第4回 「札幌 下田塾」講義録
平
成14年1月25日(金)
まず最初に、又大切なお
話しをします。今日は処方の解説はあまりできないと思うんですが…。
この間は麻黄湯と麻杏甘石湯までお話しして、麻杏薏甘湯まで行かなかったんですね。
今まであまり口に出さな
かったんですが、次のことをよく覚えて理解してください。実は私がお話ししているお話しで、何も言わないでお話ししているときは、原則としてエキス剤を主
体としたお話しだと言う事です。これは、ほとんどの教科書では、このことを書いていないんですね。例えば「エキス剤漢方の使い方」等という本もあります
が、それらの中で、昔からやられている漢方の先生方は、どう言っているかのと言うと、全部湯液の考え方でエキス剤を説明しているんです。実はエキス剤と湯
液は、かなり違います。でも、エキス剤を主体としたお話しと、湯液を主体としたお話しとを、きちんと分けて説明している教科書と言うのは全くないのです。
例えばこの間お話しした
麻黄湯、麻杏甘石湯、麻杏薏甘湯の三つの処方のうち、麻黄湯は急性疾患に使いますが、実はこれはエキス剤と湯液の違いはあんまり問題にならないんです。急
性疾患に使うときは、面白いことにエキス剤と湯液の間には、極端な差はないんです。外から入る病気のときはね。強いて使い方の違いを言うならば、こういう
話し方も特徴ですが、ちょっと生薬を加えるという言い方をします。例えば、急性疾患、特に風邪系統の病気、あるいは傷寒ですね、こういうものに関して、エ
キス剤の効き目が悪い場合があるとしたら、それはどの様な事なのかと言うと、たった一つ薬の違いと言う事なんです。急性疾患の場合は、小さなことに目をつ
ぶってしまえば、エキス剤も煎じ薬もあんまり違わないんです。厳密に言えば、たった一つではないんですが、一応問題になるのは何なのかと言うと、それは桂
皮ですね。あれぐらいですね。あと少し生姜なんかも絡むこともありますけれどもね。どう言う事なのかと言いますと、桂皮や生姜と言う薬が問題なのではなく
て、二つとも一番有効な成分は揮発成分なので、エキス剤になった段階で、それがかなり飛んでしまうんですね。それでも揮発成分が飛んでも、大部分の場合は
そのままエキス剤を使って困ることは、あんまりないですね。桂皮の入っている薬を急性疾患に特に使う場合、どうしても効き目が悪いなと思うときは、桂皮の
末、それがめんどくさければ、シナモンでもちょっと振りかけて飲みなさいと言います。シナモンはどこにでも売っています。それでも十分なんです。ここで誤
解をしないでいただきたいのですが、桂皮やシナモンを加えると厳密な意味での煎じ薬の麻黄湯になるのかと言うと、そうではないのですよ。目的は果たすとい
うことなのです。これからいろいろな生薬を一つを加えるというお話しを、途中ですると思うのですが、一
つ加えると、本当にその煎じ薬と同じ物になるかと言うと、実はならないんです。厳密に言うとね。これはもう覚えておいてほしい
んですが、理屈で考えたら、今のエキス剤と言うのは非常に無駄だと言う事になります。一つ一つ加えていって良いんだったら、全部で200なんぼでしょうか。全部単味のエキスを作れば良いんじやないですか。
それを混ぜ合わせれば何も難しくなくできると言う事になります。現実に東洋薬行さんなんか、単味エキスを全部持っているんですね。それを全部持ってきて、
麻黄、杏仁、甘草、石膏とエキスを全部混ぜ合わせれば全然むずかしくなく、麻杏甘石湯を作れると言うことになりますよね。この実験はどこがやったんでした
か、ちやんと確かめているんです。麻杏甘石湯でね。どう言うことをやったのかと言うと、「麻杏甘石湯」と言う煎じ薬を作ったのですね。麻杏甘湯、麻杏石
湯、麻甘石湯、杏甘石湯というようにね。要するに一味少ないやつをね。そうすると麻杏甘石湯の状態で煎じた時に、出るはずの成分で、一つ足りない組み合わ
