第2回「さっぽろ下田 塾」講義録

 

おばんです。前回は導入 だけで、本格的なお話しが出来なかったのですが、今回からはどんどん本格的なお話しをします。ところで、札幌でも風邪が流行っていましたか?。私のところでは始め、風邪なのかな、どうなのかな?と思う症状の患者さんがたくさん来ました。普通の時の風邪なら入る場所が 決まっているはずなのですが、今回のはちょっと違いました。脈では問違いなく浮であるので、傷寒であり、外から入ったものです。しかし使う薬が違いまし た。前回お話ししました様に、普通の風邪なら葛根湯と麻黄湯で95%カ バーできるはずでしたが、今回は使う薬が違いました。普通はノドから入り、咳が出て、熱が出てきたりします。同じ症状でただ強かったり弱かったり、より深 くなっていたりするのですが、今回は症状がバラバラでした。今回使った薬はまったく違うんです。まとめると以下の通りです。

 

1 香蘇散(肝胆)   体がこわい、本人も風邪かどうか解らない。頭痛がすることもある。食欲もあんまりない。

2 参蘇飲(胃腸)   ちょっと熱が出て頭痛があって、とにかく胃が重い、肩が凝る、食欲がない。

3 啓脾湯()    いきなり寒気がして下痢、時に吐く。物を食べられない。

4 五虎湯()    いきなり激しい咳。痙攣性の咳で痰は少ない。(麦門冬 湯証は痰がからみ切れにくい咳)

 

全部違う風邪かなと、 じっと考えてみましたが、そうではなくて一つの風邪が体質的に弱いところに、いきなりもぐりこんだ風邪なんですね。香蘇散は肝胆に、,参蘇飲は胃腸に、啓脾湯は腸に、五虎湯は肺にと言う様にです。普通の傷寒 は、一番表面の浅いところから入ってくるんですが、そこのところを通過してしまって、いきなり深いところに入ってしまう。何故こういう形になってしまった かと言うと、おそらく受けた人の体質だろうと思います。いきなり深いところに入ってしまって、その人の弱いところに症状を出してしまったと思います。多分 四つとも同じものだったんではないかと思います。インフルエンザなんかではもちろんありません。非常にめずらしいです。今回は子供にはなかったのですが、 もしかして初冬期の下痢をおこす類のものが、大人に入ったのではないかと今になって思います。もう下火になっています。これから新たに流行りだす風邪があ るとすれば、多分インフルエンザでしょう。

今回からは本格的なお話 しをします。三重円の資料を見て下さい。(添付図1)

これはまず、薬がどの位 置にあるかを示しています。ちょっと間違っているところがあり、1,2処 方書き直す必要がありますが、これが常に基本になります。これは何を示しているのかと言うと前回お話ししました方証一致を一つの図に全部書き表しているも のです。一番上の太は陰陽五行で太陰の肺と脾です。 六経で言うと陽明病と太陰病です。少は陰陽五行で少陰の心と腎ですが、六経では太陽病と少陰病です。厥陰は陰陽五行で厥陰の肝です。六経では厥陰病と少陽 病です。

(2参照)そ れぞれの病気を治療する薬味と処方を、三重円の外側に書いてあります。内側がより補薬で、外側がより瀉薬です。太の例では左がより肺と大腸で、右がより脾 と胃に使われる薬味と処方です。少、厥の外側も同じ意味です。

(3参照)陰 陽五行の臓腑弁証で太陰だけの薬はAに書かれています。例 えば太陰と厥陰の両方に対応する薬はFに書かれています。Fの中の薬はより上に 行けば太陰よりになり、下に行けば厥陰よりになります。厥陰だけならEに なります。他のB,C,Dも同様の意味になります。六経の 処方、薬味もそれぞれの外側に配置されています。

方証一致と言うことは、 例えば六経弁証で外から入ってきた陽明病で、肺を中心に発症したらAか ら薬を選びます。又、臓腑弁証(陰陽五行)でよくある例で、肝腎両虚脾仮性実証と診断されたら、主にD付近から薬を選びます。あるいは、肝実脾虚肺虚と診断されたら、EとかA、 あるいはFあたりから薬を選びます。同時に逆もあるのです よ。例えば葛根湯の患者さんだなと思えば、Bの位置にある 薬なので太陽と陽明の合病です。あるいは、この人は八味地黄丸だなと思ったら、Dの 位置にある薬なのでその人は少陰の人なのです。要するにどちらからでも診断できるのです。六経弁証や臓腑弁証が出来たら薬が選ばれる。逆に薬がパッとひら めいたら、その人の病気の診断ができる。これが方証一致と言うことです。この図では三陰三陽がちょっと複雑になっています。 一般には六経弁証と陰陽五行が混乱していますので、かえって解りにくくしています。

