難病治療のあれこれ

症例報告要旨

漢方理論と鍼灸理論を統一して初めて、東洋医学は素問、霊枢、難経、傷寒論を整合する一大治療体系を獲得する。

それに基づく治療思想は西洋医学とは根本的に異なる部分が多く、又、これ迄の東洋医学とも異なる部分を有する。

しかし多くの難治性疾患の治療は、この思想体系による治療によってこそ可能となる。

本来はベッドサイドでしか伝え難い診断法であり治療法であるが、スライド等を通して症例検討をしながら、その一端を示してみたい。◆ほとんどの難病に対して東洋医学は西洋医学を上まる効を挙げ得る。(治療行為よりも患者の自然治癒力の関与が大きい)


◆全身及び臓腑の陰陽虚実を弁証し、随証施鍼、随証処方を併用する。

◆二十四節気及び土用に伴う衛気営血の変化との「ねじれ」の中から患者の臓腑の盛衰を読み取る。

◆通常人問には一つの病いしかないと認識する。アレルギーは全て一つの疾患、膠原病、自己免疫疾患、悪性腫瘍等も一つの病いの表現として特定の部位に出現する事が多い。例えば眼疾患、耳疾患、肝疾患、抑鬱症、膝関節症が全く一つの疾病として治療可能の場合もある。

◆抑える治療はしない。生体の治癒力を促進させる為、結果として一時症状悪化させる事もある。(瞑眩に当たる。)しかし、むしろそれを期待して施療する。肝炎、アトピー、リウマチ等でこの傾向は著明で、柴胡、香附子、竜胆、芍薬等の投与と積極的な鍼治療がその引き金となるようだ。

◆ステロイドは外用も含めて夕一ミナル以外には使用しない。例えばRAやアトピーは、ステロイドを使用していて治る例は軽症のみである。つまりステロイドを用いているにもかかわらず治癒力が働いて治るのであり、重症例では治癒力を損なう為、用いれば用いるほど悪化する事になる。免疫抑制剤、抗癌剤も廃止する。NSAIDは座剤と貼用のみ(肺で受けるのと脾で受けるのとでは副作用が異なる)

◆禁煙は治癒力を高める大きな要素、天日塩を用いるのも良い。膠原病は一番痛い関節を良く動かす。関節穿刺、関節注射はしない。(大関節は必ず完治する。)アトピー、喘息は外気浴が大切。除去療法はしない。癌を筆頭にこれら難病への治癒力を最も高める要素は喜びを抱きながら病と共存する事にある。

◆医療の根本は人間が病いを得ても(痛まない人はいない!)満足して生き満足して死ぬ(死なない人はいない!)事を支えるところにある。Cu r eよりCa r e、Ca r eよりh e a l i n gを意識しよう。


現在治療中の難病

各種膠原病、自己免疫疾患、SSPE、アトピー疾患、喘息、末期癌(手術不能例、転移、術後再発例)顔面痙攣、顔面神経麻痺、帯状庖疹後神経痛、ハニックディスオーダー反復例、各種精神疾患e t c…。

症例1 S.M.42才♂(札幌)レイノー病

平成5年冬から下肢の蒼白変化と疼痛出現。近医受診するも次第に増強。

9年2月S医大病院入院。血管造影の結果手術をすすめられている。その間プレタール、アムロジン、ズファシラン等投与さるも変化無し。(しびれ感と痛みが交互に出現する状態)9年2月10日初診

著明な四肢の冷感(下肢は蒼白)と発汗(四逆の状態)舌苔淡黄、脈診上も脾虚肺虚肝陽上亢と診断

一側の太陰絡欠、対側の陽明絡欠。陽陵泉曲泉にリング鍼。陰陽きょう脈反応欠に円皮鍼をそれぞれ置鍼。直後にしびれ感は軽減、冷感も自覚的に減少(他覚的には変化無し)

抑肝散加陳皮半夏(ツムラ)10g 紅参(正官庄)3g 黄耆末(内田)4g 加工附子末(サンワ)0.5g 3×から開始(後に附子3gまで増 サフラン1g加)

4月中旬~耳j鍼にて王不留行種子を用い交感、肝陽足部の4点に配穴。以後自覚症状も急速改善。

7月6日しびれ再出現。肝腎両虚脾の仮性実証に変化を認め一側の少陰絡穴、対側の太陽絡穴、陽陵泉、曲泉、曲池、尺沢にリング鍼、維脈反応穴に円皮鍼を置鍼(耳鍼はd o)、症状消失。処方は当面変えず経過を見る。

8月13日脾の仮実傾向消えた為、曲池、尺沢の置鍼を廃止

維脈→lきょう脈に変更(耳鍼、処方はd o)

