第9回 漢方ベッドサイド講義


症例1 : 37歳・女性(頭痛、幻暈、肩こり)
 今年5月に、頭痛、幻暈、肩こり出現。呉茱萸湯を処方し、頭痛は改善。
 幻暈、肩こりは続く。当帰芍薬散とコージンに変方したが、肩こり、疲れ、冷えの症状が続いている。
 出産は一人。外傷なし。

  ● 舌診 : オ血あり。
  ● 脈診 : 肝と肺の争い
  ● 原穴反応 : 肝(そんなに緊張感がないのだけどね)
  ● 腹診 : おなかを診た第一印象は当帰芍薬散。
          ちょっと腹直筋が張っていて、わずかに下に水がある。
          押すと腹直筋が抵抗してくる。今のお薬は効いているけど、まだ少し緊張が残っていて、
          それが時々上がってきて、幻暈、頭痛になる。
          四逆はない。おなかも温かくない。全体にしっとりしている。これは本物の冷え。当然、胸脇苦満もない。
          当帰芍薬散の場合、腹診でオ血点に反応が無く、舌裏のみオ血がみられることがある。
  ● 鍼 : 患者さん拒否

(患者さん)
  どうして、このような症状がでるのか知りたい。
(下田先生)
  いつも、身構えている体質。もって生まれてきた性格。
  マイペースでいければいいのだけど、どうしても頑張ってしまうので、身体に余計な力が入ってしまう。
  それで、胃腸の働きや身体の中の悪い物を素直に外に出す力などが落ちてしまう。吹き出物もそのせいです。
  肩の力を抜いて仕事が出来れば良いけど、出来なければ今の症状は続く。
  身体がガチガチになっているので、肝気を発散させ、肝と肺の争いをなくした方が良いかもしれない。
  コージンは止めて、当帰芍薬散加附子に香蘇散の併用をすすめる。
  肩に背負い込む人で、いつも構えているのだけど、何かこれだけはと思っていることがあるのですか?

(患者さん)
  今、娘と二人暮らしだが、娘が高校出るまでは頑張ろうと思っている。

(下田先生)
  自分で背負い込む人だから、東洋医学だけで治すのは無理。傷を自分で掻きむしりながら、
  傷を治して下さいといってるようなもの。診察中だけでなく、友達、職場でも自分の心をガードして、
  決して見せないようにしている、それが身体を重くしている。ここのI先生に話を聞いてもらうことの方が有効でしょう。


症例2 : 22歳・女性(無月経、体重減少)

 1年間で12kgの体重減少がある。生理が止まってしまった。
 婦人科的には下垂体ホルモンが出ない、エストロゲンがでない状態。現在、ホルモン療法をしている。
 現在36kg。十全大補湯、補中益気湯も効果ない。

  ● 舌診 : きれい
  ● 脈診 : 命門(非常に珍しい)、腎ももちろん強いけど。だから、ホルモンの異常もでてくる。
          西洋医学的にも東洋医学的にも難しい症例です。
  ● 腹診 : 腹直筋がきれいに張っている。小建中湯そのもの。

(下田先生)
  寝汗はかかない?
(患者さん)
  かきません。
(下田先生)
  小建中湯に麦芽糖の水飴を加える。体重が戻らないと本当の意味で治らない。
  腎が中心になるときは、子供の時と老人の時の時期だけ。
  閉経したと考えるより、初経以前の状態に戻ったと考える方が自然です。
  体型からも幼児体型に戻っている、子供の小建中湯の時期に身体が戻っている。
  この病気の人は、精神分析すると、小学校高学年か中学1年の段階である。大抵の場合、性体験はない。
  性体験する年齢からUターンして子供に戻ったような感じ。


症例3 : 24歳・女性(上半身ほてる、下肢の冷え、動悸)

 来年、看護学校受けるストレスか、症状出現。柴朴湯処方し軽減した。

(下田先生)
  顔が赤くなったり、胸のへんがドキドキしましたか?
(患者さん)
  はい。でも、薬を飲んで良くなった。

  ● 脈診 : 肝と脾と肺が争っている。要するに、肝気が上がって脾が抑えられると、
          脾のガードが悪くなって、衝脈で突き上げることを繰り返している。
          肝をなだめ、肺の流れを良くしてやるだけで良くなる。柴朴湯には、脾に対する薬は人参しか入っていないけど。
          今の薬、どんぴしゃ合っている。
  ● 腹診 : 胸脇微苦満あり。柴朴湯では、心下がばーんと張っていることもあり。
          緊張が原因と思われる人には、肝経を巡らす薬(柴胡、竜胆、香附子)を含む薬からchoise する。


症例4 : 24歳・女性(潰瘍性大腸炎、にきび)

 21歳から潰瘍性大腸炎で治療受けている。今年の3月からにきびが出てきて、生理前に悪化する。
 自分で清上防風湯、荊芥連翹湯を飲んだが無効。今年9月初診、当帰芍薬散とヨク苡仁の処方で改善傾向。

  ● 舌診 : 当帰芍薬散の舌

 大腸炎による下痢を防ぐ治療のため、本来、腸から吸収しなくてもよい余計なものまで吸収しちゃうことが原因。
 でも、これは生きていくために仕方がないこと。腎の働きが良ければおしっこから粛降できるのだけど、
 弱いため、それが十分出来ていない。
 腸管内で外から入ってくる悪い物をはじき出す作用のあるヨク苡仁を使うのは正しい。
 但し、エキスは効果弱いので、鳩麦(ヨク苡仁生薬)をお粥にして朝に作り、朝晩の2回食べると良い。
 肺のモーターを回して肺から腎への移行を促進してやるために越婢加朮湯を1/3か2/3量を加える。


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