込んでいってしまうのです。まず吐かないですね。そういう心下に水が溢れている人には、五苓散はおいしいのです。非常にさわやかでおいしい味がし ます。しばらくすると何が起こるかというと、心下の水がなくなってきますと同時にそれまで脱水だったのに尿が出たりします。尿が出たら心下の水はなくなっ ています。尿が出たら薬を飲ませないで水分を補給します。この場合はポカリスエツトなど冷たくてよいですね。

これで大丈夫だったらご はんを食べさせるのです。物を食べて吐かなかったら、初めてその時の薬を飲ませれば良いのです。やたらと吐いている状態に、風邪薬から、食べ物から、水か ら、五苓散から一緒に飲ませようとしても飲める訳がないのです。ゆっくり順番に飲ませるようにすると、後で聞いてみると「一日でほとんど治りました。」と 言います。一日目は五苓散を飲ませて、二日目から風邪薬を飲ませるようにしたら、ほとんど治まります。これだけを間違えないで下さい。あと五苓散はいろい ろなものと合方されています 小柴胡湯と合わせると柴苓湯です。二陳湯と合わせても使います。あとは五苓散に人参だけを加えて、肝硬変の末期に使ったりし ます。これはいろいろな使い方が出来るのですが、最初に言ったように、水の病証かなと思ったら黙ってこれを使うようにしてトレーニングしたら、水の病証と いうのが感覚的に捉えられるようになります。多少不備があっても、まず使ってみて下さい。全く何の反応もなかったら、「診断が間違っていました。ごめんな さい。」と言って別の処方に変えてください。水の病証であってこれが全く無効ということは決してないのです。

次は猪苓湯ですね。これ は五苓散から桂枝と朮がなくなって、滑石と阿膠が加わっています。どちらかと言ったら尿路の消炎剤と止血剤です。僕もびっくりしたのですが、狂牛病騒ぎで 阿膠が問題になったのです。僕はロバか馬かと思っていたら、牛も使っているのはゼロではないと言って一時問題になっていました。阿膠はもともとはロバだっ たのです。中国では馬よりもロバの方が多いですね。中国では肉と言ったら豚です。更に一番良い肉は羊です。羊頭狗肉と言って、シルクロードなんかに行って みると面白いのです。冷蔵庫がないですから、肉屋さんは店の前に羊をつないでいて、一頭つぶすとそれをそのまま解体して並べておいて、今売っているのはこ れだぞと言って頭だけをその上にかけておくのです。それが全部売れたらもう一頭つぶすのですが、お客さんが途切れたら「今日は助かったな。」なんて本に書 かれたりしているのです。今売っているのは羊の肉だぞと言って羊の頭をかけておいて、実際売っているのは犬の肉であるというのが羊頭狗肉というのですね。 一番良いのが羊の肉で一番下等な肉とされたのが犬の肉だから、一番良いものを看板にして、一番悪いものを売っているというのが羊頭狗肉という意味ですね。 羊の肉も犬の肉もどちらも薬効はあるのですね。中国は豚も食肉として食べるし、羊の肉も食べます。牛はあまり食べないのです。結構日常の交通手段としてガ ソリンなんか手に入らない地域では、ロバが使われています。シルクロードのラクダ等は全然嘘で、あれは観光の目的で万里の長城とか敦煌のあたりでほそぼそ とやっているだけです。今は砂漠といっても全部舗装道路が走っています。長距離移動は列車か車でやります。

日本で言えば軽四輪で 行ったりする様な交通は、ロバに車を引かせたりしています。ロバはいっぱいいます。僕は阿膠を信じてはいるのですがね。中国から入ってくる阿膠は、わざわ ざ高い馬を使うより、ロバを使っているのだろうと思います。いずれにしろ猪苓湯は五苓散の全体的な水を動かす作用がかなり少なくなって、ほとんど腎、尿路 系に作用します。トライアングルに作用するのは猪苓だけです。結構悪い薬ではないのですが、現実に使ってみて、中途半端といったら中途半端ですね。やはり 普通の尿感染症であるならば、残念ながら、抗生剤のほうがずっと効きます。一応、猪苓湯に含まれている薬味は、抗菌作用を持ってはいるのですが、抗生物質 に較べれば非常に弱い抗菌作用です。だから抗生物質を使った方が早いのです。どちらかといったら気休めに、尿路感染症の時に抗菌剤と一緒に出した方が良い のかなという感じで使うことが多いのですね。慢性で培養しても菌が出ないのに尿路感染症の症状を出すという人に関しては漢方も有効なのですが、それにはこ の猪苓湯は又中途半端なのですね。同じ猪苓湯だったら猪苓湯合四物湯です。あとから出てくる五淋散とか清心連子飲のほうが効くものですから、結果として猪 苓湯はほとんど西洋薬の補助としてしか使っていないのが現状です。又猪苓湯合四物湯の時にお話します。五苓散が分かっていれば猪苓湯はそう難しくはないで す。