(1参照)六 経弁証は、時計回りに回ってどこかで発症します。(4参照)臓 腑弁証だけなら陰陽五行で、図4のように相生相克関係等で 考えると解りやすいのです。しかし、陰陽五行と六経弁証を別々にすると、処方が解りにくいのです。この二つをまとめたのがこの図です。

(添付図1)追々お話しして行きますが、要点は六経弁証は外から入る病気の弁証で、 臓腑弁証は内から出る病気の弁証だと言う事です。外から入る病気は六経で通って入って来るのです。本当は古典にずっと書いてあるのですが、きちんと認知さ れていないのです。例えば資料の二枚目に書いてあります。難経の67難 に書いてあります。

(添付図2)「陰病は陽に行き、陽病は陰に行く。」と。67難にほとんど全てのことが表してあるのです。陰病とは病の事です。その 付近が混乱しています。例えば現代中医学では、「陰とは陰液の事である」等と言うから解らなくなるのです。陽というのは腑以下の表の事です。要するに陰病 とは、臓から出る病気が陽に出て発症すると言う事です。陽病とは、体表面から来る病気が陰に至って発症すると言う事です。これを現代医学的に言えば、陽病 は外から来る病気で急性疾患で主に感染症です。陰陽を体質の強弱等と言ったりするから混乱するのです。体が弱っていても、体力があろうとなかろうと、外か ら入る病気は陽病です。それは体表面から入ってくると言いますが、どのようにして入るかというと、六経で通って入るのです。一番入りやすいのは、呼吸器や 食べ物からです。だからほとんど陽明から入るのです。ごくまれに膀胱から入り、膀胱炎、昔は突然心膜炎がありました。ごくまれに胆道感染になることもあり ます。でもそれは非常に少ないのです。いずれにしろ、陽病は外から入って来て、六経で廻って行って陰に入って発症するのです。陰に発症するとは、表面より 陰ということで、臓までやられると大ごとなので、腑ぐらいに来て全身に影響すると発症します。これは六経弁証で考えます。この話しは後で詳しくお話ししま す。

陰病は臓から出発しま す。ほとんどの慢性疾患が全部そうです。これは皆さんもお解かりのことと思います。急性とつく病気と、慢性とつく病気は本質的に違うということはお解かり のことと思います。急性胃炎がこじれて慢性胃炎になることはないし、肝炎もそうですね。急性肝炎と慢性肝炎は別の病気です。例えばリウマチの初期にどんな に急性の症状が出ても、リウマチは最初から慢性疾患です。慢性疾患の特徴を最初からそなえています。慢性疾患は臓から出発します。そして体表面に出てきた ときに発症します。この場合は臓腑弁証をしなければなりません。これを内因と言い、逆に陽から来て陰で発症するのを外因と言います。

臓腑弁証と六経弁証と を、ごちゃまぜにしているから解らなくなるのです。内因外因と言いましたが、実は三陰三陽の三重円の図で説明できないものに不内外因と言うものがありま す。これだけはちょっと難しいので、その都度お話しします。どういうものかというと、例えば事故にあったり、手術でズタズタになっているのを言います。房 事過多や食べ物がどうかとか等は、意外に不内外因を生む程にはなかなかなりません。むしろどこかの臓がやられて、一般の陰病として現れることが経験上は多 いのです。要するに、三重円の図はそういうものだと言う事を頭に入れておいてください。これがどんどん理解できるようになると、方証一致が簡単に出来てき ます。

 

処方の解説に入ります。

三 黄瀉心湯

これはあまり使わない処 方です。私のところに通っている患者さんの1000何人の 中に、三黄瀉心湯を処方している人は一人位です。それはすごい瀉薬だからです。徹底した瀉薬で、単独で延々と使い続けるのはあまりよくないのです。臓まで 瀉してしまいます。私のところでたった一人使っている人も、半夏瀉心湯と半々に使っています。漢方の風邪の場合は、熱さましはほとんど使わず、温める薬し か使わないと言う話しをしました。しかし三黄瀉心湯は本当に冷やします。三黄瀉心湯を単独で使ったのは1O回 くらいでしょうか。本当に脳卒中の急性期で、意識が朦朧として、鼻血が止まらないという状態の時です。それでも薬として考えるのは非常に大切なことなので す。

瀉心湯とは黄芩黄連を含 むものを言います。強い消炎剤です。本当に冷やします。

どこを冷やすかと言う と、心を冷やします。ここで心について説明します。大部分の教科書は微妙に問違っています。東洋医学でいう心は、いわゆる西洋医学でいう心不全を起こす心 臓のことと少々違うのです。心不全の状態の心臓は、東洋医学では肺のことを言います。ここが大部分の教科書で問違っているところです。それは経験的に言え るのです。私は自分が経験したことだけをお話しします。心と肺の問題については、薬味を分析すれば説明できますが、それについてはそのうちお話しします。 心が衰えるとどうなるかと言うと、知的能力が衰えるのです。