せで煎じたら、ガスクロで分析すると充分に出ない成分があるんですね。逆に一部分出すぎたりするんです。だから麻杏甘石湯と言うのは、麻黄、杏仁、甘草、
石膏を合わせて煎じた時に始めて麻杏甘石湯の組成になるんですね。だから、麻杏甘石湯にちょっと甘草を加えてみるかと言っても、理屈から言ったら麻杏甘石
湯の甘草分を増やしたと言うけれども、単純に最初から甘草を増やして煎じた時と同じ成分にはならないという事です。それを覚えておいてほしいんです。でも
あえて加えていくのは、そこを解っていて加えていって、感触を覚えていくしかないんですね。匙加減でね。無限にエキス剤を作る訳にいかないし、単味のエキ
スを混ぜても先ほど言ったようにダメですね。単味エキスを混ぜ合わせるのだったら、ここぞという時にちょっと生薬を混ぜるほうが、全部煎じ薬にするより楽
な訳ですね。特に急性疾患の場合、あんまり大きな差はないんです。例えば非常に上衝感とかが強い時に、桂皮をちょっと加えてあげるだけで、全然違ってきま
す。それから吐気なんかが強い時に生姜を加えます。別におろさなくて良いんですね。市販のおろし生姜を加えるだけで充分効果を出します。エキスを使用する
とき、急性疾患に関してはこの様になります。慢性疾患に関してはエキス剤と煎じ薬ではかなり働き方が違ってくるんです。エキス剤と煎じ薬の違いはインスタ
ントコーヒーとドリップのコーヒーとの差ですね。インスタントコーヒーをどんなに上手に入れてもやっぱり違いますよね。でも、慢性疾患に関して言えば、本
当に煎じ薬が良くて、エキス剤がペケなのかと言うと、一般的に言うとそういう感じがしますが、でもそうではないんです。かなり難しい病気に関しては、どう
しても煎じ薬でないといけない場合があります。まだ話していませんけれど白虎加人参湯の場合、そのになったらお話しをしようと思うんですが、糖尿病の本当
に状態が悪い場合でも、白虎加人参湯を煎じ薬で使うと、非常にコントロールが良くなります。効くのは 型だろうと思っていたら、最近。 型の糖尿病の子も
来ました。間違いなく。型と診断されているんですが、ずっと飲んでいたら、これは治ったとは言えないんですが、データを見ると、少なくとも今はインシュリ
ンが要らなくなりました。緩解に入ったんですね。そういう子が一人います。でも、この糖尿病のコントロールで白虎加人参湯は、ある患者さんが「いやー煎じ
薬は‥・」と言うのでエキス剤
で出した事があるんですが、何にも効かないんです。不思議なくらい効かないんですね。ところが、同じ白虎加人参湯が急性病で、陽病が陰に入って、麻杏甘石
湯の時に話したように、陰が焼かれた様な状態の時に使うときは、むしろエキスのほうが使いやすくて良い様ですね。白虎加人参湯証で実際に陰が焼かれるぐら
いまで陽病が入ってしまった状態と言うのは、吐気等して具合が悪い様ですね。煎じ薬にしても飲めないんですね。特に子供がよくその状態になるんです。とこ
ろがエキス剤だったら、そのまま口に乗せてあげると、結構飲むんですね。それでかなり良く効きます。そういう一つの薬であっても、煎じ薬の時はこういうふ
うに振舞って、エキス剤だったらこういうふうに振舞うと言うのがあるのです。これはその都度お話しします。何も言わないでお話しするときは、あくまでエキ
ス剤の話になります。それともう一つ重要な点があるんですね。煎じ薬は効き目も非常に鋭いんですが、欠点もいっぱいあるんです。重大な問題として効き目も
鋭いんですが、当然のこととして副作用もすごく鋭いのです。それともう一つ、副作用も鋭いんですが、耐性も作りやすいんです。例えば、これの代表的なのが
麻黄なんです。麻黄剤を飲んだ途端に動悸がして虚脱状態になって、全身から汗が止まらなくなるなんて言う人もいます。エキス剤でもたまにいます。でもエキ