次が真武湯です。

これは本来は玄武湯だっ たのであろうと言われています。真を草書体にしたのと玄を草書体にしたのとがほとんど同じになるのです。それで玄武湯が真武湯に間違えられたのです。回逆 湯が四逆湯になったのと同じですね。回は口とも書かれ、これが四と間違えられることは考えられるのです。玄武というのは四方神の玄武です。尻尾が蛇になっ ている亀です。北の守り神です。色は黒で、玄と言うのは黒の事です。陰中の陰です。陰中の陰だから根源なるものにつながるのです。だから玄関なのです。玄 関というのは家の中で一番大切なところです。だから玄関を綺麗にしろと言います。玄武湯の意味はわかりやすく言えば暖かいところに居ても、寒いところに居 るように、夏であっても冬である様に体が冷えて機能が衰える状態ということです。人生で言ったら老で、夜で、支配は腎です。

青竜は青春で、春で、朝 で、支配は肝です。青竜湯は肝が肺を損なうために、朝方に若い人が喘々いうときに使われます。色の事を言っているものもありますが合わないのです。青竜湯 は麻黄の青を言うと言ったりしますが、麻黄が入っている薬全部が青ではないのです。

真武湯の色は真っ黒では ないのです。むしろこの四方神の考え方なのです。白虎湯は石膏が白いからと言いますが、石膏が入っている薬はいっぱいあります。木防已湯だって入っていま すが、白虎湯とは言わないのです。白虎湯というのはどちらかというと、夕方に本来夕日が沈んでいかないといけない時に、熱が上がってくるものに使います。 朱雀湯だけはないのです。どうしてでしょうか、よく分からないのです。いろんな古文書が見つかっているのですが、朱雀湯の部分が一番見つからないのです。 四方神のうち、他の三つはどの古文書でも見つかるのです。朱雀は一番かかれていないのです。何か関係あるのかもしれないです。本来こういう昔からある名前 というのは太古の昔から人間がもってきた記憶で書かれているのであって、決してあとから人間が生み出したものではないのです。でも現代中医学というのは、 基本はマルクス、レーニン、毛沢東主義で無神論ですから、この手の名前は全部否定して全然つまらない名前がついていますね。石膏知母加人参湯とかね。四君 子湯は四味湯などと言い、ひどいです。六君子湯は六味湯と言い、みもふたもない名前がついています。封建制用語とか宗教観というか、要するに唯物論ではな い世界が全部否定されているのですね。玄武湯というのはこういう立派な意味のある薬なのです。真武湯の一番の主薬である附子についてですが、実はエキス剤 と生(なま)の附子とでは非常に違います。附子も三種類あります。大部分は加工附子で一番先頭を切っていたのがサンワさんです。ツムラさんは最初は真武湯 も桂枝加朮附湯もサンワさんの加工附子を加えていたのです。今はツムラさんは自力で作っており、修治附子がそれです。もう一つ違う系統で炮附子というコタ ローさんのがあります。これはちょっと違います。それと生(なま)附子があります。全部違いますが、共通しているのは気を持ち上げるということです。気の 中心は肺や脾で、肺が一番中心ということになっているのですが、もちろん、肺も高めます。でも心も高めます。とにかくあらゆる臓器を高めます。肝気も高め ます。附子は衰えている気を全部高めます。気を高めるから元気を出させる働きがありますし、要するにActivityを 上げます。それと同時に附子というものを考えるときに一番意識するのは痛みです。でも本当は附子は痛み止めではないのです。それだけは良く理解してくださ い。痛み止めというのはいくらでもあります。例えば威霊仙とかがあります。又、芍薬だって痛み止めの作用があります。附子は、本来は痛みを直接取っている 訳ではないのです。痛みというのはどうしておきるかというと、何かが滞っているからです 気や血や水が滞ったり、食物が滞ったりすると痛みが来るのです。 一番の基本は気がうまく廻っていないから結果として何かが廻らなくなって、それで来るのが痛みです。だから気を廻らすことによって何かが滞っているものを 動かして、結果として痛みを取っているのが附子の作用です。気が滞って血も滞ると一般的に冷えが来るのです。温める作用と痛みを取る作用が強いのが加工附 子や修治附子の特徴です。小太郎さんの炮附子は温める作用は強くないのです。その代わり何があるかというと痛みを取ります。