要するに心とは何かと言 うと、一つは脳、それから冠血管です。冠血流や脳に行く血流、内頚動脈や椎骨脳底動脈、これらを支配しているのが心です。東洋医学で言う心とは、心臓の機 能の中の、いわゆる拍動している心臓にみられる、心不全症状を起こす心臓のことは言わないのです。心拍出にからまないのです。その他に、心には一切の熱い ものを生み出す作用があります。そうすると心を瀉さなければならない時は、どう言う状態かと言うと、心の熱が上がったとき、あるいは脳内に熱が上がったと き、又もう一つは心の子分である小腸に熱(炎症)を持つときです。

面白い話しがあります。 それらの他に、心には赤いものを生み出す作用があると言うことです。血液が赤いのは、実は心の力なのです。骨髄はどこの臓に属するのか、非常に問題があり ます。骨は腎に属するのは本当のようですが、骨髄がどこに属するのか、まだ私は完全には見極めていないのですが…。あまり骨髄疾患は、南富良野の山の中の 診療所まで、来てくれないのです。症例を診れば解るはずですが…。ただ一つ言えるのは、骨髄だけが血を造っているのではないということです。成人したら確 かに骨髄が血を造っています。しかし、生物の発生学上、一番最初に見えるのは心臓の拍動です。そしてこの段階で顕微鏡レベルで小腸が認められます。この段 階で骨髄はまだ認められません。このときに血は、どうも小腸で作られているらしいのです。ただどうやって造血作用が、骨髄に変わっていくのかと言うのは、 私もまだ解らないのです。要するに心の子分としての小腸が血液を造っていて、血の色は赤色になると思われるのです。三黄瀉心湯証と言うのは、要するに心そ のものが、何らかの形で直接に熱を上げているのです。炎症があってもよいのですが。心の熱が、心そのものの原因により、一番熱を上げるのは夏バテの時で す。真夏と言うのは、この図(資料)にある様に体の内も外も、衛気も営血も、心や小腸の支配を受けているとい うことを示しています。要するに体の中に、熱を生み出しやすい状態になっています。その時にあまりにも外気が上がり過ぎると、心がオーバーヒートして、い わゆる夏バテになります。オーバーヒートしてしまって、それが脳に行くとフラフラになるのですが、それはアッと言う間にやられたときですね。これがジワー ツと来た時にどうなるかというと、一般的に陰陽五行の関係で、腎が焼かれるのですが、もう一つ別の臓が別の理由で焼かれます。それは陰陽五行なしで診断さ れます。解剖学的関係です。図のごとく、肺が心の上に布団のようにかぶさります。心の下には胃があります。胃の裏側には脾があります。脾は先に言ったよう に膵のことですね。

ここでちょっと話が横道 にそれます。五臓六腑の名称は、杉田玄白が解体新書を訳していたときに、当てはめました。本来は五臓六腑の言葉が先にあって、杉田玄白が解剖した際、西洋 医学の解剖学的臓器に当てはめたのですね。本来は五臓六腑と言うのは、単なる一個一個の臓腑ではなくて、一つの臓器と関連する大きな機能群なのです。杉田 玄白はそれを理解しないで名称を当てはめてしまったため、間違えてしまったのです。更に臓器そのものも間違って、脾と訳したのです。皆さんは解剖実習をし たので解っていると思いますが、膵は探しにくい臓器です。大網に覆われていて見落としやすいです。いわゆるMi1zは 解りやすいのでこれを脾と名付けてしまったのです。それで混乱しています。脾は消化器系の総称なのです。ちなみに西洋医学で言う脾臓は、東洋医学では肝に 属します。話しを戻します。

心の熱が上がるとどうい う事になるかと言うと、一つは肺が焼かれ、うんとひどくなると肺の症状を出します。幸いなことにそんなにひどくないと、肺は外気と通じていて熱を放出する のですが、脾や胃はもろに熱を受けて焼かれます。これはもう五行相関ではなく、解剖学的な関係です。夏バテのとき、最初は頭がボーツとして食欲がなくな り、胃腸がやられて、熱で焼かれている状態です。夏バテでなくても心の熱を上げるのは何でしょうか。それは腎水の不足です。右図の様に理解してみると解り やすいのです。下にバーナーがあり、上にお釜があって水が入っている状態です。これで腎の水があれば安定するのですが、腎水が不足するとそれだけで空焚き 状態になり、オーバーヒートします。逆に心火がうんと弱くなると、体全体が冷えます。そして腎水があふれてきます。腎水が増えただけでも心火が弱ったのと 同じ状態になります。