ス剤の麻黄剤で、はっきり麻黄の副作用の出るのは何百人に一人ぐらいでしょうか。少なくとも投薬を中止しなければならない程の副作用を出すのは、本当に一
年に一人ぐらいです。そうなった時でも、じやあ、あなたは麻黄の成分の入っているのが合わない人だねと言うことで、
その後は変更すれば大丈夫なんです。ところが煎じ薬の場合は、麻黄と言うのはすごい確率で合わない人が出てきますね。今までの漢方の教科書で、麻黄剤のと
ころでいろいろな注意が書かれていますが、あれはみんな煎じ薬のことなんですね。エキス剤で麻黄の入っているのは数限りなくあるでしょう。
皆さん、麻黄の副作用は
あんまり経験ないでしょう。教科書に書かれているような副作用はね。そんなもんです。それと耐性ですね。麻黄はこれも耐性を非常によく作ります。特に問題
になるのは喘息ですね。煎じ薬で麻黄を使っているとすぐ耐性を出します。いわゆる気管支拡張作用としての麻黄と消炎剤としての麻黄がね。それ以外の作用と
して、麻黄には水の道を動かす作用があるんですが、この作用だけはあまり耐性を作らないんですね。続命湯等に入っている麻黄は、いつまでたっても効き目を
失わないです。でも大部分の煎じ薬に入っている麻黄はすぐ耐性を作ります。だから使っていても意味が無くなってしまうんですが、エキス剤の麻黄は副作用も
出さないだけでなく、耐性も非常に作りにくいのです。何故か解らないんですが。だからずっと使い続けられます。だから、一番典型的なのは麻杏甘石湯です
ね。これをそのまま使うのは少ないんですが、蒼白皮を加えた五虎湯等は慢性気管支炎にずっと長期に使い続けますね。それでもまず耐性を出しません。それか
ら神秘湯とか。越婢加朮湯等、そういうものに入っている麻黄と言うのは、いつまでたっても耐性を作りません。だから非常に使いやすいです。あるいは麻杏薏
甘湯、苡仁湯、越婢加朮湯等に
入っている麻黄は消炎剤としての作用も失わないんですね。だから、リウマチを始めとするそういう疾患に、ずっと使い続けられるんですね。これは非常に大き
いですね。それともう一つ、それは柴胡ですね。柴胡とか黄連解毒湯系のものとか、それから山梔子、ああいうものと言うのはエキスでだったら大したことはな
いんですが、煎じ薬で出したら非常に気を使います。本当に怖いことがありますね。
小柴胡湯なんかに入っている柴胡の分量を、煎じ薬でいきなり出し始めるときは、次に外来に来るまでドキドキしながら待っている様な、ハラハラする様な状態
になります。補中益気湯なんかも、これはそんなに元気な人に出すのではないので2gぐ
らいだったと思いますが、実際に煎じ薬で出す時は、最初は1gぐ
らいで出しますね。だから何て言いますかね。こう言う系統の薬と言うのは、煎じ薬で使うときは副作用があるから、思い切って沢山使えない薬なんですね。こ
れが非常に大きいことなんです。麻黄もそうですね。沢山使えない。だから今まで言われていたほとんどの教科書は、煎じ薬を基本としてエキス剤の話をしてい
るものだから、エキス剤を使った治療とちょっと違うレベルの話しになりますね。じやあエキス剤だったら、煎じ薬より悪い治療しかできないかと言ったら、こ
こ(煎じ薬には副作用と耐性の問題が大きい)に実は秘密があるんです。エキス剤は慢性疾患に使うときに、今言ったように副作用や耐性を作らないものですか
ら、実際、私がやっているときはそれを逆手にとって、じやあ副作用を出すぎりぎりの分量まで増やして使おうかと言うことができるのです。そうすると、煎じ
薬では到底実際使えない分量になります。麻黄剤を多く使う場合は、実際倍量使います。そこまで使って、麻黄剤に強い人でも動悸ぐらいはするだろうというく
らいの分量を使ってやると、煎じ薬では考えられなかった効き方というのが出てくるんですね。僕のこのテキストと言うのは、そういう形で使った分量での考え