そしてむしろ元気をつけ るActivityを上げる作用が加工附子や修治附子より も強いのです。そして特徴的なことはどちらも毒性はほとんどありません。これだけは良く覚えておいて、安心して使ってください。附子は漢方で唯一劇薬に近 いものですが、普通の西洋医学の劇薬を使うときの用心で使えば充分です。心配であれば少しずつ増やしてください。3g使いたい人でも大体05g1gか ら使ってみるのです。量を少なくして全く効かないのであれば、量を増やしても全く効きません。効くものだったら05gで も一定の効果は出ます。逆に言えば倍出したら倍効くものでもないのです。05gの倍の効果を出そうとしたら3倍ぐらい出さないとダメです。西洋薬とちょっと違って生薬というのはそう いう面があります。痛みを取ることや温めることよりももっと元気な状態にしたいというときは、小太郎さんの炮附子のほうが良いのです。意外に、痛みがあっ て何か元気がないのに、あまり冷えていないという人が居るのですね。そういうときはよく炮附子を使います。圧倒的多数は痛みが合って冷えている人です ま あちょっと元気がないという場合、元気の方は炮附子じやなくて人参ぐらいで補ってやって、加工附子や修治附子を使います 生の附子はこの全ての作用(痛み を取り、冷えを取り、元気を出させる)をもっているのですが、そううまくはいかないのです。毒性も強く持っています。

これは煎じ薬でしか使え ませんけれど、1g出すとすればこちらはかなりビクビクし ますね。2g3gと書いてありますが、05gぐらいから試してみます。ちょっと警戒する必要があります。特に大量に なると本来附子は下薬になるのです。下薬というのは本来長く使ってはいけないという薬です。少量だったら長く使うことがありますが。大量に長く使うのは ちょっとおっかないのです。でもそれだけ効く薬ではあるのです。附子に関してはエキス剤と生の附子とではかなり極端に違うということだけは覚えておいてく ださい。いずれにしろ、附子の入っている製剤というのはテキストにも書いてある様に、附子の作用が非常に強くて、それが特に表に出てしまうものですから、 まず附子がどう作用するかということが中心になり、他の薬が全部付け足しになってしまうのですね。附子が入っている薬はほとんど附子が主薬になってしまう のです。一番根本になっている気を強力に持ち上げてしまいますからね。上げるというのは下がっているのを持ち上げるのであって、あるのを更に上に上げると いうのでは必ずしもないのです。でも子供の場合は上がってしまいますね。大体、第二次性徴が出始めるところで分かれます。第二次性徴があらわれる前の子供 に附子を使うと大変なことになることがあります。もう顔などは真っ赤になってのぼせて、鼻血まで出してしまうことがあります。実はかなり弱っている子供に 使ってみたことがあるのです。未熟児には使うのですが、SSPEで 非常に弱っている子供に試しに使ってみたらどうなるのだろうと思って、加工附子でそれもわずか01g使ったのですが、それでも顔が真っ赤になってしまつたのです。もともと 下っていない人に出してしまうとそうなるのですが、普通は下がっている人に使うので正常なところまで持ち上げるだけで、上げ過ぎというのはあまりないので す。