お年寄りで顔が赤くなる 人がいます。それは腎水不足で空焚き状態になっているのです。心火がそんなに衰えないで腎水不足のお年よりは意外に元気で、そして顔が赤くなっています。 やっぱり心熱が相対的に上がった状態です。そういう時に、下手をすると脳卒中になることがあります。当然便秘気味になりますし、血圧も上がります。鼻血も 出たりします。こういう時に使うのが瀉心湯です。あくまで心の熱症状で、心が上がっているのです。だから補瀉は対立概念ではないという言い方をします。虚 実も対立概念ではないと言いましたね。そのことをよく理解しないと、何故最初に言った三黄瀉心湯をあまり使わないのか、という理由が解らなくなります。

臓器は本質的には最初が 実で1OO%です。生まれて成長し完成されたら、五臓はそ の人その人で100%です。だから臓の症状が何か出てきた ら、実際は必ず本質的に臓は虚していきます。人体の臓は大体二倍半くらいの容量があります。だから腎臓を一つあげてもよいし、冠状血管が一本詰まっても大 丈夫なのです。肝臓だったら半分あげられます。ほとんどの臓器はそういう余力を持っているのです。橋本病を西洋医学的に考えると解りやすいです。橋本病の 初期を考えると、橋本病は甲状腺がダメになっていくにもかかわらず、初期は甲状腺機能亢進の症状を出します。そして甲状腺の容量が少なくなっていきます。 臓が損なわれても・・例えば1O%くらい・・体の中に入っ て見た訳ではないので表現しにくいのですが、多分10%20%ぐらい損なわれても、おさまれば自然回復すると思われます。それより 損なわれるとだんだん減っていくのです。例えば心が90%ぐ らいになって、10%ぐらい損なわれると家来に症状を出し ます。小腸の症状、脳の症状、冠状動脈、頚動脈、あるいは椎骨脳底動脈の症状を出していきます。臓が虚していく時、腑が実している様な症状を出すのです が、実際的には臓が虚しているのです。最終的にダメになるかどうかは言い切れませんが、そこで腑を瀉していきたいのですが、瀉し過ぎるとまずいのです。

腑に作用する薬はやり過 ぎると臓までやられるのです。だから徹底した瀉薬を単独で延々と使うときは、どこかで少しセーブして使わなければならないのです。だから三黄瀉心湯は、や たら使う処方ではないのですが、急迫症状が出ているときにパッと短期間使って効かせることは出来るのです。

瀉心湯でぜひ説明してお きたいことがあります。最初に小柴胡湯で問題になったのですが、副作用の事です。黄芩を含む処方で、間質性肺炎との関係が言われています。ずっと私は漢方 をやってきて思うのですが、実際に間質性肺炎を起こしているのは、小柴胡湯、半夏瀉心湯、三黄瀉心湯あるいは他の柴胡剤です。

確かにいずれにも黄芩が 入っています。では、それでは黄芩が原因かと言うとそうではありません。黄芩だけが原因であれば、黄芩の中の何の成分が問質性肺炎を起こしているのか、現 代医学的に黄芩に含まれている何の成分が原因かつきとめて解明できるはずです。疫学的に確かに黄芩が入っているので、黄芩ではないかと思うのですが、これ は違うのです。違うのですと言ってしまいましたが、独断と偏見に近いのですがこれは大事なことなのです。生薬畑を見に行った人はいますか?。とても大事なことなので見に行ってください。もちろん製剤になったもの も見なければなりませんが、その元の生薬はどんな姿をしているのかを見て下さい。黄芩の花を見たことがあるでしょうか。すごくやさしい花です。こがね花と 言います。決して悪さをする様な花ではありません。例えばトリカブト、黄連は毒々しい花です。どちらもキンポウゲの仲間で猛毒です。その場で食べるとそん なに長くは生きていられないはずです。黄芩は何かを包んで運ぶ作用なのです。母親の愛情を思わせるような、そんな花です。ところが実はそれが問題なので す。これはいろいろな説があります。私は最初から思っているのですが、黄芩そのものが消炎剤としての作用を持っていると言うよりも、どうも消炎剤でも何で も、だだっ子でもあやすように運ぶのです。そして運ばれたものが悪さをするのです。黄芩と一緒でないと柴胡も黄連もそんなに強い効果も出せないし、悪さが 出来ません。