が入っているのです。典型的なのは柴胡なんですね。柴胡と言うのは煎じ薬で使っていた時代ではリウマチには禁忌なんですね。使ってはいけない薬なんです。
教科書を読めば全部書いてあります。リウマチに柴胡を使うと悪化するから禁忌であるとね。僕のところではリウマチの患者さんのファーストチョイスは柴胡剤
です。全然違うんです。もうほとんど毎日みたいにリウマチの新患さんで、ステロイド漬けになっている人が見えるんですが、今の薬を止めて、どういう柴胡剤
を使うかと言うことが、選択肢になるというぐらい違う考え方です。それはエキス剤だからなんですね。そう言う場合、煎じ薬での柴胡は使いません。必ずエキ
ス剤です。だからエキス剤はエキス剤の良さがあるし、エキス剤なりの治療法があるし、エキス剤だから煎じ薬でもできない治療もできるんだと言うことです。
でも先程、白虎加人参湯の話をした様に煎じ薬は、エキス剤では全然期待できないような効き目もあらわします。竜胆瀉肝湯なんかもそうなんですね。エキス剤
ではちょっと予想できないような効果を現すんです。でも煎じ薬は効き目だけでなくて、副作用も激烈にだすので、本当に両刃の剣を使うような感じですね。も
う症状が劇的に消失する一方、肝機能がどんどん上がってきたりするような、ハラハラする様な激しい副作用を出しますね。煎じ薬の場合は、そういうところも
分かって使うかどうかと言うことになるんですね。
それと大事なのは繁用処
方なんですね。テキストに入っているのはツムラさんの処方だけ一応書いているんですが、ツムラさんをえこ贔屓している訳ではないんです。これが終わった
ら、他から出ている処方も追加しようと思っているんですが、実はこれ以外にエキス剤になっているものは、テキストが解っていればもうほとんど解ります。例
えば芍薬甘草附子湯はもう話しましたし、当帰芍薬散に附子が加わったと言うのも解りますね。桂枝加朮附湯が桂枝加苓朮附湯になってもあまり変わりないです
ね。そういうのを除いたら、ツムラさんから出ていないで他から出ている処方は10種
類あるかないかなんですね。もうほとんど網羅されている訳なんです。ただ骨格として順番に話していくんです。この意味を良く考えてほしいんです。要するに
繁用処方と言うことですね。
エキス剤となっている処
方と言うのは、いわば繁用処方なんです。繁用処方を完全にマスターしてしまったら、かなり難しい病気でも、ほとんど治療できるんですよね。だから繁用処方
なんです。僕のところに来ている患者さんと言うのは、もちろんすごく難しい人が多いんですよ。わざわざあんな山の中まで来るんですからね。ほとんど大学病
院クラスまで廻って、どうにもならなくて来るんですからね。東洋医学的治療もみんな受けて来るんです。それでも、さっき言ったエキス剤の繁用処方に、
ちょっと生薬を加えるぐらいのやり方でほとんどカバーできるんですね。この人は薬はどうしてもエキス剤では作れないから、まあちょっと特殊な処方を作るか
という人は年に数人しかいないんです。ここで何を言いたいかというとね。苦しそうな病気を、頭から特殊なものと見るなと言うことなんですね。そんな特殊な
病気はないんです。言ってしまえば、特殊に見えるのは自分の力がないから特殊に見えてしまうんですね。そこを皆さん最初に自覚しておいて下さい。自分で自
分にセーブをかけておいて下さい。そうしないとどういう事になるかと言うとね。こういう方がいくらでも居るんですね。ある軽度のところまでマスターしたら
というか、自分の中に狭い引き出しを持ってしまったら、その引き出しにない処方の患者さんが来た時、要するに薬に患者さんを合わせようとして、それが引き
出しにないと、患者さんのほうを特殊なんだと思うのです。そしてやたらと怪しい薬を探し出すんです。よく東洋医学会等の報告を見ると、聞いた事のない様な