真武湯は附子を中心とし て、今まで出てきた芍薬で肝を正常にし、それから朮、茯苓で気を整え、胃腸を整えます。それだけですね。生姜はちょっと消化管を刺激するぐらいの目的で しょうか。ところが、真武湯は現実に一番何に使っているのかというと、お年寄りのお腹の調子の悪いときというのに使っているのですが、どういうふうに調子 が悪いかというと、便秘です。通じ薬は何にも入ってないのですよ。お年寄りの便秘というのは何なのかということは、お腹を触ると分かるのです。大建中湯の お腹は腸がグニヤグニヤ動いているのが、触らなくても分かるのです。触るとガスや便塊がいつぱいあるのが分かります。真武湯は触ると腸管があるのですが、 腸管の中に何かワセリンがつまっている様なお腹です。腹壁の中に腸管があって、腸管の中に水やガスでなく、ワセリンかグリースがつまっていて、それをつか む様な想像をしてみると分かるでしょう。そういう感じでしかも冷たいのです。こう言う状態でお腹が熱くてバンバンに張っていたら防風通聖散です。冷たくて 腹にもっと力があれば防已黄耆湯です。真武湯の腹は1回こ れが真武湯だよといって一緒に触れば忘れない感触です。これは何なのかと言えば、心不全なのです。心不全というのは本来肺ですね。西洋医学でいう心肺機能 を支配しているのは、東洋医学では肺です。肺の動きがおかされると、もちろん東洋医学でも心がやられてきます。心の働きも充分働けなくなるのです。肺の働 きがやられると、肺の粛降、宣散がやられて来ます。その水がどこに行くかと言うと、肺の子分である大腸と心の子分である小腸に行きます。1回たまたまお腹のCTを とったことがあるのです。そうしたら確かにそうでした。あっそうだなと思って見ました。本当に消化管が全部浮腫状になっていましたね。腸の感じは中にびっ しりつまっているのでなくて、消化管が浮腫状になっているのです。だから便秘になるのです。だから真武湯の便秘というのは、便が硬いのではないのです。便 は出るとしたら軟らかいのですが、真武湯の便秘は浣腸をしても出ないのです浣腸して出る様なお年寄りの便秘の場合だったら、 潤腸湯とか麻子仁丸の便秘です。これは西洋医学的にもかなり分かってきていて、お年寄りが便秘をすると心臓が悪いのだと言います。心臓が悪いときに、心臓 の症状を出さないで消化管の症状を出すことが多いということは、西洋医学的にもだいぶ分かってきているのです。だから真武湯を出すと肺、心の働きがよくな り、水の代謝が良くなっていって、全体の機能が上がっていき、腸管の浮腫が引いて、腸管の働きがよくなり、通じがよくなるのです。お年寄りが便秘してき て、問診で「出るときは兎の糞みたいでコロコロですか? と聞くと、「いや出るときは軟らかいのですよ。下剤をかけたら本当に軟らかい便しか出ないので す。それでもすっきり出ないのです」と言う場合はほとんど真武湯です。これは又、常用量の半分で効く人もいますが、2倍量出さないと効かない人もいます。問診だけで投与してもそんなに間違わ ないかもしれません。出来れば問診をしてお腹を触ってみるのです。お腹は先程言った様に非常に軟らかく、そして冷たいのです。

そういうところまで確認 して下さい。お腹が冷たいと言うのは絶対的特徴です。本人の訴えでも寒いと言います。体はいつも冷えています。そういうところを確認して投与すれば、診断 的治療が出来ます。なおかつ確診したいならば胸の写真をとります 大抵の場合心が拡大しています。心電図をとれば全ての誘導でLow Voltageだったりします。ほとんどの心不全の症状は証明でき ます。あと、お年寄りの場合にごく希に年に一人か二人インフルエンザの時に、いきなり真武湯証になることがあります。太陽と陽明の合病が最初に最に入った ら少陰と太陰になる訳ですね 焼かれている場所は全く同じです。肺から心にかけてやられているのです。非常に強い人だったら腑で受けるから、太陽と陽明の 合病の葛根湯の証になりますが、お年寄りの場合はかなり弱っている人の場合というか、結構無理しているような人の場合が多いのですが、陰がやられてしまい ます。これは直中の太陰とか直中の少陰と言います。真武湯が陰病の葛根湯という別名があるのはそういう理由です。でもこの状態に真武湯を投与するのはかな り熟練してからの方がいいのです。一冬に一人か二人です、こういう薬は大部分陰病で、中から外に出てくる病気に使うのですが、逆に外から中に入るこういう 病気(直中の太陰、直中の少陰)に使う場合もあります。ところで便秘と下痢とどちらにでも有効と言いますが、今言った様に大腸も小腸もやられ、その親分の 肺や心もやられている状態で、下痢をするというのは大抵の場合、下剤を飲んでいるからですね。本来硬い便がある訳ではないのです。浮腫状ですからそこを無 理に動かすと、その刺激で腸管からの水分が出てくるのです、だから本来の急性疾患としての下痢でこれを使うと言うのは私としてはあまり記憶がないのです。 大抵話を聞くと、下剤を飲んでいるのです。便秘しているからと。大抵は便秘をしたり下痢をしたりしているお年寄りは要注意なのです。テキストにお腹の状態 がいろいろ書いてありますけれど、先程言ったのが本当です。いろいろ書いていますけれど、これらはむしろ少数派かもしれないですね。一番分かりやすいのは 先程言ったものです。今日はこれで終わらせていただきます。今日のところ、あるいはそれ以外のことで何か質問がありましたらどうぞ。