例えば黄連湯という処方 があります。これは半夏瀉心湯の黄芩が、桂枝に変った処方です。それだけなのですが、半夏瀉心湯は結構悪さをします。黄連湯も間質性肺炎として問題にされ ていますが、しかし、まず問質性肺炎は起こさないようです。実際に半夏瀉心湯は、瀉心湯としての心への作用がありますが、黄連湯は胃内への作用しかありま せん。要するに全身に運ぶのが黄芩なのです。柴胡も同じで、黄芩と一緒になって始めて、非常に強い消炎作用を示します。黄芩が入らないと、単なるトランキ ライザー的作用程度です。うんと少量の柴胡は、この前言ったように補剤というか、気力を持ち上げる作用があります。ただ生薬畑は季節季節で見に行くと、あ あこれはこうかなとか、いろいろ見えてくるものなのです。私の診察室には製品化した生薬が80品 目ぐらいはあります。解らなくなると取り出して眺めたり、臭いを嗅いだりするのですが、なんとなく解ってきます。だから製品としての生薬も、原生植物とし て見るのも大切です。

本来、漢方薬は食べ物な のです。元の食材としてどう言うものなのか見ることも必要です。三黄瀉心湯は、黄連黄芩二つの消炎作用を大黄で更に強めているのです。
大黄は大黄甘草湯のときお話しした様に、いわゆる中枢神経鎮静作用があります。黄連、黄芩、大黄の三つとも黄の字があり、三黄 瀉心湯と言うのですが、ちなみに瀉心湯は苦いです。「良薬口に苦し」というのはこのことから言われます。要するにこういうのを強めてあるのが三黄瀉心湯で す。解らない所があったらお聞き下さい。解っていることはお話しします。解らない所は解らないと言います。

 

小 半夏加茯苓湯

これもそんなにたくさん 使わない薬です。現実に使おうとしたら、首から上に出てくる浮腫に使います。本当に水腫です。まぶたの腫れとかに使います。炎症を伴わないものに使いま す。そのくらいですね。つわりに使うこともありますが、そんなに多くないです。これを理解するときに一番大事なことは、要するに水の病症の一番基本の薬だ と言うことです。水の病症の一番強いと言うか、一番はっきりした薬は別にあります。それは五苓散です。五苓散に勝る水の薬はありません。実は水にだけ働き かけるのは不可能なのですが、表向き水だけをターゲットにしている薬です。ところが小半夏加茯苓湯は、水の病症が起きる一番基本的パターンを意識していま す。

水は何の異常で病症を起 こすのか?という事を説明します。気血水は、よく弁証に使われますが、気血水だけで弁証するのは本当は間違いです。更に気血水を並べて書くのも間違いで す。三陰三陽みたいに、あるいは太陰、少陰、厥陰みたいに、気血水があるような書き方をするのは間違いです。気は生命エネルギーです。血は生命エネルギー を運びます。水は無生物です。前回にも気の問題はお答えしましたが、延々とお話しするのは時間がないので、ずっとこの講義が終わるまで、時間をかけて理解 していただきたいと思います。気は生命そのものです。気血水はすべて物質であります。決して気は架空のものではありません。

気は生命力そのもので、 人間が生きているその事が気で、気の力を受けて生命そのものを動かしているのが血です。この気、血の力で動かされている無生物が水です。だから、水は単独 で病むことは絶対にないのです。無生物だからです。気が病めば水が病む。血が病んでも水が病む。気が病めば血も病む。気が病まなくても、血単独で病むこと はあり、気血両方とも生命現象です。でも気が病めば血は影響を受けますが、血が病んでもわずかに気に影響するだけで、それもかなり経たないと影響が現れま せん。そうすると水の病症を起こすのは、一番基本は気が病んで水が病む事です。その事を意識しているのが小半夏加茯苓湯です。

半夏は気を動かす薬の代 表です。気の滞りが起きて水が滞ります。一応、茯苓は水を動かす薬の代表的なものです。もちろん水だけを動かすのは不可能です。
水を動かす薬は、全部、同時に気か血か、または気血一緒に動かしています。一応、茯苓とか白朮は水を動かす薬の代表です。要す るに何らかの気の滞りがあると言うのは、こころが関係します。こころは体と一体ですね。こころが病めば体が病む、体が病めばこころが病むと言う様に別々で はないのです。ただ精神的なものでも、水の滞りが起きます。物質的な気の滞りでも、水の滞りが起きます。どこかにガスがあるとか、あるいは、例えば肺の働 きがちょっと悪いとき、気の滞りが起きて水が滞ることがあります。いろいろな理由で気の滞りが起こったとき、普通は血の滞りが起きるのですが、血を通り越 して、いきなり気の滞りが水の滞りを起こしてくるのが、小半夏加茯苓湯の状態です。
血がからむと、下半身にいろいろな症状を出しやすいのですが、血が滞らないと、確かに上半身に水の病症を出しやすいみたいです ね。だから顔のむくみに効くのでしょう。これはあまり使われてはいない薬です。妊娠初期なんかもそうなんでしょうね。つわりなんかに使われるのは、そうい うことなのかな…。つわりの出る頃の御婦人の体は、まったく別の体に変るのです。要するにそれまでの体質が逆転するぐらい、劇的にかわりますね。当然そう いう時は、すごく激しく気の方が変動するのでしょう。多分、血は変動しないのかも知れないです。血の変動よりも気の変動の方が激しいので、その為に水が上 がってくるのでしょう。どうもそういう感じがします。とにかく生命そのものに大きな気の滞りが起きたとき、水だけがパッと反応した時に小半夏加茯苓湯の証 になります。あまり多くは使いません。腹証について。三黄瀉心湯のところで出てきましたが、衝脈のこと(鳩 尾から上に突き上げる症状)ですが、これは又、別の機会に お話しします。