処方がやたらと出てきますね。たった一人の人にしか使えない様な薬を使う様な、そんな病気がある訳ないのです。大部分の方は、それでたまたま出したら合う
かもしれない、まかり間違って良くなるかも知れないのです。それでどんどんぬかるみに入っていってしまう方が居るのです。せっかく勉強し始めて、途中から
山ほどある繁用処方を深めていくのではなくて、やたらとこの患者さんわからない、どこかの本に載っていないかと探し始めるんですね。そうすると経験の全て
が一例になってしまうんですね。自分の経験の蓄積にならなくなってしまうんですね。そうして判事物の様な薬を、あれだこれだと言うように使ってしまうんで
す。少なくとも難病の患者が集まっている僕のところでも、繁用処方以外にその患者さんに始めて処方する言うのは、年に数人ぐらいですかね。さっき言った白
虎加人参湯だって煎じ薬ですが、それだって繁用処方ですね。誰にでも処方する薬ですね。あなたにだけ出す薬と言うのは本当にないんです。ちゃんとできるん
です。だから解らない患者さんが来たとき、しめたと思って、よその引き出しではなくて、今までの自分の持っている引き出し、あるいは繁用処方の中から薬を
探し出してやっていけば、そこから探し出したものは、また別の患者さんに使えると言う事ですね。
たった一つの特殊な処方
を調合して治療していたら、それ一人で終わってしまうんですね。だからそう言う風にぬかるみに入らない様にね、今から頭にセーブをかけておいて下さい。
セーフガードしておいて下さい。とにかく解らない患者が来たときも、特殊な処方を探すんじやなくて、繁用処方にせめて何かをちょっと加える、あるいは繁用
処方どうしを合わせると言うことで何とかならないかと考えて下さい。ほとんどの場合、見つけ出せれば何とかなるんです。それだけは覚えておいて下さい。ま
だいくつかあるんですが、それはこの次お話しします。
麻杏甘石湯はこの問お話
ししました。あと麻杏薏甘湯です。これは麻黄湯の桂枝が苡仁に変ったものですね。麻
杏組が入っているので、一応、気管支炎なんかにも効くんですが、薬の方向性から言って筋肉関節に作用します。薬が他の薬を持って行く方向性については、こ
れは桔梗湯の時にお話ししましたね。
麻黄湯、麻杏甘草湯、麻杏薏甘湯、この三つはその典型ですね。麻杏湯の桂枝は皮膚に持っていくんだという話をしましたね。石膏はもうちょっと深いところで
すね。皮下よりもっと下の方の、水を貯めているその場所に引きます。要するに水があふれていたら散らし、水が足りないときに潤すという話をしましたね。非
常に面白い薬ですが、石膏剤が出てくる度に、少しずつお話ししていきます。そのうちだんだん雰囲気が解ってくると思います。苡仁は、この場合は筋関
節に作用するんです。ほとんどの本が水に作用すると書いてあるんですが、僕はずっと臨床的にやってきて、この苡仁はもちろん水にも作
用しますけれど、血に作用する部分が非常に大きいと思っています。現実に関節なんか血が滞っている様なところにも作用しますしね。それから、苡仁の作用にフリーラジ
カルを排除する作用があります。 苡仁湯の場合そう言う目
的で使うことはあまりないんですが、外から入ってきた病気の場合、単味ではフリーラジカルと言うものを排除する働きを持っているんですね。でもこれは面白
いもので、エキス剤でやるとあまり効かないんです。苡仁のそういうフリーラ
ジカルを除く作用と言うのは、実は煎じ薬でやってもあまり効かないんです。どうやれば一番効くかと言うと、他の漢方薬は普通に飲ませて、苡仁だけお粥に炊いて食
べさせるのです。煎じ薬では、煎じてその上澄みを使うんですが、どうもそれでは出ないのかな?もしかしたら。一番典型がイボ取りですね。見事に取れる人が
いますね。子供はいくら言っても掻くものですから、難しい場合がありますね。掻かない場合はうまくいくこともあります。大人の場合もうまくいくと取れま