 

質  問

衝脈発作について

答  え

皆さんのお手元に衝脈の ことを書いた資料がありますね。ここに書いたのは(背中からみぞおちに向う線)僕が入れた線ですね。衝脈は胞中から始まるのです。普通は背骨に沿って上っ て来て、背骨の途中で止まり、もう一方は前から上って行く様に書かれていたのですが、ずっと臨床的に見ているとどうも違うのですね。ここの経路(臍より下 の部分)を衝脈が通ったという症例に出会ったことはほとんどないのです。皆さん衝脈の発作で訴える症状は前から見ると大抵この附近(みぞおち)から出発し て胸部に放散し、この位置(気舎)でだいたい止まるのです。背中は大体心癒ぐらいで止まっていますね。肺癒までは行かないようです。そうするとね、これ (みぞおちから始まる症状)はいったいどこから来ているのかと言うと小野寺氏点あたりからです。小野寺氏点あたりから丁度みぞおちのところに出てるので す。そうすると注意深く聞いていると、しばしばここ(小野寺氏点からみぞおちにかけて)を突き抜けるという感じがすると言う人がいます。下から出発すると きはそのようになります。常にみぞおちのところで戦っている人は、みぞおちからいきなり上にポンと上ってくるのです。いずれにせよ横から見たら、この附近 (図)前から見たらみぞおちの高さで、本来脾がガードして、この動きを制御しているのです。それが制御できなくなると衝脈発作が起こります。常に衝脈は上 に上ろうとしているのです。衝脈は本来そういう性質です。他の経路は常に流れているのですね。流れているのが正常なのです。奇脈は滞っているのです。滞り を抜けて、何とか動こうとするのが奇脈です。そこを脾が制御しているのです。制御を失ったら暴れ出すのです。

 

質  問

附子製剤の使い方

答  え

本来の熱傷に使うとそう なるのです。ところがどんなに赤味があってもいわゆる陰虚内熱であれば大丈夫なはずです。例えば炎症で張れて痛んでいる時とか、ばい菌が入って痛んでいる 時は、附子を使ったら明らかにまずいのです。でも例えばリウマチの痛みなどそういう内的な炎症で熱を持っている時というのは、熱は持っていても体の他のど こかは冷えていたりするのです。そういうときは使っても大丈夫です。多分それは内熱でなく、本当の熱証だったのではないでしょうか。陰虚内熱の人に、例え ば明らかに赤い六味丸を思わせる人とか、七物降下湯を思わせる様な人に附子を使うときは、僕の場合は炮附子を使うことの方が多い様です。あえて使う.とし たらね。確かに炮附子は本来はあまり温めないと言っても、やはり熱を少し上げますのでね。

 

質  問

乳癌手術後の一側上肢の 腫れに五苓散は?

答  え

あれは違うのですね。あ れは何か物理的なものですね。一応白朮や附子を出してみると少し軽くなります。それでもじゃ、あそこを縛ったり、針をしても良いかと言うとやはり危険な感 じがします。でも薬を出してみると軽くはなります。要するに腫れぼったいのは引くのですが、やはりそういう人は夏場、蚊に刺されたりしたらいつまでも腫れ が引かなかった等という訴えがありますのでね。ある程度は役に立ちますけれど、機械的に変化させられたところというのは薬で簡単にどうこうすることは出来 ないのですね。よろしいですか。今日はこれで終わらせていただきます。御静聴ありがとうございました。

 

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