振水音(空気と水が一緒にグルグルッと鳴る)についてですが、水を動かす薬は皆これに似た特徴があります。水の病症か なと思ったら、必ずお腹を触ってみる事です。これも繰り返し慣れないとダメです。最初の時、気の話しを聞かれましたが、タッチングを繰り返すことと返事を しました。ずっと学びに来ている方は解るのですが、まだ術者の気の力が足りないと簡単には出せないのです。気の力が出てくると、腹に触った瞬問、ガスが動 き出すようになるのですが、最
初のうちはかなり触らないと出てきません。慣れないうちはうんと触っているうちに、何だか解らなくなってしまうことがあるので すが…。長い問、繰り返し触っているうちに解る様になりますし、動かすことも出来るようになります。慣れてくると、手を置いただけで空気と水が一緒に動 き、グルグルッと鳴り、振水音が出てきます。茯苓合半夏厚朴湯証もそうですね。非常に特徴的にグルグルッと空気と水が一緒に動くのが感じられます。最初の うちはうんとなでて、やっと一回聴こえるぐらいですが。覚えていられるとよいと思います。

 

蒿 湯

これもあまり使わないん ですが、大事なんですね。何故あまり使わないかと言うと、それはさっぱりした病症があまりないという事です。茵蒿湯はかなり強い瀉薬だ からです。単独に使い続けるとかなり危険です。現実にずっと使っている人は、他の薬、例えば小柴胡湯等と一緒に使ったりします。小柴胡湯と茵蒿湯を併せて使うと、非 常に強い胆管系の消炎作用になります。それでもまだ、大柴胡湯よりマイルドかなと言う感じです。茵蒿は非常に強い利胆作用 です。利胆作用があると、肝だろうかと思ってしまいがちです。胆は肝に属しています。しかし、利胆作用は肝の作用ではないんです。大抵の場合混乱していま すね。帰経が書いてありますね。脾胃肝胆と。一番先にあるのが主作用です。だから脾に主に作用します。

東洋医学的に肝胆が全身 にどう作用しているか、私もまだ完全に説明できないのですが、肝だったら解りやすいですね。化学工場としての働き、あらゆるものを合成分解することです。 これは西洋医学の考え方と同じです。それともう一つ、交感神経系としての働きが肝の作用にあります。そうするとなると、胆汁分泌能は脾に属します。何故、 脾に属すかというと、胆道が膵に開いているからです。胆汁と言うものは、本質的には食物が腸管に入ってきた時に応じて出て来て、消化を助けるのです。胆汁 は本来消化に預かるのです。だから胆汁の色は黄色なのです。胆道の胆汁分泌能がやられると、黄色になってくるのです。脾の色は黄色だからです。茵蒿湯はここに作用するの です。この作用は経験的に、ウルソより間違いなく強いです。結構、茵蒿湯でなくて茵五苓散として使っている のが多いです。よく使っているのが原発性胆汁性肝硬変です。大低あの病気は、診断がついてから何とかならないかと言って来ます。北海道に戻って以来、ずっ と診ている患者さんが何人もいますが、いまだに一つも進行しないで皆元気に通ってきています。こういう患者さんが年々少しずつ増えてきています。ほとんど 茵五苓散を使っています が、あまり黄疸なんかも出ていない場合は、梔子柏皮湯を使っている人もいます。この茵蒿という非常に強い利胆 作用のあるものと山梔子ですね。山梔子もこれまた大変な薬ですね。

