症例 1 68歳 男性  病名 頚椎OPLL

主訴  歩行時のふらつき

経過  平成9年10月 転倒後、手足のしびれ生じた。OPLLのための頚髄症と診断され、12月1日 頚椎脊柱間拡大術を受ける。しかし、その後も歩行時のふらつきが残っている。

現症  両上下肢深部腱反射亢進、Hoffman 反射+。筋力は概ね4。

(下田先生) 一日の内で特に症状の強い時間はありませんか?

(患者)ありません

(下田先生)元々、すごく頑張ったり、逆になまけたりする人ではありませんね?

(患者)はい

(下田先生)動悸や息切れはありませんか?物忘れは?

(患者)ありません

(下田先生)今の症状は上半身に強いですか?

(主治医)いいえ、歩行障害が主です。しかし、病的反射は上半身にでています

(下田先生)夜はよく眠れますか?寝覚めはよいですか?

(患者)はい

(下田先生)もう、診断はついているんだけど

脈診 脈は、心です。少陰の人の典型です。しかも、心の。おそらく小陰心経で帯脈です。この人は、こじれていても、本人の中で一時すごく滅入っていた時期があったかもしれないが、今は精神状態が良い。少陰の方が精神状態が良く前向きになっていると、こんな風にキリリとした感じになる。

腹診 小腹不仁なく、腎ではない。胸脇苦満もなし。心下痞硬あり、ちょっと冷えている。

舌診 水毒ではありません。水毒(水帯)なら水が余って舌に圧痕ができる。これは気帯、気虚です。舌が大きく腫れているのに圧痕がなく気帯です。舌の裏の静脈が怒脹してオ血です。手術のせいか?。

(下田先生)まったく便秘ありませんか?

(患者)やっぱりあります。3日に1回です。

経穴 顔が赤く、上気している。心火が少し上がっていて、本当は虚しているのに、空炊きの状態です。一番パット浮かぶ処方は温清飲。でも本人の言っていることを考慮すると、防風通聖散でもいいかなという気がする。防風通聖散証はお腹がバーンと張ってることが多く、お腹に気の停滞がある。

左 太鍾(腎経、絡穴)、足臨泣(胆経、帯脈の反応穴です)、陽陵泉(胆経、合穴)、通里(心経、絡穴)、支正(小腸経、絡穴)、曲池(大腸経、合穴)

右 飛揚(膀胱経、絡穴)、曲泉(肝経、合穴、補母穴)、帯脈(胆経、帯脈の反応穴)

上記に皮内鍼をとる。

[右下腿外側に色素斑をみつけて] やはり、防風通聖散と温清飲の半々ぐらいだ。防風通聖散は、その薬味からみても本来皮膚疾患に使用するものである。腎の流れで行って、肝胆の流れに皮膚疾患があり、これだけで三経にまたがる説明がつく。(少陰から始まり帯脈を介して腎経、肝経、肺経の三経にまたがるの意味)そして、三経を橋渡しできるのは帯脈と陰陽の維脈ですが、帯脈は三経全部が緊張していて緊張していないようにみえる。一方、維脈はどれも緊張していないので、維脈と帯脈は似ているようにみえる。

(下田先生)足が冷える?

(患者)いえ

(下田先生)[鍼治療後、歩行と起きあがり動作が改善したのを確認して]鍼灸治療を続けて、悪かった時期に落ちた筋力の回復訓練を続けていけば、かなり良くなる。老化と追っかけっこになるから、雪はねでもなんでもやった方がよい。処方は、温清飲3包分に防風通聖散2包分の割合で附子を0.5gから漸増させていく。オ血は、単なる血熱かもしれないので、躯オ血剤はいれない。

この方は、望診だけで少陰+帯脈と分かります。三経すべてが緊張しているので緊張していないようにみえる。でも、キビキビしたしゃべり方は少陰の特徴です。とりとめのなく色々なことを言うのは厥陰の特徴、ゆったりと話すのは太陰の特徴です。それと、この人を支配しているのは赤です。

(主治医)顔色が赤いからですか?

(下田先生)違います。顔色が赤いのは上気しているから、気の上衝です。でも、衝脈ならもっと激しい症状が出るから、やっぱり帯脈です。この人を支配しているのは赤ですが、この赤色は随分経験を積まないと、皆さんには見えてこないものです。

加工附子、修治附子はほとんど同じで、体を温めて生命力をつけます。炮附子はしびれ、痛みをとるだけで、生命力にも関与しないし体も温めない。冷えが全然ないのに加工附子、修治附子を使えば、熱が上がってしまう。

帯脈は一番こじれているから、症状全部はとれない。帯脈をず~と治療していると、ある時、帯脈から外れてくる。帯脈から外れる時は、三経に渡っている症状から一経がとれて二経になる。今の患者さんが二経になるとしたら、当然、胆の部分が無くなる。そして、本来、温清飲が一番中心の薬になる少陰心経、帯脈はきょう脈に移り、少陰と厥陰だけのものになる。最終的には維脈に入り、鍼がいらなくなる。


症例2 女性 36歳 腰椎椎間板ヘルニア

主訴  腰痛、右下肢痛、右股関節痛

経過  平成10年4月 ヘルニア摘出術(L3/4)受ける。しかし、術後2カ月で術前の症状が元に戻る。今は右足関節痛や排便で痛みが増す。

現症  SLR(-)、両L5、S1知覚低下あり。腱反射正常。右四頭筋筋力低下。

検査  MRIではヘルニアの再発像なし。

合併症 自律神経失調症で加味逍遥散、附子、デパス

    子宮内膜症でプレマリン、ドールトン内服中。

(患者)2年前、野菜青果の仕事をしていて、だんだん腰、足がだるくなってきた。婦人科から2種類の薬をもらっていて、その薬を間隔をあけて飲んでいる。飲んでいるときは良いけど、飲んでいない期間は非常につらい。昨日から生理になったが、下半身がガーと脱力してつらかった。今朝は、頭がもやがはったようになっていたが、昼になり少し楽になった。

(下田先生)一日の内で一番元気なのは?