10月20日他覚的に冷感少し出現

抑肝散加陳皮半夏(ツムラ)7.5g 当帰四逆加呉茱萸生姜湯(オースギ)9g 加工附子末(サンワ)3g サフラン(松浦)1g 3×に変更。冬に向かうも悪化無く経過している。

症例2 S.K.14才♂(札幌)SSPE(5才発症)

皮鍼 少陰、太陽絡、曲池、尺沢、維脈(きょう脈)

耳鍼 肝陽、交感、般、胃、脳頂皮質下(咳点、内鼻、外鼻e t c)

処方 大承気揚〈ツムラ)4.5g 七物降下湯(オースギ)6g 紅参末〈正官庄)3g

天麻末(松浦)2g  葛根湯加川キュウ辛夷(トーヨー3.4g)

症例3 K.T.20才♂(富良野)大腸癌〈OPe不能)肺転移、膀胱瘻、

人工肛門設置状態 

皮鍼 太陰、陽明絡、陽陵泉、曲泉、昆倫、復溜、帯脈

処方 十全大補湯(オースギ)12g  田七人参(松浦)1.5g

フェロミア1T

症例4 S.R.9才♂(旭川)突発性難聴(アレルギー性鼻炎、アトピー)

H8.6.30右 H8.7.4左発症 H8.9.6初診

皮鍼 少陰、太陽絡、陽陵泉、曲泉、維脈→きょう脈

耳鍼 内耳、外耳、腎上腺、枕

処方 抑肝散(オースギ)5g 六味丸(ツムラ)6g後、

葛根湯加川きゅう辛夷(トーヨー)4g  柴胡清肝湯(ツムラ)6g

症例5 Y.M.5才♀(帯広)喘息(3~5才の間 常に入退院)

皮鍼 太陰、陽明絡、陽陵泉、曲泉、衝脈

耳鍼 交感、気管、内分泌、対屏尖、腎上腺

処方 神秘湯(トーヨー)2g 黄耆建中腸(トーヨー)2g  EM200m g

麻杏甘石湯(オースギ)1.2g  小青竜湯(オースギ)l.6g  アルビナ(100)

症例6 M.N.68才♀(富良野)OPLL

皮鍼、小陰、太陽絡、陽稜泉、曲泉、きょう脈鏡

耳鍼 交感、腰、腰痛点

処方 加味逍遥散(オースギ)7.5g 疎経活血湯(オースギ)8g 加工附子末(サンワ)3g サフラン(松浦)0.3g 四逆散(ツムラ)2.5g 芍薬甘草附子湯(サンワ)1.5gアルファロール1u g

症例7 B.M.37才♂(音更)顔面痙撃、7年発症

脳外e t c受診。休業すると良いが再開すると悪化。

皮j鍼 蕨陰、少陽絡、曲池、尺沢、きょう喬脈

耳鍼 交感、口、額、面頬区、眼

処方 柴朴湯(ツムラ)7.5g 抑肝散加陳皮半夏(ツムラ)7.5g 四逆散(ツムラ)2.5g  芍薬甘草場(トーヨー)1.5g頓用

症例8 K.K.35才♀(札幌)メニエール症、ぶどう膜炎

西洋薬、ステロイド点眼効無く、失明の可能性指摘され来診。

皮鍼 太陰、陽明絡、陽陵泉、曲泉、きょう脈(アレルギーと診断)

耳鍼 交感、外耳、内耳、眼、肝陽

処方 抑肝散(大杉)7.5g 越婢加朮湯〈大杉)7.5g ヨクイニンエキス(コタロー)6g サフラン(マツウラ)1g

現在、抑肝散〈オースギ)7.5g 十味敗毒湯(オースギ)6g サフラン(マツウラ)1g

症例9 K.K.45才♀(岩見沢) 頸椎捻挫(不眠、頭痛、頭重、耳鳴)

北大総合診療部より紹介、テルネリン、ミオナール、ディアセパン、メチコバル、ニトラゼパンe t c投与。

皮鍼 蕨陰、少陽絡、曲池、尺沢、天りょう、えい風、きょう脈

耳鍼 交感、頚、肩こり、肩関節、腰、胃、垂前、腰痛点、肩痛点、神衰点

処方 抑肝散加陳皮半夏(ツムラ)7.5g 香附子(ウチダ)4g 酸そう仁湯(ツムラ)7.5g サフラン〈マツウラ)0.6g

症例10 S.H.51才♀(滝川)橋本氏病、NIDDM、RA、乾皮症

青魚、キシロカイン、インドメサシン等でショック発現。オイグルコン、効ヒスタミン剤、グルコバイ等ぽぽ全ての洋薬にて発疹や鼻炎出現。インスリンもアレルギーを呈し使用不能、外用薬にも過敏症。