これも最初のうちで覚え ておいてほしいのは、漢方の中で副作用を出す数少ない薬の一つが、この山梔子です。柴胡や黄連も黄芩と一緒になると副作用を出しやすいのですが、それと熟 地黄です。漢方の中でたった二つだけ中枢神経に影響を与える薬があります。他の薬はほとんど影響を出さないのですが、その一つが実は山梔子でもう一つは天 麻です。この二つだけは脳に直接影響を与えます。ほかの薬は中枢に作用するのは体からのフィードバックです。天麻は中枢を抑制する作用ですが、山梔子は網 内系を活性化するのです。
脳内のミクログリアなどを賦活することで、中枢神経に症状を出すことがあります。天麻はうまく使えば使いやすいのですが、山梔 子の中枢に対する作用は邪魔になることが多いのです。ミクログリアを刺激するのはあまり良いことではないのです。たまにあります。お年寄りに山梔子の入っ た製剤を出すと良くあるのは、幻覚が見え出すんですね。最近、「天井に蛇がとぐろを巻いているのが見える」等と言い出したりしたことがあります。何人かい ましたが、山梔子の入らない処方に切り替えたらおさまりました。結構あります。脳に対してもそうですから、いろいろ他の部分にも、網内系を賦活するみたい な急迫反応を起こすことがあるのです。それを見越して使う場合もあるのですが、それを解っていないと大抵は患者さんの信用を失うことになります。さりげな くいろいろなものに入っています。実は加味逍遙散みたいなものに入っていますね。もちろん、黄連解毒湯なんかも入っていますね。あるいは温清飲なんかも 入っていますね。あと清肺湯や辛夷清肺湯にも入っています。意外とさりげなく入っています。ひどい時は飲んだ途端に、震えが止まらなくなったり、結構すご い症状を出します。消炎作用として、どうしても急迫反応を起こしても使いたいときは、もしかしたら強い反応が出ることもあるよと患者さんに十分納得させて 使うこともあります。もしあまりひどい様だったら、連絡してくださいとか、半分にして飲んでくださいと言うと、大抵は減量すると良いことがあります。それ を目的として出した場合は、減量したりするのは良いのですが、目的としないで出した場合に、急迫反応が出たときは止めなければなりません。その茵
蒿と山梔子に大黄が加 わっています。もちろん一応ターゲツトとしているのは、肝のクツパー細胞等に働きかけて炎症を抑えることです。それから胆汁がうっ帯していたらそれを取り 除きます。大黄も強い薬です。茵蒿はそれ程でもないです が、大黄は山梔子のそういう作用を増強させます。そんなに沢山使う薬ではありませんが、非常に大事な薬です。

腹証についてですが、こ れも繰り返しやってください。強く押すと痛いです。強く押さないで下さい。術者の気が高まってくると、胸脇苦満や心下痞があれば、手掌を置くだけで患者さ んは顔をしかめます。あるなと思ってあらためて触ってみます。そっと触ってそっと力を入れて行っても、本当に胸脇苦満や心下痞があれば、必ず手で触りま す。そっと触るのが良いのですが、それが心もとない時は、左手掌を置いて、そのうえを右手拳でトントンと軽く叩くと、デファンスが左手掌に触れます。軽く 叩くのですよ。強く叩くと誰でも痛がります。それが慣れてくると、触るだけでも患者さんが顔をしかめますし、こちら側の手にも感じられます。

 