(患者)朝も夕も悪いけど、朝起きたときが一番つらい。

(下田先生)夜は眠れますか?

(患者)ここ二日間ぐらい眠っていない。

(主治医)診察のため、デパスを止めてもらっているから

(患者)昨日は、坐っているのも寝ているのもつらかった

脈診 非常にむずかしい………。最初に語りかけてくる脈は太陰にあるんだけど。

(下田先生)生理で症状が変動するということだから、本質的に奇脈の中で胞中と絡むのは衝任督帯だけど、督脈はまず普通の場合考えられない。任脈はこの方のように自分から一生懸命症状を訴えることが出来ないほどひどい。衝脈と帯脈を行き来していると思う。パーと上がってくるのは衝脈の症状だし、脱力感は下にさがる帯脈の症状。だから、おそらく生理前は衝脈で、生理中は帯脈に入る。この方はしゃべり出すと明らかに緊張感とイライラ感、悲嘆感がでてくるので、やはり衝脈ですね。

お通じは?

(患者)いい

(主治医)最初は檀中に強い圧痛があった

(下田先生)最初は任脈が絡んでいた可能性があるけど、今は衝脈でしょう。結婚していない?

(患者)しています。子供が二人。

(下田先生)子宮内膜症はいつからひどい?

(患者)2年前の春から。生理を止めたけどダメで、少し様子をみましょうということになった。

腹診 あまり所見がない。オ血もなし。

(下田先生)お通じは?

(患者)便秘はありません。

舌診 きれいだね

経穴 少陰かな??。でも、少陰の人の良い時とも悪い時とも雰囲気が違うんだな。(少陰経をさぐりながら)少陰がでてこないんだな。生理で症状が変化したり、ホルモン剤で変化したりすることから、胞中と一番関連して衝脈と一番関係するのは少陰ではあるけれど。少陰腎経かな?。手術したのはL3/4ですね? L3/4は本来、太陰のことが多い。

でも本人の訴えは L4/5,Sでしょう?

(主治医)はい、知覚低下はL5,S1です。

(下田先生)そこは少陰なんです。結局、余計な手術をされ変なものが加わって、それからホルモン剤飲まされて、要するに全部合わせると医原病ということですね。

物がつかえたりすることは?

(患者)あります。なんか、ウッとする感じがします。

(下田先生)体の芯は冷えますか?

(患者)はい。でも、薬飲むようになって以前よりは冷えなくなりました。

(下田先生)どうして、ホルモン剤を飲むようになったのですか?

(患者)生理痛と生理不順のためです。生理の1~2日目に、お腹にさし込むような痛みと肛門の突き上げるような痛みが強かったので、生理周期を整える目的で先生が処方してくれました。

(下田先生)今はどうですか?

(患者)生理時のさし込むような痛みはなくなりました。

【テープ入れ替えのため録音されていない部分あり】

(下田先生)やっぱり腎ですね。なぜ、太陰の感じが出ちゃったかというと太陰がいじくられちゃったからで、さらに少陰の症状をホルモン剤で和らげちゃったから非常に分かりづらくなった。

この方を見た瞬間、太陰かと思ったけど、少陰→衝脈→尺沢、曲池に流れている。

左 大鍾(腎経、絡穴)、気舎(胃経、衝脈)、通里(心経、絡穴)、、曲池(大腸経、合穴)

右 支正(小腸経、絡穴)、飛揚(膀胱経、絡穴)、三陰交(脾経、衝脈反応穴)、尺沢(肺経、合穴)。

上記に皮内鍼をとる。

(患者) (歩行して)さっきまでは足を引きずっていたのに、軽い!)

(下田先生)(軽くなった歩容を見て)たぶん、この治療を続ければホルモン治療もいらなくなる。

基本処方は、当帰湯3包に附子0.5gから増やしていく。附子を増量していくと、どっかで右半身、下半身の症状がとれていく。たぶん3.0gまで増量すれば症状がとれるでしょう。

結局、opeしなくても良いのにopeされ、ホルモン剤飲まなくても良いのに飲まされ身体がすっかりガタガタになった。でも、まだ間に合います。ホルモン治療を止めて東洋医学的治療を続けていき、子宮内膜症も完治できれば他の症状全部が良くなる。ふだん感じている症状はこの処方で和らぐ。次の生理の時の生理痛がひどくなるが、耳鍼を加えることにより乗り越えられる。最初の2~3回はつらいけど、それを過ぎれば耳鍼がいらないくらい楽になる。耳鍼の位置を教えておきます。内分泌点、内生殖器点、外交感点、耳迷根、縁中です。

今日は取らなかったけど、下半身の症状がもっと強い場合は、腎愈、膀胱愈に円皮針を刺すと良い。



漢方トップページへ戻る