H9.3.12.旭川厚生病院より紹介。

皮j鍼 太陰、陽明絡、昆倫、復溜、衝脈ーきょう脈

耳鍼 交感、風渓、内鼻、外鼻、腎、上腺、眼

処方 胃苓湯(ツムラ)5g 葛根湯加川きゅう辛夷(トーヨー)5g 紅参末(五官庁)3g芍薬甘草附子湯(サンワ)1.5g頓用  紫雲書外用(夏期、清暑益気湯を麻黄剤と代替)

症例11 0.M.65才♀(占冠) RA(プレドニン使用)

H8年8月発症。ムーンフェイス状態で痛みは増強し来院。

皮鍼 蕨i陰、少陽絡、曲池、尺沢、陽陵泉、曲泉、きょう脈

耳鍼 膝、膝関節、内分泌、腎上腺

処方 葛根加朮附湯(サンワ)7.5g 抑肝散加陳皮半夏(ツムラ)5g 紅参末(正官庄)3g 加工附子末(サンワ)2g サフラン(マツウラ)0.6g 通導散(ツムラ)2.5g  芍薬甘草附子湯(サンワ)1.5g ハルシオン1T ボルタレン、カトレップ外用7,5 l 0.840210027.78.0 9.541913033.98∴0 9.637013143.0

症例12  0.T.43才♂(江別)悪性リンパ腫

強いオ血を認む。3ケ月で社会復帰。

皮鍼 少陰、太陽絡、曲池、尺沢、維脈

処方 芍薬甘草附子湯(サンワ)1.5g  桂枝茯苓丸(トーヨー)9g  紅参末(正官庄)3g 十全大補湯(オースギ)12g サフラン(マツウラ)0.8g

症例13 T.M.48才♀〈旭川)PBC、喘息

現在TTT16.7 ZTT29.0 γ一g l 29.7% T.B0.6 TB0..6 GOT43 GPT43 ALP380 γ-GTP95 LAP191 AFP(-) 抗ミトコンドリア抗体160x WBC2400 H613.0

数年間データ及び自覚症状は軽減傾向

処方  柴朴湯(ツムラ)7.5g 子柏皮湯(コタロー)7.5g 紅参末(五官庁)3g 黄耆末(ウチダ)6g

症例14 N.E.56才♀(札幌)頚肩腕症候群

約10年間労働不能も初診後3ケ月で外国旅行可となる。

皮鍼 蕨陰、少陽絡、曲池、尺沢、(昆倫、復溜) 帯脈〈きょう脈)

耳鍼 肩、肩関節、頚、交感、肩背痛点

処方 抑肝散(オースギ)7.5g 葛根加朮附湯(サンワ)7.5g 抑肝散加陳皮半夏(ツムラ)2.5g  芍薬甘草附子湯(サンワ)1.5g ロヒプノール0.5T

症例15 Y.T.50才♀(富良野)PSS

旭川厚生病院皮膚科より紹介。現在指先の硬化を残すのみとなる。

RAH 5120x  CH5028.4 CRP 0.03 抗核抗体160X

H6,11.6 赤沈7/17 ムコ蛋白117

皮鍼 太陰、陽明絡、陽陵泉、曲泉、云りょう、えい風、きょう喬脈

耳鍼 交感、垂前、神衰点、頚、肩こり、肩、肘

処方 桂枝茯苓丸(トーヨー)4g 当帰四逆加呉茉莫生姜湯〈オースギ)10g 抑肝散加陳皮半夏(ツムラ)8g 加工附子末(サンワ)2g 紅参末(正官庄)3g サフラン(マツウラ)1g ウロステート2T ケラチナミンコーワ、スチックゼノール、カトレップ外用

症例16 K.E.61才♀(雨竜) 左大腿骨頭壊死

Op eをすすめられるも拒否し来院

皮鍼 少陰、太陽絡、曲池、尺沢(陽陵泉、曲泉)、維脈(きょう脈)

耳鍼 膝、膝関節、骨盤、交感

処方 五積散(ツムラ)7.5g 抑肝散(オースギ)5g サフラン(マツウラ)1g 麻黄附子細辛湯(サンワ)4g 加工附子末(サンワ)3g ボルタレン外用

症例17 K.K.19才♀(釧路)精神遅滞、てんかん様発作

しばしば狂暴発作を生じる。

皮鍼少陰、太陽絡、曲池、尺沢、衝脈

処方 大黄牡丹皮湯(ツムラ〉7.5g

症例18 S.K.31才♂(帯広) 脳性麻庫、巨大結腸症

食後30分間吐き続ける様になり来院。

皮鍼 太陰、陽明絡、昆倫、復溜、維脈

処方 桂枝人参湯(ツムラ)7.5g


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