す。美しいご婦人で頬に大きいイボを作って悩んでいたのが、2、3ケ月で見事に取れて、大変喜ばれた記憶があります。いろいろやってみたん
ですね。小太郎さんで苡仁のエキス剤を出して
いるんです。単味エキスで保険収載になっています。使ってみたんですが、非常に効き目が悪いんです。飲んだら効きまし
たと言うのは5人に1人ぐらいかな。5人
に1人ぐらいではよく効いたと言えないですね。煎じ薬を出
している人に、試しに苡仁を加えた事があるん
ですが、あまり効かないんです。結局いろいろやってみたところ、お粥に炊いて食べさせたら一番よく効きます。エキス剤を出している人に、別に苡仁を出してあげるので
す。大体、大人で15〜20gをお粥に炊いて、朝、晩2回
食べてもらうのです それで見事に良くなります。一番よく使っているのはアトビーの患者です。アトビーの患者で、ドロドロになって細菌感染を繰り返す人が
いますね。要するに外から入ってくる悪いものを追い出そうとする体の作用です。本来はそう言う排泄作用を持っている苡仁なんですが、丸ごと
煮て食べると、どうもそう言う作用が一番強く出るようです。しかし煎じ薬あるいはエキス剤として、エキス分になって、いわゆる上澄みになってしまうと、ど
うもその作用が弱くなるようです。その代わり、苡仁は他の薬を筋肉や関
節に持っていって、そこに水や血の停滞を起こしているような時に、(大抵は炎症を起こしているんですが)他の薬をそこに働かせるのです。苡仁そのものがそこに効
くのではない様ですね。という印象です。そうすると麻黄湯、麻杏甘石湯のほうは、気管支拡張作用の方が主ですが、麻杏薏甘湯の場合は、シュードエフェドリ
ンが主ですね。もちろんエフェドリンも入るんですが、麻杏薏甘湯として煎じると、シュードエフェドリンも出るんですね。データは見ていないんですが。
次に杏仁ですが、麻黄
湯、麻杏甘石湯の杏仁は気道をなめらかにする作用ですが、麻杏薏甘湯の杏仁は、関節の滑りを良くする作用があると言われています。
そこまでは僕も関節の中
に入って見てはいないので、解らないんですが、そうかなと思いながら見ています。ここのところは実はちょっと解らないんですが。いつも言うように、麻黄湯
は張仲景が作った薬ではないんですね。麻黄瘍は麻黄、杏仁、桂枝、甘草なのに麻黄湯と言っています。これは張仲景以前にあった処方名を残しているのです
ね。麻杏甘石湯、麻杏薏甘湯は薬味を羅列しているので自分で作った薬ですね。張仲景は真面目な人なので命名しなかったのですね。もしかしたら、この二つを
作るときは、杏仁を麻杏組として、それ程根拠なしに入れたのかもしれないと思われます。杏仁はいらなかったのかも知れないんですね。いずれにしろ麻杏薏甘
湯は、関節や筋肉に効きます。そして麻杏薏甘湯は陰病に使われます。陽病が入っていって筋肉、関節が痛くなってくるのは当然あります。でも陰病、特にリウ
マチなんかの一番初期に風邪がこじれたのと同じ様な症状で、発症すると言うことが非常に多いんですね。そして筋肉や関節の痛みとして出るのです。こう言う
ときに使うのが麻杏 薏甘湯です。ここのところを意識しながら使っていけば良いのですこれはこの附近のところは、この間から2度に渡って話しているのでこの辺で終わります。
次は呉茱萸湯ですね。こ
れも呉茱萸湯と名付けているのは昔からあるからですね。呉茱萸湯の本当の主役は、一番大事な薬は人参なんですね。でも、あたかもこの呉茱萸の作用、少なく
とも呉茱萸湯を飲みたくなるときの患者さんの訴え、医者の側もとりさげたい主症状は、呉茱萸に一番合致するので呉茱萸湯と言います。主として胃の症状と頭
痛と冷えです。この三つを訴える人は、どちらかと言うとうつ傾向の人ですね。外来で胃が痛い、冷える、頭痛がすると訴えると、まずうつ傾向と思いますね。