甘 麦大棗湯

これも結構使ってはいる んです。非常にさっぱりした薬ですが、今までの薬と違って、副作用がないから使いやすいのです。何に使うかと言うとヒステリ一に使います。漢方は全部食べ 物です。この処方の薬味は特に今でも食べられる食べ物です。甘草の輸入制限が問題になった事がありますが、それに一番反対したのがお菓子メーカーです。輸 入制限は起きないでしょう。甘草が一番使われているのはお菓子の甘味のべ一スです。浮小麦と言うのは普通の小麦とは違います。もちろん麦芽とも違います。 幼弱な麦です。まだ完全に熟さない段階で刈り取った麦の実を、脱穀して水に浮かべて、浮くものを浮小麦と言います。熟してしまったら単なる小麦です。水に 浮くと言いますが、基本的には食べ物です。大棗はなつめで食べ物です。甘草の作用は非常に難しいんです。直接には心とか脾とかに作用します。甘草は12経に作用します。薬味の帰経から単純にはいえないんですが、やっぱり甘 い食べ物で、ずっと甘味でつられて入っていくのです。これが大きいんですね。甘は肝に通じます。本来は甘味と言うのは脾ですが…。でもヒステリーを起こし ている状態は、実は肝気が上がって脾が抑えられている状態です。普通は肝気をなだめる薬を使うんですが、抑えられている脾の方の甘味を上げることで、意外 と肝気が抑えられるんですね。疳の虫と言うのはこの事なんですね。甘いものをあげると案外、子供がヒステリーを起こしているのが納まります。大人の場合も 大体そうみたいです。芍薬甘草湯は、肝の方を和らげて脾に働かせてあげる。甘麦大棗湯は脾に働いて肝を満足させてあげる作用です。意外と使っています。急 性のもので、過去に一番効いたと言うのは、やっぱり子供です。昔、子供一人で留守番をしていた家が火事になりまして、多分その子が火遊びをしたんじゃない かと思いますが、二歳ぐらいの子供だったと思います。親が農家で、火事だと思って家に帰ったら、もう火に包まれていて、手立てがないと思っていたら、その 子が火の中から這い出してきたのですね。新築したばかりの家だったのですが、子供が助かった時にはもう、親は「もう何も要らないと思った」と言っていまし た。農家ですので納屋にしていた古い家に移って、ニコニコして生活していましたね。その後1週 か2週して、母親がその子を連れてきました。あれ以来、夜 になると泣き叫ぶと言うんです。夜驚症ですね。やはり暗くなってくると火が見えるんですね。そういう時にトランキライザーを使うとおかしくなるみたいで す。2週問くらい甘麦大棗湯を飲んだだけで全く良くなりま した。大人の場合は、過呼吸症候群の時に非常に良く使います。過呼吸症候群に関しては、暗示的なものではないかという問題もあり、難しい面もあります。一 回治まれば安心してしまうんですね。これさえ持っていれば大丈夫と言うように、半分ぐらい暗示で効くのです。トランキライザーなんかよりはるかに効きま す。トランキライザーはどんなに早くても、30分ぐらいし ないと効き始めないようです。こういう薬は味で既に効き出します。だから飲んで5分 ぐらいして効いてきます。一回効いてしまうと本当にしめたものです。あとは、これを持っていなさい、おかしくなりかかったら飲みなさいとか言えば、もうそ れだけで安心して生活できる人がいます。結構これは良い薬です。何よりも副作用がないんです。トランキライザーみたいな、変な副作用を出さないんです。非 常に味の良い薬です。なめてみると解ります。非常に飲みやすい薬です。飲みにくい薬もいっぱいあるんですが、飲んでみれば甘麦大棗湯は飲みやすい薬である ことが解ります。子供も飲んでくれます。ずっと飲み続けても何の害もありません。そういう薬ですね。最初は、その時期その時期に感じたことをお話ししま す。遅れた人はビデオをよく見ておいてください。


質  問1

「手術前の患者さんの緊 張感を取るのに、甘麦大棗湯はどうでしょうか?

回  答

ヒステリーと言うのは実 体のないものに対する反応です。手術前の緊張感なら、ストレスがあるので、効く可能性のあるのは四逆散ですね。

質  問2

「抑肝散はどうでしょう か?

回  答

抑肝散は四逆散の変方で す。抑肝散は神経過敏に使われますが、小児の場合は「母児共に服せ」とあるように、実は母親の精神的影響を強く受けて、子供が神経質になっているときに使 います。本当は母親にも飲ませたいなあ、と思うようなときが抑肝散証です。子供が単独で、外的要因で、一時的にヒステリーを起こすのが甘麦大棗湯証です。

 

質  問3

「熱性痙攣について?

回  答

外から熱邪が入って来て 心に入るので、強いて言えば瀉心湯と思います。でも瀉心湯とか黄連解毒湯を飲ませても、。効き出す前に治まる方が早いですね。それだったら坐薬のほうが早 いですね。

 

質  問4

「熱性痙攣の予防法は?

回  答

予防としては、高熱がこ もるのを防ぐような処置として、風邪の初期から麻黄湯や大青竜湯等で、必要以上に熱がこもらないようにする事です。完全に早い時期に熱を発散させると、発 熱しても簡単に熱性痙攣を起こさないんじゃないかと思いますが、現実的には熱性痙攣のときは、すぐに親が坐薬を使ってしまうので、実はあまり経験がないの です。そこのところは何とも言い切れませんね。

 

質  問5

「半夏瀉心湯の長期投与 について?

回  答

半夏瀉心湯は三黄瀉心湯 とちょっとまた違うんですね。一方で瀉しながら、冷えすぎないように、補薬が含まれています。多分長期投与は大丈夫だろうと思います。

質  問6

「尺沢反応について?

回  答

例えば脾と肝が争ってい るとき、左天枢に圧痛があります。同側の尺沢を圧すると痛がりますが、ずっと圧してから再び左天枢を圧すると、圧痛が減少ないし消失します。そうすると左 天枢圧痛は、単なる圧痛ではなく、肝と脾が争っていることが診断できると言うことです。右天枢圧痛は、肝と肺が争っていることを示します。そうであること を確かめるために、右尺沢反応を使います。どうも有り難うございました。

 

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