うつ傾向の人の一番典型的なものは、本来は太陰の虚です。更に言うと太陰の中で静かなうつは脾虚ですね。見ただけで悲しくて、本当にどうしようもないんだ
なと分かるうつは肺虚なんです。ちなみにこの虚という意味は、その人の脾が他の人より弱い、肺が同じ様に弱いと言う意味ですね。原因はいろいろありますが
ね。生まれつきそう言う場合もありますし、非常に衝撃的な事とかいろいろな事が、いわゆる不因外因と言われる様な事が原因となって、こう言うようにやられ
てしまう場合もあるんですが、太陰の虚で脾虚が基本にある人は、気がめいる型です。悲しいのが肺虚で気がめいるのが脾虚ですね。もっと解りやすく言えば脾
虚の人は心の状態をあまり言わないんですね。悲しいとも言わないし、気がめいるともあまり言わないんですね 身体症状だけを訴えるんです。要するに全体的
に機能が落ちているので冷えるのです。本来はこの三つの症状を生み出しているのは脾虚なんですが、表に出ている症状は冷え、胃痛、頭痛ですので、温めて胃
痛や頭痛を取る呉茱萸と言うのを配合してあるんです。大棗、生姜は姜棗組と言って、いろいろな処方に入っていて、ちょっとした補養薬ですね。大棗・生姜が
入っている理由は、前に言ったと思いますが、大棗と言うのはなつめですね。スナックバーなんかで出てくるやつですね。あれから種を外したのをスライスにし
たのが煎じ薬に入っています。食べると甘くておいしいです。生薬だけの焼酎漬けを作るときも、そのままだったらおいしくないので、大棗を入れて一緒に焼酎
漬けにしますが、大棗の甘味でおいしくなりますね。漢方薬の作られた時代と言うのは前に言ったように、食料が安定していなかった時代ですね。栄養失調が一
番基礎にあって、いろいろな病気が出てきた時代です。だからいろいろな薬に一応ベースのところで大棗生姜を入れると言うようなやり方があったのですね。だ
から、本来は大棗生姜が原法に入っていない処方があります。例えば四君子湯と言うのは、本来の薬味に大棗生姜が入って六味になっているんですね。六君子湯
は大棗生姜が入っているために八味になっているんです。それは姜棗組がベーシックなレベルで入っているんです。でも西洋医学的な分析をすると、確かに大棗
生姜で、プロスタグランディンが、それがどうなったこうなったといろいろな、そういう報告を出していますね。だからあながち意味はなくはないんです。でも
それだけを頭に入れておけば大棗生姜の入っている処方は、その二つを、だまって取り除けば理解が簡単なんです。大棗生姜の組み合わせで入っているときは、
その二味を取り除いて考えるのです。生姜だけの場合はそれが意味がありますけどね。そう考えると、呉茱萸湯は呉茱萸と人参だけなんです。そして、要するに
人参の作用で太陰の虚を持ち上げると言う事なんです。ところが、煎じ薬の人参と紅参の話をすることになります。紅参も正官庄さんの紅参と他の紅参があるん
です。右図のように大きく分けられますがそれぞれ作用が違ってくるんです。一番基本は、脾を補ってやると何が出てくるかと言うと、元気ですね。元気を持ち
上げる作用です。人間が生きている中心は、生命の源は腎気ですね。でもこれは生命そのものですね。これがなかったら、命は生まれてこなかったんですが、で
も生まれてきて毎日生きていると言うのは、食べてエネルギーを補給していることなのです。でも食べたものの全てを、要するにいつも言っているように、自然
界の全ての気を取り入れて、それを体全体にまわしているのが脾だから、脾が衰えていて他の臓がやられていないので、表向きは元気そうに見えるんです。でも
本当の元気はないんですね。強い症状は表にすぐは出さないんですが、だんだん他の臓がヘタってくるんです。その時にこの一番基本的な脾を補っていくのがこ
の人参の作用なんです。まあ今日は八時になったのでここで終わりにしたいと思います。この次は人参、コージン、この附近から講義を始めます。